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終末をもたらす大樹に唯一対抗出来るのは、私の力だけでした  作者: 月輪林檎


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7/10

過ぎた力は愚か者を生む

「聖奈!」


 自衛隊員さんに降ろして貰っているところに火之花ちゃんが駆け寄ってくる。


「大丈夫だよ。この人が助けてくれたから。ありがとうございます」

「いや、礼を言うのはこちらの方だ。助力感謝する」


 自衛隊員さんは、私達に頭を下げてきた。


「どういたしまして」


 火之花ちゃんは、すぐにそう返した。こういうときの度胸は凄い。


「私達お母さんを探して、ここまで来たんですが、この近くに自衛隊の基地ありますよね? そっちに避難してるはずなんですけど」

「避難民の中にいるかもしれないな。俺達も負傷者が出たから、帰投する事になっている」

「同行しても?」

「ああ。構わない」


 取り敢えず、一緒に行って良いという許可も頂いたので、火之花ちゃんとハイタッチする。自衛隊の準備が整うまで待って一緒に行くのだけど、まさかの歩きじゃなくて、車での移動だった。


「車ってまだ使えるんですか?」


 ちょっと気になったので、助けてくれた自衛隊員さんに訊いてみた。


「ん? ああ。普通車は厳しいかもしれないが、こうした悪路でも走行できるような車を用意しているからな。完全に障害物で塞がれていない限りは使える。そうじゃないと、災害時に救助へ向かうなんて出来ないだろう?」

「なるほど」


 地面がひび割れていてもしっかりと動かす事が出来る車があるから、今も救助のために動いてくれている。普通車も動かせなくはないだろうけど、こっちほど安定しているとは言えないって感じかな。

 自衛隊の準備が整ったところで、私達も荷台に載せて貰う。ここまで歩きっぱなしだったので、こうして楽できるのは本当に嬉しい。


「一つ確認したいんだが、お嬢ちゃん達はどこから来たんだ? 母親を探しているって事は、ここの住人だが、異変時には別の場所にいたんだろう?」

「新羽ヶ丘高校です」

「ん? ここから結構な距離があるな」

「はい。実際、何時間も歩いてきました。電車は使えませんでしたから」

「向こうには、あの犬っぽい化物はいなかったか?」

「いえ、普通にいました。でも、あの親玉はこっちに来た時に見ましたね。もしかしたら、今はいるかもしれませんが」

「そうか。こっちに来るまで生き残っている人達を見たか?」


 私は一応火之花ちゃんを確認する。火之花ちゃんは、私の視線に気付くと首を横に振る。


「見てないです。あの犬擬きにやられた遺体は見ましたが」

「そうか……さすがに、そこまで甘くはないという事か……っと、どうした?」


 車が急ブレーキを掛けて止まった。隣にいた火之花ちゃんが受け止めてくれなかったら転んでいたかもしれない。


「襲撃です!」

「何!?」


 襲撃と言われても、車に攻撃が飛んでくる事はなかった。つまり、私達への襲撃じゃないって感じかな。


「能力持ちです。理由は不明ですが、内部で暴れ回っているようです」

「ったく……ただでさえ命令系統がイかれてるってのに……お嬢ちゃん達はここで降りて」

「いえ、このまま行って下さい」

「相手が私達と同じように能力があるなら、戦力になるでしょ」

「…………このまま突っ込め。避難民の安全のためにも制圧する」


 車がこれまで以上の速度で動き出す。このまま轢くつもりなのかな。


「退避!」


 運転席からそんな声が聞こえたのと同時に、二人の自衛隊員さんが私と火之花ちゃんを抱えて、荷台から飛び降りた。地面を転がるけど、自衛隊員さんが庇ってくれているからか、痛みは少なかった。

 直後、車に尖った岩が突き刺さって爆発した。全員飛び降りることが出来たのかは分からないけど、明確に自衛隊に対して敵意のある行為だった。


「大丈夫か!?」

「私は大丈夫です」

「こっちも」


 自衛隊員さんが庇ってくれたおかげで、私も火之花ちゃんも怪我はなかった。


「くそ……こっちに何の恨みがあるってんだ」


 人命救助のために奮闘してくれているのに、明確にそれを妨害しようとしているような攻撃が飛んできている。自衛隊に恨みがないとしたら、余程の馬鹿の仕業になる気がする。


「やっぱりお嬢ちゃん達は逃げろ。相手はこっちを殺す気だ。こんな事のために入隊したわけじゃないんだがな」


 そう言いながら、素早く銃の点検をしていた。

 どう返事をしたものかと思っていたら、基地の方に刀を使っている人が見えた。


「お母さん……?」


 この状況で刀を使っている人なんてお母さん以外いない。私はそれを見て、すぐに駆け出していた。


「おい!」


 後ろから呼び止めるような声が聞こえるけど、脚は止まらない。ここまで歩きっぱなしだったのに、身体が凄く軽い。今なら何でも出来そうなくらい。

 襲撃をしていたのは、見た感じ普通の一般人だ。でも、岩を飛ばしていたり、触れた場所を凍結させていたり、拳で色々なものを破壊していたりと、私達と同じような能力を持っていた。でも、それだけだ。


