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異世界転生したのに前の転生者にやり尽くされていた件  作者: ベルナルド
三章 迷宮都市パラド編

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第五十八話 夢を語る者と夢を買う者

 

 一番最初に動いたのは、《理想郷》の剣聖マルコだった。


「悪いが――斬り伏せさせてもらう」


 腰へ差していた剣の柄へ手を掛けた瞬間、それまで静かだった男の周囲から膨大な魔想が噴き上がり、夕陽に照らされていた広場の空気が熱を帯びたかのように僅かに揺らいだ。

 速い。

 そう思った時には、もう剣が抜かれている。


「――烈火業滅剣」


 横薙ぎに振り抜かれた刃から、燃え盛る炎が一気に広がった。

 ただ炎を飛ばしたわけではない。

 剣から放たれた魔想そのものが炎へ変化し、巨大な斬撃となって地面すれすれを走りながら、俺たち全員をまとめて呑み込もうとしている。


「ほう!」


 それを見て。

 なぜかタケルだけが嬉しそうに笑った。


「俺が相手をしよう!」


 地面を踏み砕く勢いで前へ飛び出す。


「おい、正面から行くな!」


 俺が止めるより早く、炎の斬撃がタケルへ迫った。

 普通なら避ける。

 少なくとも俺なら絶対に避ける。

 だがタケルは右手を前へ伸ばした。


「《転》!」


 掌が炎の斬撃へ触れる。

 その瞬間、タケルの腕から放たれた魔想がマルコの斬撃へ流れ込み、二つの魔想がぶつかり合うように炎の流れが大きく歪んだ。


「なに?」


 マルコの目が僅かに開く。

 炎は消えない。

 だがタケルへ直撃するはずだった斬撃は、その身体を避けるように左右へ割れ、そのまま広場の石畳を焼きながら後方へ流れていった。


「攻撃そのものへ魔想を流したか」

「いい技だ!」


 タケルは燃え残った炎を振り払うように腕を振る。


「ならば、次は拳で確かめさせてもらおう!」

「火龍の戦士か」


 マルコが剣を構え直す。


「話には聞いていた」

「俺も剣聖とやらとは初めてだ!」


 タケルが駆ける。

 マルコも迎え撃つ。

 拳と剣が正面から激突し、金属同士を打ち付けたような鈍い音とともに空気が大きく震えた。


「君の相手は、俺が務めよう」

「望むところだ!」


 その横ではローラが杖を掲げていた。


「それなら――」


 杖の先へ光が集まる。


「《聖光(ホーリーレイ)》!」


 白い光が一直線に放たれた。

 狙いはゴルド。


「ふん」


 しかし、ゴルドは避けようともしない。

 その前へ巨大な男が一歩出る。


《理想郷》の一人。


 不動のラフェル。


「《鉄壁(アイアン・マン)》」


 男の全身から魔想が広がり、その皮膚が一瞬で鈍い銀色へ変化した。

 次の瞬間。

 ローラの聖光が直撃する。

 光が弾けた。


「やった――」


 そう思った直後だった。


「……え?」


 光が消えていない。

 ラフェルの身体へ当たった聖光は、そのまま砕け散るのではなく、まるで硬い鏡へ当たった光のように角度を変え、こちらへ向かって跳ね返ってきた。


「うっそ! 反射するの!?」

「我が肉体は不動なり」

「それ先に言ってよ!」


 返ってきた聖光がローラへ迫る。

 避けるには近すぎる。


「だったら!」


 ローラは慌てながらも杖を両手で握り直した。


「《聖光》!」


 もう一度。今度は真正面へ放つ。

 二つの光が空中で衝突した。

 白い光が互いを押し合い、広場全体が一瞬昼間のような明るさに包まれたあと、弾け飛ぶように消滅する。


「危なっ!」


 ローラは後ろへ数歩下がった。


「自分の魔術で死ぬところだったよ!」

「未熟」

「むかつく~!」


 珍しくローラが本気で怒っている。

 そして残る一人。


「まさか」


 エドガーは剣を抜きながら笑っていた。


「万式のグエンと戦う日が来るとはな」

「おや?」


 グエンと呼ばれた男が目を細める。

 背中や腰には、剣、槍、斧、短剣、それどころか俺には用途すら分からない武器まで無数に取り付けられている。


「吾輩を知っておるのか」

