定まりし方針。白き力
道場を出ると、火之花ちゃんが振り返って道場の外側などを見ていた。
「どうしたの?」
「いや、聖奈の能力で白くなったから、何か他の変化がないかなって思って。そしたらほら、道場に絡まってた蔦が消えてる」
「……本当だ。じゃあ……」
私は自分の家に巻き付いている蔦に触れる。すると、触れた箇所から伝播するようにして、蔦が炭化していった。黒い雪のようにして消え失せていくけど、破壊された跡は残るので家はボロボロのままだ。
「なるほどね。綺麗にする能力との繋がりは分からないけど、聖奈の能力は、この植物達や犬擬きみたいなのに対する特効があるのは確かみたい。もしかしたら、聖奈の能力で大樹に触れれば、大樹も消えるかも」
「大樹関連で覚醒した能力じゃない?」
「さぁ? まぁ、そもそも大樹が出て来る前に聖奈は能力を使えている訳だから、あの大樹が能力の源ではないんじゃない?」
「そっか」
能力がどうやって生まれたのかは、全く分からない。私も気付いたら持っていたから。だから、これが大樹由来の能力とは限らない。
「取り敢えず、頼りにしてるよ」
「う、うん……」
ここまで大分戦えてはいるけど、まだ自信には繋がらない。過去の経験がちゃんと活きてくれている状態ではあるけど、あの頃と同じように動けているわけじゃない。
冷静さを心掛けて戦わないと。
私の家からお母さん達がいると思われる自衛隊の基地までの道程で、私達の能力を確認する時間は何度も訪れた。
火之花ちゃんは、相変わらず喧嘩スタイルだけど、炎を飛ばして遠距離攻撃でも倒したりしている。段々と感覚に慣れていっているからか、炎の出し方とかも上手くなっているみたいだった。
私の方は相変わらず鉄パイプを使っている。能力が鉄パイプに溜まれば、そのまま一撃必殺になるし、そうでなくても鉄パイプで動きを牽制してから直接触れれば、炭化させる事が出来る。まだ素手のみは心配だから、このスタイルが一番安心出来る。火之花ちゃんの援護もあるしね。
互いにカバーする感じだけど、私の方が火之花ちゃんに助けられてばかりだ。これは火之花ちゃんが遠距離攻撃が可能になったという事が大きい。
「負担掛けて、ごめんね」
「ん? 大丈夫だけど。私の能力がそういうのに向いてるだけだし。犬擬きが相手なら仕方ないしね」
火之花ちゃんは、何でもないようにそう言う。私を学校から連れ出してくれたり、火之花ちゃんにはこういうところがある。ここが火之花ちゃんの格好いいところであると同時に、申し訳ないとも思ってしまう部分だった。
そうして戦闘を終えた後、再び歩き出したところで銃声が鳴り響いてきた。しかも散発的なものではなく、連続して響くものだった。
「これって……」
「自衛隊も動いてくれてるんじゃない? 犬擬きに対して普通に銃を使わずに戦うのは無茶でしょ。気を付けながら近づこう」
「うん」
銃を使っているという事は、不用意に姿を現すと間違って撃たれるかもしれないという事だ。平時ならまだしも、今はかなりの異常事態。皆ピリピリとしているから、万が一があり得てしまう。
相手を驚かさないようにしつつ合流して、案内して貰うというのが一番良い方法だ。だから、そこを気を付けて近づいていく。
戦闘音は大分長く続いている。
「自衛隊は、能力を持ってない?」
「持っていても戦闘向きじゃないとかもあるかな。聖奈も最初は綺麗にするだけの能力だと思っていたくらいだし」
「確かに……それなら銃を使った方が安全なのかな。そもそも犬擬きって、銃で倒せるの?」
「さぁ?」
私達は犬擬きを能力で倒している。鉄パイプで思いっきり殴っても、首の近くとかじゃないと、大したダメージにならない。銃を使うにしても頭周辺にしっかりと当てないといけない。動きも素早いし、大分難しそうだけど、プロならなんとかなるのかな。
そんな事を思いながら進んで行くと、戦闘している現場の近くまで来た。そうして何故戦闘が長く続いているのか分かった。自衛隊が戦っている相手はただの犬擬きじゃない。私達も見た親玉犬擬きだった。
「あれが相手かぁ……」
これには火之花ちゃんも苦笑いを浮かべていた。
親玉犬擬きと五匹の犬擬きが自衛隊と戦っている。犬擬きは、元々は十匹以上いたみたいで死体が転がっている。ちゃんと銃でも倒せるみたいだ。ただし、自衛隊も無傷とはいかないみたいで、何人か負傷者を出している。死者っぽいのは出ていなさそう。それも時間の問題か。
「どうするの? 私達だと近づかないといけないから、射線に入るよ?」
「自衛隊を守るなら、私達が請け負って逃がすのが一番だけど……」
火之花ちゃんはそう言いながら、手を握ったり開いたりしている。それは何かを確認しているような所作だった。
「聖奈は行ける?」
「う、うん。大丈夫。鉄パイプはまだ溜めが必要だけど、金槌があるし、最悪直接触れれば消せるから」
「よし!」
火之花ちゃんは右手の袖を捲る。その右手に炎を溜めて、一気に解き放った。突如横から生じた炎の波に犬擬き達が巻き込まれていく。それを見たからか自衛隊の攻撃が止んだ。
「終わった?」
「いや、親玉には避けられた」
火之花ちゃんがそう言ったのと同時に、正面に親玉犬擬きが出て来た。前脚の一部だけ、重度の火傷を負っている。完全に火之花ちゃんを危険人物として警戒している。
それが分かった瞬間に、私は駆け出していた。火傷に速度を失った親玉犬擬きは、動き回る事も出来ない。
だから、生き残っている方の前脚で私の事を払おうとしてくる。それをスライディングで避けつつ、前脚に触れる。瞬間に腕が炭化していく。それを見た親玉犬擬きは、即座に炭化していない部分から噛み千切った。判断が早い。
でも、その判断も意味がない。身体の下に潜り込んだ私が身体に触れた事で、身体から炭化を始める。身体が大きいから瞬時に全身とはいかない。親玉犬擬きは、即座に身体を下げて、私を押し潰そうとしてくる。
「うおおおおおおおお!!」
何か叫んで走ってきた自衛隊員が、滑り込みながら私を抱えて親玉犬擬きの下から連れ出してくれる。
私がいなくなったことで、一気に踏み込んだ火之花ちゃんが炎を纏った拳を親玉犬擬きに叩き付けた。
顔面を殴られた親玉犬擬きが燃え上がり、一気に炭化が進んでいった。藻掻き苦しんでいた親玉犬擬きは完全に消え去った。
突発的に始まった親玉犬擬きとの戦いは、完全にこっちの優勢で終わった。




