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砂あそび

作者: 栗軒

初投稿です。短いものを書いてみたくて思いついたまま書いてみました。色々と拙いかと思いますが、最後まで読んでいただけると幸いです。

 公園の砂場で、二人の子供が砂あそびに興じていた。

 私はベンチに座ってそれを眺めていた。

 午後三時半。ならばあの子達は小学校一、二年ぐらいだろうか。はたまた幼稚園児かもしれぬ。

 冬だというのに二人の子供は夢中になって砂山を作っていた。寒さなど気にならないらしい。

 別に羨ましいことはない。おそらく私もあれくらいの時分には寒さなど気にしていなかったはずだ。いや、そうでもないかもしれぬ。どうでも良いことだ。

 とにかく、私は寒い。

 先程自販機で買った缶コーヒーを喉に流し込んだ。

 僅かに食道が、次いで胃があたたかくなった気がした。しかしそれも一瞬のことで、直ぐに冷えた。

 缶を持つ(てのひら)は、皮膚の表面だけで言えば熱いぐらいあるが、それ以外は寒い。

 手も、

 腕も、

 胸も、

 腰も、

 脚も、

 頭も、

 そして心も、寒い。

 暖まらぬ。


 ぼうっと二人の子供を眺めていると、砂山が完成した。二人は手を叩いて喜んでいた。その喜びもつかの間、子供達は砂山の根元を掘り始めた。対面して互いに掘り進めていく。

 今度はトンネルを作るらしい。

 二人は懸命に掘っている。

 しかし、作業の途中で、トンネルは開通することなく崩落した。

 砂山は陥没し、崩れた。

 そうだ。それではダメだ。

 その砂山には支柱がない。土台もない。

 私は実際のトンネルに支柱があるのか、土台があるのかなど知りもしないが、とにかくダメなのだ。支柱がなければ、土台がなければダメなのだ。それではトンネルは作れない。

 私は再びコーヒーを喉に流し込んだ。コーヒーは大分温くなっていた。

 寒い。

 

 二人の子供は砂山が崩れたというのに、楽しそうに笑っていた。

 何が楽しいのだろう。

 私にはわからなかった。

 二人の子供はきゃっきゃと笑いながら、今度は崩れた砂山を踏み潰しだした。

 山が平らになるまで踏み潰した。

 子供達は笑っている。

 何が可笑しいのだろう。

 私にはわからなかった。

 子供の時分にならわかったのだろうか。

 わからない。

 

 砂山が平地に戻ると、子供達は再び山を作り始めた。

 またトンネルを作るのだろうか。

 子供達は、今度は一々砂を踏みならしながら山を作り出した。

 それでもダメだろう。

 そこには支柱がない。

 土台がない。

 それでは、

 完成しない。

 踏みならしながら作った山が完成すると、子供達はやはりトンネル制作に取り掛かった。

 私は少しだけ缶に残ったコーヒーを口に含んだ。完全に冷えていた。

 寒い。


 しかし、トンネルは無事開通した。

 子供達は満面の笑みを浮かべた。

 二人して手を叩いて笑っている。

 私もつられて笑った。

 こういうこともあるのか。

 私は少しだけあたたかくなった気がした。


 完成したトンネル付きの砂山を、子供達は(しばら)くの間大事そうに眺めていた。

 すると二人の母親らしき女性に呼ばれ、二人は砂場を去っていった。

 公園には私と砂山だけが残った。

 山は完成したのだ。

 支柱がなくても。

 土台がなくても。

 そうか。

 私はまだ諦めなくてもいいのかもしれない。

 私は大分楽になった。


 私は完成した二人の傑作である砂山を眺めた。

 私は笑んだ。

 その瞬間、トンネルは崩落し、砂山はどさりと音を立てて崩れた。


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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。 淡々と書かれているんですが、訴えようと意図されたことがシンプルに伝わってきて、最後まですっと読むことができました!
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