「当然だ」


 エドガーは腰へ付けていた魔想石を一つ外し、自分の剣の柄に存在する窪みへ嵌め込んだ。

 低い駆動音。

 直後、剣身の周囲へ風が纏わりつく。


「万の武器に万の戦い方を使う男」

「ほう」

「昔、あんたの戦闘記録を買った」

「買った?」

「ああ」


 エドガーが構える。


「高かった」

「がははは!」


 グエンが豪快に笑った。


「変態のエドガー殿にそこまで言われるとは、嬉しい限りである!」

「誰が変態だ」

「迷宮へ裸で突っ込んだ男が何を言う!」

「必要な検証だった」

「十分変態である!」

「うるさい」


 グエンの手が動いた。

 背中から一本の槍が抜かれる。


「だが!」


 一歩踏み込む。


「戦は戦!」


 槍が伸びた。

 速い。

 エドガーの顔へ一直線に迫る。

 だがエドガーは僅かに首を傾けるだけで避けた。


「……王国古槍術」

「む?」

「二百年ほど前まで王国西部で使われていた歩兵槍術。最初の突きで相手の回避方向を限定する」


 グエンの口角が上がる。

 槍が引かれた。

 そのまま石突きが横から迫る。


「そして二撃目で足を狙う」


 エドガーが跳ぶ。

 石突きが足元を通過した。


「なるほど」


 着地と同時に剣を振る。

 グエンは槍で受ける。


「記録で見たものより速いな」

「がははは!」


 グエンは嬉しそうに槍を回転させた。


「一度見ただけでそこまで分かるか!」

「見たんじゃない」


 エドガーが剣を構える。


「調べた」

「それを世間では変態と言うのだ!」

「だから違う」


 なんというか。

 あそこだけ少し楽しそうだ。

 俺はそこでようやく気づいた。

 タケルはマルコ、ローラはラフェル、エドガーはグエン。

 残ったのはゴルド、ウォルト市長、俺、そして。


「おいおい」


 ゼードが楽しそうに両腕を広げた。


「俺ちゃんと戦うのがそんなに嫌かよ」


 顔に出ていたらしい。


「当然だろ」

「ひでえなぁ」

「昨日殺されかけたんだぞ!」


 Sランク冒険者だって嫌だ。

 だが、それ以上にこいつは嫌だ。

 どこまで強いのか分からない。

 何をしてくるのかも分からない。

 前回はタケルがいたから何とかなっただけで、今度は一人で相手をしなければならない。


「死ぬかもしれないんだぞ」


 俺が言うと、ゼードは一瞬きょとんとした顔をして。


「ははははは!」


 腹を抱えて笑い出した。


「何がおかしい!」

「いやいや、良いじゃん」


 目尻の涙を指で拭う。


「人間なんて、いつか死ぬんだぜ?」

「なら、今を最高に楽しんだ方が得だろ」

「いいよな、戦闘狂は」


 俺は魔力炉から魔想を引き出す。

 身体の内側へ熱が広がる。


「悪いけど、俺はまだ死ぬつもりはない」


 まだ、帰っていない。

 父さん、母さんにも。レンやサラ、ルーシーにも。

 ゼケルのみんなにもまだ、会えていない。

 こんなところで死んでたまるか。


「ゼード」


 魔想を身体強化へ回す。

 筋肉が軋む。

 血管の中を熱い何かが走る。


「遊びは終わりだ」

「嫌だね」


 ゼードが笑う。


「俺ちゃんは、一生遊んでいたい性分なんでね」


 何もない空間へ手を伸ばした。

 指が空そのものを掴む。


「――《空掌(スペース・アウト)》」


 掴んだ空間を横へ振り払う。


「っ!」


 見えない。

 何も見えないのに来る。

 昨日と同じ感覚。


「くっ!」


 両腕を交差させる。

 直後。

 身体の周囲そのものを巨大な手で殴られたような衝撃が襲った。


「ぐっ!」


 足が地面を離れる。

 石畳の上を何度も跳ねながら後方へ飛ばされ、地面へ片膝を突く。


「相変わらず意味分かんねえ!」


 顔を上げる。


「とことん盛り上がっていこうぜ!」


 ゼードが空中にいた。


「……飛べるのかよ」


「空間を動かしてるだけ」

「十分おかしいわ!」


 最悪だ。

 そんな俺たちの横で二人の男だけは動いていなかった。


     ◇


「ゴルド」


 ウォルトが口を開いた。


「貴様の計画を、このまま進めさせるわけにはいかない」

「どうしてだ?」


