変化が局所的なんて事はなく
立ち直った火之花ちゃんは涙を拭いて、お母さんに頭を下げた。
「お母さんを守ろうとしてくれてありがとうございます。お母さんの遺体って……」
「ごめんなさい。炎に巻かれて、こっちまで連れてくる事が出来なかったわ。私が連れて来られたのは、これだけ」
お母さんが火之花ちゃんに渡したのは、赤い宝石があしらわれた少し黒くなっているバングルだった。よく見たらお母さんの手には、そのバングルと同じ形の火傷の跡があった。焼かれた遺体から唯一回収出来たけど、熱された状態の物をそのまま掴み取ったみたい。それでも離さなかったというのが火傷の跡から分かる
「ありがとうございます……」
火之花ちゃんのお母さんが亡くなった原因は、炎だという。つまり、炎の能力を持った人が襲ってきたという事だ。火之花ちゃんの炎もそうだけど、そう簡単には消えない。炎に巻かれるそのまま命の危機に繋がってしまう。
こればかりはお母さんでもどうしようもない。水道が止まっているところもある以上、即座に鎮火出来る程の水量を集める事が難しいからだ。
同じ炎の能力を宿した火之花ちゃんが、その事に辿り着かないわけもない。でも、それは同時に火之花ちゃんに重石となる。火之花ちゃんの能力は自分のお母さんを焼いたものと同種となるから。
火之花ちゃんはバングルを自分の手首に着ける。そして、その存在を確かめるようにもう片方の手で握った。
「火之花ちゃん。綺麗にしてあげる」
「ありがとう」
私が直接触れれば、その汚れは取り除かれる。煤汚れも全て含めて。本来の輝きを取り戻した直後、バングルが光り輝く。
「やばっ! 触り過ぎちゃった……?」
能力の調整とかが全く出来ないので、綺麗にした後に起きる反応が、これで正しいのか分からない。
「いや、何か普通に聖奈の能力が入っただけじゃない? 綺麗にはなってるし、問題ないよ」
「そ、そっか……良かった」
私がそう言った瞬間、バングルは更に一際強い光を放ち、仄かに赤く染まった。
ただ私の能力が入って鉄パイプのような状態になるだけなら良かった。でも、形見となるバングルを謎の状態にしてしまったら、申し訳なさの方が勝る。
「ご、ごめんね。えっと……どうやったら……」
「いや、これって……」
火之花ちゃんは手から炎を出す。その炎はバングルにも当たるくらいの大きさだった。
「ほ、火之花ちゃん!?」
「大丈夫。ほら」
火之花ちゃんが手首を見せると、熱に晒されたにも関わらず、変わらない輝きを持つバングルがあった。
「多分、聖奈の能力で、私の能力も浸透しやすくなったんじゃない? それで火耐性を得たとか」
「えぇ~……ゲームみたい……」
「私達の能力がそのままゲームみたいでしょ」
私達がそんなやり取りをしていると、お母さんが驚いたような表情をしていた。
「火之花ちゃんはさっき見たからそうじゃないかと思っていたけれど、聖奈も能力を持っているのね?」
お母さんが驚いていたのは、私も能力を持っていたからだった。相手がただの人だったから、私の能力は使われない。こういうときには利用出来ないものだから、お母さんも気付かなかったみたい。
「うん。触れている物を綺麗にするのと、あの植物とか化物を炭にしちゃう能力だよ。後は触れ続けたら、建物が安全地帯になるかな。まだ検証も何もしてないから、私の能力はよく分からないけど」
「単純に炎を使える私と比べて、聖奈の能力はちょっと複雑みたいです」
「そう……その能力のせいで、二人の髪も変わったという事で合っているの?」
「うん」
お母さんもさすがに、私達の髪の変化に気付いていたみたい。まぁ、火之花ちゃんはともかく、私は朝に真っ黒な状態を見ているから気付かない訳もないか。
「黒染めで戻るかしら」
「分かんない」
「まぁ、余裕が出来たら染めれば良いわね」
「うん。火之花ちゃんがやってくれるって」
「それは頼もしいわ」
そんな会話をしていると、自衛隊員さんがこっちにやって来た。
「どうも。先程は助力して頂きありがとうございました」
自衛隊員さんはそう言ってお母さんに頭を下げた。お母さんが最前線で戦っていた事に感謝しているという事は、脇差しを実際に使った事を許してくれるという事だと思う。
