学校の帰り道で
帰り道で笹山が待ち伏せしていた。
「今日こそカエルに戻りたいんだけど」
「他当たってちょうだい」
「ちょっとキスしてくれるだけでいいんだってば」
「うんうん。わかったから、他当たれ」
両手をポケットに突っ込んだ笹山が後ろを追いかけてくる。バイト先に着いてこられるのは面倒、だけど時間もないのよね。
「間宮ってばーカエルに戻って池に飛び込みたいんだってー」
「あんたねえ、そういう妙な発言してるからアンリちゃんに引かれるのよ」
笹山大好きなアンリはカエル発言以降、微妙に距離を置くようになった。最初はふざけてキスしに迫ってたけど、近頃じゃホントにカエルになったら嫌、と笹山に近づきもしない。
「上手くやりゃアンリちゃんのキスでとっくにカエルに戻れてたでしょうが」
「俺は間宮がいーの、」
笹山は黙ってりゃそこそこなのに、最近じゃ“カエル男”としてある意味一目置かれている。
この前図書館横でやってた、“いつカエルに戻れるか”トトカルチョ。
ばかだろ。
「まーみや、」
「ウザい」
「キスだけでいいのに」
「それが嫌なの」
大体キスしたからってカエルになるわけないだろう。笹山妹にも会ったことあるし、カエルがなんで大学通ってんのよ。
つーか、キスもしたことないのかその歳で。
「…笹山あんたさあ、」
「んん?」
「まさかファーストキスまだとか言わないよねぇ」
まさかねぇ、と笹山を伺い見る。顔はそこそこなんだから、そこそこの経験は積んでんでしょ、ファーストキスなんていちご味かなんかですませてんのよね。
「まだですよ勿論」
「…マジ?」
「キスしたことあったらカエルに戻れてんだろ」
なーにいってんの、と、首をかしげ笑う笹山の、私は脛を蹴った。
「いでっ」
「…ざけてんじゃないわよ」
むかつく。
バッグを抱え直し、うずくまる笹山を置いてバイト先に急いだ。間宮、と呼ぶ声がしたけど私は知らないよ。