 ゴルドは本当に理解できないという顔をしていた。


「ウォルト市長」


 周囲を見ると、多くの店に宿があった。


「街は活気を取り戻した」


 間違ってはいない。


「俺様の大会で世界中から人間が集まった。潰れかけていた店には客が入り、土地の価値も上がった」


 両腕を広げる。


「お前が望んだ通りではないか」

「そうだ」


 ウォルトは否定しなかった。


「この街は救われた」

「ならば」

「だが」


 ウォルトが遮った。


「私は、一つ間違えていた」


 ゴルドの眉が僅かに動く。


「この街を救わなければならないと思っていた」

「何を言っている」

「違ったのだ」


 ウォルトは広場を見渡した。


「迷宮都市は、ブランドー家が作った街ではない」

「大迷宮を求めた冒険者が集まった。彼らへ物を売る商人が集まった。宿屋ができ、酒場ができ、家が増えた」

「この街は、彼ら自身が作った」

「それがどうした」

「だから」


 ウォルトはゴルドを見る。


「この街に、俺や貴様のような王はいらない」

「…………」

「市長が街を作る必要などない」


 拳を握る。


「冒険者たちが、自分たちで作っていく」


 しかし、ゴルドは鼻で笑った。


「その冒険者が減ったから、こうなったのだろう」

「なら、新しい魅力を作ればいい」

「違う」


 ゴルドが即座に否定する。


「魅力なら既にある」


 大迷宮を見る。


「足りなかったのは金だ」

「違う」

「何?」

「夢だ」


 ウォルトの声が初めて強くなった。


「大迷宮に必要だったのは、夢だった」

「馬鹿馬鹿しい」


 ゴルドが吐き捨てる。


「夢を語る前に利益が必要だ」


 ウォルトへ一歩近づく。


「自由都市フリードを見ろ。巨大な商業施設。娯楽。金を持つ者が集まり、その金を求めて冒険者まで流れていった」

「だから、この街にも同じものを作る?」

「当然だ」

「そうじゃない」


 ウォルトは首を振った。


「大迷宮は娯楽ではない」

「同じだ」

「違う!」


 声が響く。


「人々へ夢を見せる場所だ!」


 ゴルドの表情が冷たくなる。


「……そこまで愚かな男になったか」

「冒険者とは金持ちの護衛でもなければ、国の兵士でもない」

「金を払えば動く」


 ウォルトも分かっている。

 理想だけでは生きていけない。

 冒険を続けるにも金は要る。しかし。


「金を稼ぐためだけなら、この街にいる必要などない!」


 自由都市へ行けばいい。

 別の町へ行けばいい。

 危険な大迷宮へ潜る必要など、どこにもない。


「それでも、あいつらはここへ来る」


 大迷宮を見る。


「誰も見たことのない場所を見たい」


 一つ。


「誰も倒したことのない魔物を倒したい」


 二つ。


「誰も攻略できなかった迷宮を攻略したい」


 三つ。


「そんな馬鹿みたいな夢を追うために」


 ウォルトは笑った。


「命まで賭ける」

「…………」

「それが冒険者だ」


 俺は戦いながらほんの少しだけ笑ってしまった。

 エドガーが聞けば喜びそうだ。


「私は、それを分かっていなかった」


 ウォルトは続ける。


「私がするべきだったのは、街を守ることではない」

「彼らが挑戦できる場所を守ることだった」


 冒険へ向かえる。

 失敗しても帰ってこられる。

 また挑める。


「それだけで良かったのだ」


 ゴルドが睨む。


「夢などで街は救えん」

「そうかもしれない」

「ならば」

「それでも」


 ウォルトは下がらない。


「夢を汚す権利だけは金持ちにも市長にもない」


 ゴルドの顔から笑みが消えた。


「愚かな男め」


 指を鳴らす。


「ならば、この俺様自身が教えてやる」


 ゼードへ視線を向ける。


「ゼード」

「はいはい」


 俺と戦っていたゼードが、軽い調子で片手を挙げた。


「あれを出せ」

「もう?」

「出せ」

「せっかちだなあ」


 ゼードが俺から距離を取る。


「待て!」


 オーラ・ブレードを展開する。


「させるかよ!」


 斬りかかる。


「おっと」


 避けられる。

 もう一度、また避ける。


「これから最高のショーが始まるんだからさ」