────────────────────


 突然走り出していった聖奈を火之花はただ見送っていた。


「ったく! おい! あのお嬢ちゃんの能力は!?」

「聖奈の? 触れた物を綺麗にする事と触れた怪物やあの植物を炭化させる事です」

「それだけか?」

「今のところ」

「勝算がなさ過ぎだろ!」


 そう言って駆け出す自衛隊員を、火之花も追って並ぶ。


「というか速すぎじゃないか?」


 聖奈の走る速度はオリンピック選手顔負けだった。元からそうだった訳では無い。走るという点では、火之花の方が上だった。だが、今の聖奈の速度はそれよりも上だ。


「能力が覚醒しているのが原因かも」

「覚醒?」

「聖奈と私の髪、色が変わっているでしょ?」

「ああ」

「元々こういう感じだったわけじゃなくて、一時間くらい意識を失ってから夢を見て、この状態になったんです。でも、あそこにいる人達はまだ変わってない。能力でいえば、こっちが上かも」

「だけど、あのお嬢ちゃんは、戦闘向きの能力じゃないだろ」

「ああ、でも、大丈夫ですよ。獣相手よりも人間相手の方が聖奈は得意ですから」

「は?」


 火之花の言っている事を理解出来ない自衛隊員の視線の先で、襲撃者の男が倒され、その顔面に聖奈が乗っていた。


「は?」


 更に理解出来ない状況に、自衛隊員は唖然としていた。


────────────────────


 走っていた私は飛んでくる岩を避けて、地面に手を突き、そこを支えにしながら男性に足払いを掛ける。一連の動作が素早く行われたためか、男性は脚による支えを失い横に倒れる。

 その顔面に一周回した足を叩き付け、支えにしていた手を離し、遠心力を頼りに顔面の上に乗って、地面に叩き付ける。


「は?」


 仲間の女性が唖然としているので、素早くそっちに近づいていく。この女性は確か触れたものを壊していた。多分、腕力か握力が異常に高いのだと思う。

 近づいてくる私に手を伸ばしてくるので、その手を下から払う。そして、掌底で顎を下から跳ね上げる。馬鹿みたいに口を開けていたので、勢いよく口が閉まって、歯が折れる音が聞こえた。そのまま意識を失ったので放置する。

 そんな私の背後に炎が抜けて行った。その炎の通り道には、触れたものを凍結させていた男がいた。当然真っ黒焦げだ。火之花ちゃんが援護してくれたらしい。

 襲撃者達は立て続けに三人倒された事に動揺していた。その中で、お母さんが襲撃者達の腱を切って倒していた。相手に容赦しているような状況ではないって感じだ。

 自衛隊の方々も、能力無しでも何とか制圧している。

 ひとまずこの状況を収めるために、襲撃者の人達には眠って貰う。

 襲撃者が全員地に伏したところで、私はお母さんの方に向かう。


「お母さん!」

「聖奈!」


 お母さんは、脇差しを鞘に納めてから私を抱きしめてくれた。


「懐刀は持って来たのね。一応、登録証は持ってきてあるから安心して。実際に何度も使う事になるとは思わなかったけれど」

「うん」


 抱きしめた時に私の繋ぎの中に懐刀がある事に気付いたみたい。

 お母さんから離れて、火之花ちゃんに手を振る。私が呼んでいるという事に気付いて、火之花ちゃんがやって来る。すると、お母さんの顔が強張った。


「火之花ちゃん。一緒に避難してくれたのね。ありがとう」

「いえいえ、近くに聖奈がいたので。うちのお母さんは」


 火之花ちゃんがそう言った瞬間、お母さんの表情が更に強張る。一度目を閉じてから、真っ直ぐ火之花ちゃんを見た。


「ごめんなさい。さっきみたいな襲撃があって……守り切れなかったわ」

「っ……」


 火之花ちゃんのお母さんが亡くなった。訃報を受け取った火之花ちゃんは、硬く拳を握っていた。

 さっきみたいな襲撃っていうと、犬擬きじゃなくて人間による襲撃って事かな。私達みたいな能力を得た事により、増長した馬鹿が多いって事なのかもしれない。

 その被害に遭う方はたまったものではない。


「火之花ちゃん……」


 私が拳に触れると、火之花ちゃんは私の手を握る。その力の強さがそのまま火之花ちゃんの感情の大きさを表している。


「大丈夫。今の状況なら、こういう事もあるって思ってたから。でも、ちょっと肩貸して」


 火之花ちゃんを抱きしめながら、肩に顔を押し付ける。小さく聞こえる嗚咽に、私は自然と火之花ちゃんの頭を撫でていた。火之花ちゃんが立ち直るまでの五分間、私は肩を貸し続けた。

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