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ホントバナシ

作者: 国見遥

もう一人の自分に出会ったことはありますか?


実は、僕はあるのです。


嘘のような本当の話。


とある夏の暑い日の話。


「昨日スーパーで服買っていただろう」


「駅で一人でなにしてたの?」


「なにか嫌なことでもあった?公園で一人でブランコなんか漕いで」


僕は自慢ではないが、外に出るのをあまり好まない。友人と一緒で無い限りは外になんて出ない。この夏の糞暑いのに、一人で外なんてほっつき歩くわけが無い。それらは全く身に覚えのないもので、自分では断じてなかった。


前々からそういう話は聞いていた。僕の知らぬところで僕が出没するという話。どれもそれは僕ではなく、僕に非常によく似た人がいるという結論に至ったわけだが、僕は出会ったことが無かった。


ある日、友人四人で地元で有名な心霊スポットに行こうという話しになり、夜八時に家を出た。その心霊スポットは山の中にある古びた民家で、昔そこで家族が一家心中しただのといったありきたりな逸話のある廃屋だ。僕たち四人は怖いもの見たさでそこに行くこととなったのだった。


友人二人は懐中電灯を持参し、準備万端。僕とAは準備不足もいいところで、暗闇に入ると全くといっていいほど周囲が見えなかった。廃屋に入ってからはそれが顕著に現れ、無造作に置かれた家具などに幾度と無く躓いていた。


僕たち四人は最初キャーキャー大騒ぎで楽しくやっていたのだが、只ならぬ雰囲気に少しずつだが恐怖が足音を立てていき、次第に皆無口になっていった。


二階に上がり一番後方にいた僕は、皆が入っていった別の部屋に一人で入っていった。そこには、窓からの月明かりで照らされた古びた一枚の絵があって、それが異常に気になったのだ。


「あの絵をちょっと見てみよう。その後であいつらを脅かしてみるか」


などと気楽な考えだった。絵に少しだけ近づいた僕は、月明かりで照らされたその絵がやけに気に入り、もっと近づこうとした。


そのとき、すぐ後ろに人の気配。


僕はとっさに後ろを振り返った。


そこには、僕がいた。


こちらをじっと見ている。


その僕は僕にこう言った。


「それ以上は駄目だ」


この僕はなにを言っているのだろう。目の前には僕がいて、その僕が僕に何らかの忠告をしている。それは明らかに不自然で、不気味で、鳥肌が立った。


「誰、お前」


そう言おうとした刹那、懐中電灯のライトが僕の視界を奪った。僕がいる部屋の入り口から友人Bが僕にライトを向けていた。


眩しくて目を細めながら、


「眩しいって」


などと言うと、


「なにやってんだよ」


と友人B。


「いや、この絵がなんか気になって」


というと友人は絵にライトを向けた。すると、


「うわっ、おまえ、そこ床抜けてんじゃん」


友人の言葉に思わず床に目をやると、暗がりであるが、床から下の階が見えた。


「えぇ!?」


もし僕があのまま絵に近づいていたら大怪我をしていただろう。もしかしたら、頭でも打って死んでいたかもしれない。


あの時、もう一人の僕がいなかったら、僕はどうなっていたのだろう。もちろん目の前にはもう、もう一人の僕は既にいなかった。


あとから聞いた話だが、肝試しに来た人が数人、あの絵を見ようとして近づいて、穴から落ちてしまい、大怪我をしたことがあるらしい。


彼は、僕を助けてくれたのだろうか。


それから、ときどき、僕が危ない目にあいそうなときなどは彼の声が聞こえたり、不可解なことが起こったりと、まるで僕を守るかのような出来事が起こる。


ドッペルゲンガーに出会うと死ぬと言われているが、僕の場合は命を助けてくれている。彼は一体何なのだろう。ただの他人の空似なのか、ドッペルゲンガーなのか。ただ一つ分かっていることは、あれから五年以上経っているにもかかわらず、当時と変わらぬ姿の僕を、たまに見かける人が、今でもいるということだけである。

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