「誰が見たいって言った!」

「おチビちゃんは分かってないなぁ」


 拳が腹へ入った。


「ぐっ!」


 身体が浮く。

 地面へ転がった。


「さあ」


 ゼードが両腕を広げる。


「始めようじゃないか」


 空へ手を掲げる。

 その頭上、巨大な魔術式が展開された。


「転移……?」

「おい」


 魔術式から火花が散った。


「……あれ?」


 ゼードが首を傾げる。


「これ、ちょっと多いかも」

「何がだよ!」


 光が広がった。

 広場全体が白に染まる。

 次の瞬間。


「…………」


 俺たちの周囲へ大量の人間が現れていた。


「なんだ……これ」


 全員が同じ、黒いスーツ、黒い靴、黒いサングラス。

 それだけなら趣味の悪い集団で済んだ。


「……気持ち悪い」


 思わず口から出た。

 身長がほとんど同じ。

 体格も、立ち姿も。

 それどころか感じる魔想までどこか似ている。

 一人一人違うはずの魔想の揺らぎが、まるで同じ型から作られた道具のように均一だった。


「これが俺様の兵士だ」


 数えるのが馬鹿らしくなるほど数がいた。


「百名」

「百……」

「金さえあれば」


 ゴルドは両腕を広げた。


「兵も買える」


 圧倒的だった。

 ただでさえ理想郷を相手にしている。

 ゼードまでいる。

 そこへ百人の兵士。


「……無理だろ、これ」


 思わず本音が出た。

 タケルはマルコを相手にしている。

 ローラはラフェル。

 エドガーもグエンを相手に息を切らしていた。

 そこへ兵士まで加わればどう考えても戦力が足りない。


「集まれ!」


 エドガーの声。

 俺たちは一度中央へ下がった。

 その周囲を理想郷、ゼード、そして黒い兵士たちが囲む。


「どうする、エドガー」

「これはまずいよ~」

「やばいな」


 エドガーが剣を地面へ突き立てる。

 呼吸が荒い。

 それでもエドガーは剣を抜き直した。


「だが」


 前を見る。


「あきらめる理由にはならない」

「……だな」


 俺も構える。

 その時だった。


「よう!」


 遠くから声がした。


「兄ちゃん!」

「……ん?」

「久しぶりだな!」


 聞き覚えのある声。

 振り返る。


「え?」


 人がいた。

 今度は黒いスーツではない。

 様々な武器を持った冒険者たちがいた。



「おっちゃん?」


 焼き鳥屋のおっちゃんが巨大な剣を肩へ担いでいた。


「なんだその剣!」

「言ってなかったか?」

「聞いてない!」

「俺」


 にやりと笑う。


「元冒険者なんだ」

「いや、それは今分かった!」

「これでも」


 剣を下ろす。

 地面が僅かに沈んだ。


「昔は結構強かったんだぜ」

「……千切」

 エドガーが呟いた。


「え?」

「千切のガルダ」


 珍しく驚いた顔をしている。


「昔のSランク冒険者だ」

「S!?」

「おう」


 おっちゃん。

 ガルダが笑う。


「随分昔の話だけどな!」

「何で焼き鳥売ってんだよ!」

「焼き鳥が好きだからだ!」

「理由それだけ!?」

「それだけで十分だろ!」


 後ろ。

 冒険者たちも笑った。


「カイトって兄ちゃんから聞いたぜ」


 ガルダがゴルドを見る。


「こいつが、大迷宮を俺たちから奪おうとしてるってな」

「奪う?」


 ゴルドの顔が歪む。


「俺様が救ってやったのだ!」

「救った?」


 ガルダは鼻で笑う。


「大会は楽しかったぜ」

「ならば!」

「だからって」


 巨大な剣を肩へ担ぐ。


「大迷宮までお前の物になるわけじゃねえ」


 後ろから声が上がる。


「そうだ!」

「大迷宮は誰のもんでもねえ!」

「俺たちの夢を勝手に買わせるかよ!」


 冒険者たちが武器を掲げる。

 ゴルドの顔がみるみる赤くなっていった。


「この……」


 拳を握る。


「役立たずどもが!」


 怒声が響く。


「俺様が、俺様がどれだけ!この街を救ってやったと思っている!」


 ガルダは笑った。


「知らねえよ」

「何?」

「俺たちはこの街と大迷宮と一生を共にしてきた」


 冒険者たちを見る。


