飲み会の帰り道で
飲み会の帰り道のことだった。
「俺、実はカエルなんだよね」
同じ方向だから送るという、笹山がジーンズのポケットに両手を突っ込んだ、いつものポーズで唐突に言った。
「は?」
私は聞き返す――何て言ったこの男?
「悪い魔法使いに人間にされちゃってさ、しょうがないから人間として生きてきたけど、そろそろ本来の姿に戻りたいわけ」
「…はあ、」
笹山、そんなに飲んでたっけ?と思い返すも、飲み会で笹山と絡んだ覚えがない。知らんところで飲まされてたか、…なら送ってもらうどころか送らないとだめだろうか。
「酔ってんねー、笹山」
「至極俺はマジメです」
「実はカエルの王子様でした、って?」
「いーえ、平凡なカエルだよ。やっとしっぽとれたとこ捕まって、魔法かけられたんだよね」
そういや私は笹山の妹見たことあんだけど、と思ったけど言わないでおく。酔っ払いめ、実はメルヘンチックだったんだな。外見に似合わず。
「へー、そりゃ大変だわ」
「でしょ? だから元に戻るのに協力してくんない?」
「うーん、いやよ」
即答で断った。
「えー、何でよぅ、」
「悪い魔法使いの魔法を解くなんて方法一個しかないじゃん。私カエルとはキスしたくないわ」
「人助け、いやカエル助けだと思ってさー」
「嫌よ。王子様ならまだしも、パンピーじゃあね」
「…けち」
「けちで結構」
笹山は右手で自分の頭かき回して、またポケットに突っ込んだ。
「間宮に断られたら誰に頼めってんだよ」
「アンリちゃんとかに頼めば一発よ」
笹山を大好きな彼女の名を出せば、渋面作って私の前に立ちふさがった。
「…間宮がいいんだけど、」
「私はカエルとはキスしないから」
見上げた笹山の情けない顔、ストロー突っ込んで空気吹き込んでふくらましてやろうかしら、って言ったら顔を青くした笹山が慌てて引いた。
「やめろソレまじ辛えんだからっ…あ、でもマウスToマウスなら大歓迎だけど」
「しないわよ」
私は笹山を追い越し、すたすた歩く。酔っ払いなんて相手にしてらんない。
後ろでけちー、と叫んでる笹山は放置した。