安堵の地元。失われしかつての光景
それから一時間掛けて、私達は地元に帰ってくる。途中で何度か犬擬きに襲われたけど、火之花ちゃんの炎とよく分からない私の能力で撃退出来る。常に触っている鉄パイプは、約三十分程で光り輝く。それから二十分。十分と短くなっていた。なので、今も輝いている。
「色々とよく分からない……」
「聖奈の力が馴染んでるんじゃない?」
「鉄パイプに? そうしたら、使えば使う程馴染むようなものなのかな……」
「さぁ? 要検証じゃない? それよりもそろそろ見知った場所に……着く……」
火之花ちゃんの声が尻すぼみになっていく。その理由は、私もすぐに分かった。
私達が暮らしていた街は、見る影もない。あらゆる場所に蔦が這っており、潰れてしまっている家もある。さらには校庭から生えてきていたあの巨大植物により、家が壊れているところもあった。それ以外にも何が原因でそうなったのか分からないような大きな傷があちこちにあったりした。
そして、何よりも人の気配がない。これだけの状態になっているのなら、誰かしらいても良さそうだけど、全くそんな気配がなかった。
「まずは、私の家から行こう。その後に聖奈の家ね」
「うん」
ここからなら火之花ちゃんの家の方が近い。お互いの身の安全のために、ここで別行動するという事はしない。
ここからは自然と駆け足になる。急いで家族の安否を確認するためだ。まずは火之花ちゃんの家。火之花ちゃんはマンションに住んでいたのだけど、そのマンションが崩れてしまっている事が遠目にも分かった。
「嘘……」
「火之花ちゃん。まだ、火之花ちゃん家の部屋がある場所は無事だよ。もしかしたら、何か書き置きを残してくれてるかも」
「あ……うん。そうだよね。ごめん。弱気になってた」
火之花ちゃんはそう言って笑う。弱気になるのも無理はない。私達は、まだ高校二年生。精神的に未熟な部分が残る子供と大人の境目だ。
私に言われて、冷静さを取り戻せるだけ火之花ちゃんは大人な方だと思う。
急いでマンションの近くまで来ると、地面に叩き付けられた人の死体がいくつかあった。それは崩壊したマンションの部屋に住んでいた人だ。息を呑むけど、それ以上はない。ここに来るまでも、ちらほらと惨い死体はあった。胸が締め付けられたのは最初の方だけ。段々と見慣れていけば、驚くくらいで済む。
問題は、ここに火之花ちゃんの家族が含まれていないかどうかだ。頭が潰れているものもあるから、完璧な判断は出来ないけど、見たところ火之花ちゃんの家族はいない。
まだ残っている階段を使って、五階まで上がっていき火之花ちゃん家を調べる。中は物が散乱していた。植物が生えた事による揺れだけではない。人間の手によるものも見て取れる。
火之花ちゃんはすぐに家の中を調べて行く。
「防災グッズがない……缶詰とかが入ったバッグも。という事は、もう避難してるって事だ」
無事の可能性が出て来て、ホッとしたような表情をした火之花ちゃんはリビングに入っていく。私も後に続いていくと、火之花ちゃんは一枚の紙を手に取って読んでいた。
「書き置き?」
「うん。聖奈も関係あるよ。聖奈の家族と避難するみたいだから」
「そうなの?」
火之花ちゃんから書き置きを受け取ると、本当に私の家族と避難するという旨が書かれていた。避難先は自衛隊の基地らしい。まぁ、学校に避難しても、私達みたいになるのが目に見えている。自衛隊の基地なら、ある程度武力を持っているから、学校よりも安全だと判断したのかな。
「聖奈の家に行って、ちゃんと避難してるのを確認してから、私達も後を追おう」
「うん」
家に着いたけど火之花ちゃんは、自分の服に着替えなかった。火之花ちゃんの炎を考えると、今着ている難燃性のつなぎの方が立ち回りやすいからかな。
マンションから降りていく途中で、火之花ちゃんが私の事を引っ張って階段の影に隠れる。
「どうしたの?」
「あまり顔を出さないようにして道を見て」
「うん」
言われて通りひょこっと顔を出して道を見てからすぐに顔を仕舞った。
「何あれ……」
道にいたのは、これまでと同じ見た目の犬擬き。でも、その三倍以上は大きい。大型犬が子犬に思える大きさだ。
「親玉かもね……ここまで犬擬きしか出てこなかったから、もう化物は犬擬きだけかと思ってたけど、段々増えていくのかも」
「そんなゲームみたいな……」
「ゲームっぽいけど、そもそもあの化物ってどこから出て来たの?」
「…………」
火之花ちゃんに言われて、私も黙り込んでしまう。犬擬きは、基本的に植物の近くに現れた。でも、植物はどこにでもあるから、植物があるという事が、犬擬きの発生に結びつくとは限らない。
「分からないけど、少なくともあの大樹が現れてからだと思う」
「あんなのがいたら、ニュースになるだろうしね」
私達の能力みたいに大樹が出る前から、前兆みたいなものが現れている訳では無かった。あれは、大樹と周囲にある植物と共に現れている。原因は、大樹と考えるのが一番だ。
「つまり、大樹が世界に現れて馴染んでいく度に増えていく?」
「可能性はありそうじゃない? 聖奈のそれなら一撃で倒せるかもしれないけど……」
火之花ちゃんは私の鉄パイプを見る。輝きを持つ鉄パイプは、犬擬きを一撃で炭化させる。これが大樹により生まれた生物全てに適用されるのであれば、あの親玉犬擬きにも通用する事になる。
「金槌の方は?」
「バッグの横にぶら下がってるから、基本的に触ってるけど、まだ輝いてはないかな」
「ちょっと長く触っておいて。手段は増やしておきたいから」
「うん」
金槌を握って能力を発揮し続ける。ここに来るまでもバッグにぶら下げた状態で触っていたから、綺麗にはなっている。後は私の能力が馴染んだら、一撃必殺の手段になるはず。
「私の炎で瞬時に焼き尽くせれば良いんだけど……火力調整はまだ上手く出来ないから」
「あれと遭遇したら使う?」
「だね。頼りにしてるよ」
「が、頑張る……」
親玉犬擬きに対して、鉄パイプを叩き付ける事が出来るかどうかという心配があるけど、そうしないと生き残る事は出来ない。体力はどうしようもないけど、少しずつ動けるようにはなっているので、頑張ればどうにかなるかもしれない。