「もし大迷宮がなくなるなら、まあそん時は俺たちも終わりだ」

「馬鹿が!」

「ああ」


 ガルダは認めた。


「冒険者なんて、馬鹿ばっかりだ」


 後ろから笑い声。


「でもよ」


 剣先をゴルドへ向ける。


「そんな日は来ねえ」

「何を根拠に!」

「簡単だ」


 笑う。


「俺たち冒険者が」


 武器を掲げる。


「夢を捨てねえ限りな!」


 歓声が広場を揺らした。


「行くぞ、おめえら!」

「おおおおおおお!」

「この《千切のガルダ》が!」


 巨大な剣を振り上げる。


「久しぶりに暴れてやる!」


 冒険者たちが走り出した。

 何十人もの足音が重なり。

 まるで街そのものが揺れているようだった。


「ははは!」


 エドガーの笑い声が聞こえた。


「あいつら」


 剣を構える。


「相変わらず馬鹿な連中だ」

「でも」


 ローラも杖を構え直した。


「それでこそ冒険者だよね~」

「ああ!」


 タケルが拳を打ち鳴らす。


「まだまだ滾ってきたぞ!」

「元気だな、お前」

「ルークス!」

「分かったよ」


 俺も笑った。

 身体は痛い、魔想も減っている。相手はめちゃくちゃ強い。

 それでも。


「やってやろうぜ」

「ああ!」


 夕陽が地平へ沈もうとしていた。

 一方には金によって集められた兵士たち。

 もう一方には夢によって集まった冒険者たち。

 二つの集団が迷宮都市の中心で正面からぶつかった。


     ◇


 その頃。

 戦場とは少し離れた場所。

 火龍の宝具が保管されている建物の中で二つの影が偶然、同じ場所へ辿り着いていた。


「……あれ?」


 一人が首を傾げる。


「なんで」


 ゼードが笑った。


「俺ちゃん以外に人がいるんだ?」

「こちらの台詞だ」


 もう一人。

 眼鏡を掛けた男が答える。


「これは」


 少しだけ困ったように笑う。


「予想外だね」


 二人の間。

 厳重に保管された台座。

 そこには火龍の宝具こと、勇者の籠手が置かれている。


「俺ちゃんのファン?」


 ゼードが自分を指差した。


「サインなら後にしてくれる?」

「残念だが君のファンではない」


 男は首を振る。


「ひど」

「むしろこちらが聞きたい」


 眼鏡を直す。


「ゴルドに雇われた傭兵がなぜ、ここにいる?」

「俺ちゃんはちょっと魔が差しただけ」

「なるほど」

「それより」


 ゼードが男を見る。


「俺ちゃん、お前見たことないんだけど」

「そうだろうね」

「誰?」

「私かい?」


 男は笑った。


「カイト、ただの発明家だよ」

「ただのねえ」


 二人とも笑っている。

 だが互いに相手がただ者ではないことくらい既に理解していた。


「それで」


 ゼードが籠手を見る。


「カイトちゃんは、これが欲しい?」

「欲しいという表現は少し違う」

「じゃあ?」

「私は」


 眼鏡の奥の目が細くなる。


「調査するだけだ」

「へえ」

「君は?」

「俺ちゃん?」


 ゼードが笑う。


「これ欲しいんだよね」

「なるほど」


 沈黙。

 ほんの数秒。

 二人とも頭の中で同じ結論へ辿り着いた。

 ここで戦う、それは簡単だ。

 だが、互いに目的は完全には衝突していない。


「なあ」


 ゼードが口を開く。


「カイトちゃん」

「ああ」

「俺ちゃん思ったんだけど」

「奇遇だね」


 カイトも笑う。


「私も同じことを考えていた」

「利害一致?」

「一時的には」

「最高」


 ゼードが手を差し出す。

 カイトは少しだけその手を見る。


「よろしく」


 握った。

 戦場の裏側、誰にも知られない場所で。

 本来なら決して並ぶはずのなかった二つの影が一つの目的のため静かに重なった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

めんどくさい男と厄介な男が手を組んだよやったね。

特に印象に残った場面や台詞がありましたら、一言だけでも感想をいただけると、とても励みになります。

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