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終末をもたらす大樹に唯一対抗出来るのは、私の力だけでした  作者: 月輪林檎


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夢のお告げは吉兆の印?

 親玉犬擬きをやり過ごした後、私達は私の家に向かった。徒歩で大体十分から十五分。犬擬きをやり過ごしたりするために塀をよじ登ったりしていたから、ほとんど直線距離で進む事が出来たため、かなり早く着く事が出来た。

 私の家は蔦に覆われてしまい、大半が潰れている。私の部屋もその範囲内だった。でも、リビングは残っている。

 火之花ちゃんの家にあった書き置きで、火之花ちゃんのお母さんと一緒に避難しているはずだから、多分こっちもリビングに書き置きか何かがあるはず。そう思ってリビングに入ると、左から犬擬きが飛び掛かってきた。反射的に裏拳が出て、犬擬きの側頭部に命中すると、炭化して消えた。


「えっ?」

「おぉ……直接手で触れたら炭化するの?」

「分からないけど……この感じだとそうなのかも。多分、鉄パイプを通した方が安全だけど」


 素手の方が能力を直接発揮出来るという形だと予想されるけど、素手と鉄パイプだとリーチの差で鉄パイプの方が安全だ。


「本当に意味が分からない能力……」

「検証は後にしよう。書き置きは?」

「えっと……あった!」


 お母さんからの書き置きだ。私と火之花ちゃんは一人っ子なので、お母さん達二人が一緒に避難しているみたい。ちゃんと自衛隊の基地に避難するって書かれている。


「自衛隊の基地って、ここから少しあるよね?」

「まぁまぁだね。地図がないと迷いそうだけど、頑張って行くしかないと思う」

「そっか……そうだ! 私の刀!」

「刀? ああ、懐刀だっけ。お祖父さんから継いだやつでしょ?」

「まぁ、私用に作ったらしいけど」


 私は既に使っていない道場に向かって、奥にある懐刀を手に取る。使うかは分からないけど、武器はないよりもある方が良い。


「メインウェポン切り替え?」

「ううん。こっちはサブ。メインは鉄パイプのままだね」


 リーチの長さから鉄パイプをメインに据えるのは変わらない。懐刀は、繋ぎの内側に差しておく。


「お母さんの脇差しがあったら良かったんだけど、お母さんが持っていったみたい。火之花ちゃんの武器は……」

「炎があるから要らないよ」

「だよね」


 安全面で言えば、拳よりも武器があった方が良いけど、火之花ちゃんの能力は基本的に手から放たれている。だから、武器がない方が良いというのも頷くしかなかった。


「あっ、登録証」

「この状況だったら良いでしょ。この後に及んでそんな事を言い出したら、状況を読めてなさ過ぎ」

「そうかな……まぁ、取り敢えずはこれ……で……」


 立ち上がった瞬間に目眩が襲ってくる。立ちくらみとかそういう次元じゃない。完全に立っていられなくなり、そのまま倒れた。


「聖奈! あっ……なん……で……」


 火之花ちゃんも倒れる音が聞こえる。視界が安定しなくなり、瞼が落ちていく。音も聞こえ辛くなっていき、意識が暗転した。


────────────────────


 綺麗な白。一面真っ白な空間。時折黒い染みが現れるけど、それもすぐに白く染まる。全てが純白に変わる。

 それは白の侵蝕。何ものにでも染まれるのに、その一切を拒み自身を維持する傲慢な所業。それでも世界は綺麗だった。


 唐突な意識の覚醒。眠りから覚めた時のような、二度寝への欲求は一切なく一気に頭がすっきりしている。


「何が……」


 身体を起こすと、まず目の前の変化に気付く。それは道場が真っ白になっている事だ。そして、私の前で倒れていた火之花ちゃんが起き上がる。 

 その火之花ちゃんにも変化が生じている。それは、髪の毛先だ。綺麗に色を抜いた髪の毛先が赤く染まっている。


「火之花ちゃん、その髪……」

「え? うわっ!? 最悪! いや……グラデーションにはなってるから有りか……」


 火之花ちゃんは若干もやもやしている様子だった。まぁ、せっかくお気に入りの髪色にしていたのに、それがいつの間にか変わっている訳だしね。

 そんな火之花ちゃんを見て、私も自分の髪を見る。すると、私の毛先も火之花ちゃんみたいな形で白く染まっていた。多分、能力に関係するのだと思う。それとあのよく分からない夢も。


「火之花ちゃん、さっき夢見なかった?」

「ん? 見た。太陽の中に沈むみたいな夢だったかな。熱くないどころか、心地良い場所だった。聖奈は?」

「真っ白な世界。黒が汚しても全てを拒絶するように白く染め上げる世界。心地良いとかはなかったけど、綺麗で吸い込まれそうだったかな」

「それぞれの能力関係って感じか。てか、どれだけ意識失ってたんだろう……うげっ、一時間か。一時間にしては……なるほどね」


 火之花ちゃんはキョロキョロと周囲を見回してから、私の手を見た。


「何か分かったの?」

「聖奈の能力。気絶している間、ずっと道場に触れていたから、その能力が伝播して道場自体が聖域みたいになってるみたい。その証拠に道場周りに炭化した跡が残ってる」

「え? 本当だ」


 確かに地面の方に黒い煤汚れみたいなものが付いている。


「後、気付いてないかもしれないけど、聖奈の服も白いよ」

「え? あ、本当だ。それじゃあ、懐刀は……普通だ。なんで?」

「素肌で触れているかどうかじゃない? 今の夢を見て能力がしっかりと覚醒したのかもしれないし。ほら」


 火之花ちゃんはそう言って、手から炎を出す。その炎が球体になって、火之花ちゃんの周りを回る。


「そんな事も出来るんだ……」

「ね。何となく出来ると思ったら出来た」

「えぇ……」


 確信があったわけじゃないみたいだけど、感覚的にそういうものが可能だと思ったみたい。私にはそういう感覚がないから、やっぱり常時発動の能力なのかな。


「とにかく、私の炎と聖奈の能力があれば怖いものなし。それに、多分これが能力の完成形じゃないだろうし」

「そうなの?」


 私は立ち上がって鉄パイプを拾い上げながら確認する。火之花ちゃんは何か確信があるみたいだし。


「これ」


 火之花ちゃんはそう言って、ポニーテールにしている髪を前に持って来た。中間から先端にかけて段々と赤く染まっている髪だ。


「中途半端な染まり方でしょ? これが能力の指標になるのかもってね。能力が強くなったのと同時にこうなっているわけだし」

「なるほど……」


 そう言われると、納得出来る。私の髪も中途半端な染まり方だし。


「さてと、一時間も無駄にしちゃったし、早くお母さん達と合流しよう」

「うん」


 出入口に近い火之花ちゃんの元に駆け寄ると、火之花ちゃんは私の背中に手を回して髪を持ち上げた。


「綺麗な黒髪だったのにね。全部が終わったら黒染めしようか」

「染料が白く染まるんじゃない?」

「それは……考えてなかった。まぁ、素肌じゃないから大丈夫じゃない?」

「そうかな……でも、このままだと変だしお願いしようかな」

「了解」


 全部が終わる。この状況が安定化するのか。それとも解決するのか。私には予測すら出来ない。でも、願わくば平和に終わると良いな。

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