第一章ex
「おい起きろ」
アルスは気絶したクラリッサの両肩を掴み揺さぶるが全く反応はない。
「ったく! 他人が近くにいるときの戦い方なんて久方ぶりで忘れてたぜ」
起こすのをあきらめたアルスはもう一度クラリッサを地面に寝かせてからから手を離す。
先ほどまでは龍との戦いの騒音で満ちていた空間が現在は物音一つしない。
そんな状況だからいきなり現れた男の声と拍手はこの閉鎖空間によく響く。
「お見事、素晴らしい太刀筋だった」
その青年はいつの間にかアルス達が来た道から表れ、岩場に腰をかけ拍手を送っていた。
「いつから見ていた?」
「彼女が龍に一撃を見舞った時からかな」
青年が腰を上げアルスに近づく。
「ハッ、王様直々に監視たぁご苦労なこった」
「違う違う。ただ純粋に龍と人の戦いを見たかっただけだよ」
最後はあっけなかったけどね、と王様と呼ばれた青年は苦笑しながらこぼす。
「さて、僕のお願いは果たしてもらったから次は君の番だな」
「おいおい……あなたまでこれを龍だって言うのかよ? こいつはただの蜥蜴だぜ。ちょいと進化しすぎたみてぇだがな」
「どちらにせよ、うちの危険を取り除いてくれたことには変わりないから別に構わないよ?」
「俺が気にすんだよ。俺はあなたから『龍を倒してくれ』って言われたんだ。約束を果たさずに決闘を行うのは俺の流儀に反する」
「やれやれ、君は強情だなぁ」
肩をすくめつつ首をする青年だが、その顔はうっすらと笑っている。
「分かったよ。出来るだけ早く次の約束を考えとくからさ、今日はとりあえず宿に帰りな」
「いつ頃会いに行けばいいんだ?」
「また殴りこまれても困るからこちらから従者を送るよ。宿は僕が勧めたとこをとっているんだろう?」
「ああ。部屋が空いてんのに他んとこまわるのもめんどかったからな」
「りょーかい。あ、そうそう、彼女も同じ宿に泊ってるみたいだから連れ帰ってあげてね」
「……めんどくせぇな」
「そう言うなって。君が気絶させたようなものだろう」
へいへい、とアルスは荷物を担ぐようにクラリッサを軽々と肩に乗せ、来た道を引き返し始める。
「乱暴だなぁ。そんなんじゃモテないよ?」
「大きなお世話だ」
そう吐き捨て、アルス達は帰路についた。