「自分は日暮守孝と申します。二等海尉の身ですが、この場所を仕切らせて貰っています。国民を守る立場でこう言うのもなんですが、是非お力をお貸し頂きたい」
「ええ。こんな状況ですから、出来る限り貸しましょう。ですが、上級幹部の方々はいないのですか?」
「ええ。この植物達や化物による襲撃で軒並み。東京も大樹が出現して防衛省とも連絡が途絶えました。無線による通信も現状安定しない状態ですので、地方との協力も難しくなります。最後の通信にて、情報を共有したところ、地方でも同じように化物と植物が出ているようですから、こちらに協力するという事自体が難しくなっているでしょう」
「大樹は他の場所にはないんですか?」
お母さんと日暮さんの会話で気になった事があった。それは大樹の存在だ。化物と植物が地方にもあると言っていたけど、大樹に関しては東京しか言っていない。
「衛星からの情報だが、日本では東京のみ。他は、ニューヨーク、シドニー、サンパウロ、重慶、ラゴス、ローマ、ロンドン、モスクワに存在するらしい」
「う~ん……何か基準でもあるんですか?」
「さすがに分からないが、人口が多い場所に現れているという話が、一番有力だ。大前提あれがどういうものなのかも分かっていない」
ここからでも軽く見える大樹。あれがどういうものなのか誰も分からない。これまで存在した事のないものなのだから当然だ。
日本以外にも存在するという事から、この被害は全世界で起こっていると考えた方が良い。範囲から少し離れた場所は比較的マシとかはあり得そうだけど、あの大樹が現れてから生えてきた植物はかなり広範囲に広がっているようだし、そっちと化物の被害は抑えられなさそう。
「日暮二尉。無線から情報が」
「なんだ?」
「所属は不明ですが、空から大樹への攻撃を試みるというものです。かなり不安定な通信ですので、細かいところは分かりませんが大樹への被害はゼロ。攻撃に向かった部隊は全滅したそうです」
「全滅だと? 航空戦力が全てか?」
「はい。断片的な情報では、大樹から攻撃を受けたというように考えられます」
「大樹自体が化物か……艦隊からの砲撃で何か出来ないか考えていたが、それも難しそうだな。根本的な解決には現代兵器が役に立たないと仮定した方が良さそうだな。予定していた大樹攻撃は延期すると伝えろ。それと周辺の警戒レベルを上げる。馬鹿な能力者がまた襲撃してこないとも限らない。避難している民間人の中で防衛に付ける能力を持つ能力者を探して協力を促せ。ただし、無理強いはするな」
「はい」
指示を出した後に、日暮さんはため息をつきながら後頭部を掻く。元々ここまで全体を考えて指示を出す事が苦手なのかもしれない。
「あの……良ければ、この周辺の植物は消しておきましょうか?」
大変そうなので、私が出来る手伝いを申し出る。すると、日暮さんは目を見開いて安堵したような笑みを浮かべる。
「ああ、余裕があるなら頼む。いや、待て。一つ確認したい。お嬢ちゃんの能力は、物を綺麗にし、化物及びあの植物を炭化させる事だったな?」
「あ、はい。後は、私が長時間触れたものに、その力を付与する事です。私が気絶していた間、ずっと触れていた道場は聖域みたいに真っ白になって、近づいた犬擬きを炭化させていたみたいでした」
「触れていたものを……それは地球に対して使えないのか?」
「さ、さぁ……この状況でしたから、私も検証は出来ていませんので……」
「それもそうか……だが、お嬢ちゃんの能力が突破口になるかもしれない。その能力が大樹に通用すれば……申し訳ないが、ここにいる間で出来る限りの検証をして欲しい。その間に、俺達はお嬢ちゃんの能力と類似するものを持っている人を探す」
「あ、はい」
日暮さんは、最後にお母さんに頭を下げると走って行ってしまった。
「検証って何をすれば良いんだろう……」
「まぁ、思いついた片っ端からやって、能力の全貌を明らかにしていけば良いと思うよ。私も自分の能力がどこまで出来るのか知りたいし。あの夢が何か関係してると思うしね」
「そっか……色々と確認は必要だね」
私達は能力を得て、まだ一日も経過していない。感覚で操れる火之花ちゃんと常時発動の私。その時点でも能力が違う。それにこれが暴走したらと思うと、検証は必要だ。
ここは日暮さんのお願い通り検証に入る事にした。まぁ、その前にまずは休憩したい。大分疲れちゃったし。




