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終末をもたらす大樹に唯一対抗出来るのは、私の力だけでした  作者: 月輪林檎


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3/11

蓄積する清浄の力

 六匹いた犬擬きが燃えながら藻掻き苦しみ動かなくなる。それを見てから、私達は再び駆け出していた。ただ、明らかに私の速度が落ちてしまっていた。

 さすがに、ここまで動きっぱなしだと身体が限界を感じ始めている。


「聖奈。大丈夫?」

「ご、ごめん……きゅ、休憩……」

「良いよ。こっち」


 火之花ちゃんに手を引かれて行った先には、コンビニがあった。ただし、そのコンビニは大きな蔦に巻かれて、ガラスなどが飛び散っていた。中に人がいる感じがしない。既に逃げた後なのかな。


「鞄があれば良いんだけど……これくらいか。そこまで容量はないけど良いかな。今の内にトイレとか行っておきな」

「あ、うん……ありがとう」


 火之花ちゃんは売り物になっていたバッグに携行食を入れていた。やっぱりちょっと貰うみたい。罪悪感があるけど、この状況では必要である事は間違いない。このまま家までちゃんと帰る事が出来る保証はないし。


「あれ? 流れない……」


 トイレで罪悪感などを全て流してしまおうと思ったのだけど、どうやら水が止まっているらしい。いや、あそこまで派手に植物が生えてきている訳だから、水道が破られていてもおかしくはない。

 トイレだけに流そうと考えていたのに。取り敢えず、排出したって事で切り替えよう。


「ほ、火之花ちゃん……」

「流れない? まぁ、当たり前か。手出して」

「う、うん」


 火之花ちゃんはペットボトルの水を私の手に掛けてくれる。


「いや……聖奈の場合これも要らない説ある?」

「え? いや、気分的洗いたいかな……」


 物を綺麗に出来る私の手は、何もしなくても常に綺麗な可能性がある。でも、可能性しかないので気分的にはちゃんと洗いたい。


「じゃあ、私もトイレを済ませるかな」

「えっ!?」

「いや、緊急事態だから気にしないで良いでしょ。はい。これ持ってて」


 赤面する私を余所に、火之花ちゃんは平然とトイレに入ってしまった。緊急事態というのは間違いではないので、渡されたペットボトルを頬に当てて、顔を冷ます事にする。

 そして、出て来た火之花ちゃんの手にペットボトルの水を掛けてあげる。


「良し。そっちのバッグは聖奈が持って。こっちは私ね」

「うん」


 少しずっしりとするバッグを背負う。棚の一部がごっそりなくなっているから、食料と水をしっかり確保したのだと思う。


「さてと、ここからだけど、走るのはやめようと思う」

「え? でも、早く家に着いた方が……」

「うん。家族と合流すれば、取れる選択肢が増えるから、それは急ぎたいところだけど、あまり急ぎすぎて聖奈の体力を削りたくない。数が多くなったら、聖奈の援護も必要になるから」

「そ、そっか……」


 さっきは六匹の犬擬きを倒した。私の鉄パイプだと的確に首を折るように振るわないと倒しきれない。それでもしくじる可能性の方が高い。火之花ちゃんの炎が確実だ。

 だから、私が何匹かを足止めしつつ火之花ちゃんが確殺するという形が一番だ。結局のところ私が参戦するとなると、私の体力がある程度残っている状態が好ましい。

 ヘロヘロの状態だと、寧ろ火之花ちゃんの負担が高くなってしまう。


「道を選ばないといけないから、時間は掛かるけど、一日とかは掛からないよ。そもそも歩いて二、三時間くらいだろうし」

「うん。頑張ろう」

「特に聖奈がね。良し。行こう」


 火之花ちゃんが先導しつつ、私が背後を警戒する。この形で進んで行き、遭遇する犬擬きを倒して行く。少しずつ鉄パイプの扱い方も分かってきた。


「思い出してきた?」

「少しかな。あれ?」


 ちょっとずつ戦えるようになってきたと思ったら、いつの間にか鉄パイプが発光している事に気付いた。それは、火之花ちゃんも同じだったみたいで鉄パイプを見て目を見開いていた。


「何それ?」

「分からない。でも、普通じゃないよね?」

「そうだろうね。もしかして、聖奈の能力って綺麗にするだけじゃないんじゃない?」

「え?」


 確かにその通りかもしれないけど、綺麗にする事と発光し始める事の因果関係がなさすぎて、どう繋がっているのか分からない。


『グラウッ!』


 路地裏から飛び出して私に向かってきていた犬擬きの飛び掛かり合わせるようにして鉄パイプを上から下に振り下ろす。犬擬きを地面に叩き付けるようにしようとしたら、先に犬擬きの身体が炭化して崩れ落ちた。


「え?」


 犬擬きを倒した後、発光していた鉄パイプが輝きを失う。残ったのは鉄パイプとしての輝きだけだ。


「え、怖……」


 火之花ちゃんも軽く引いていた。燃やしてもいないのに、真っ黒に炭化するという現象は意味が分からない。


「ど、どういう事なんだろう……?」

「まぁ、どう考えても鉄パイプが輝いていたのが原因だろうね。聖奈の綺麗にする能力を溜め込んで一定以上になったら、ああいった事が出来るんじゃない? ゲームの一撃必殺技みたいなゲージ溜め必要なのかも」

「ゲームっぽい仕様なら説明が欲しい……」

「現実だから、こればかりは……」

「こんな現実もおかしいと思うけど……」

「それはそう」


 そんなやり取りをして二人して笑う。余裕が生まれたというよりも、ちゃんと順応しているって感じかな。私も思考が研ぎ澄まされているような感覚を覚えているし。


「聖奈はまだコントロール出来ないの?」

「う~ん……常時使用になってるからかな。火之花ちゃんみたいな調整する感覚みたいなのがないよ」


 鉄パイプは常に綺麗な状態で維持されている。つまり能力は常に使われているという事になる。でも、私自身にその自覚がない。火之花ちゃんは、炎を出す時の感覚を完全に掴んでいるから、自由に出し入れ出来るみたい。こういうところは、感覚派の天才って感じだ。


「そっか。ちょっと待って。道確認する……げっ……完全に電波死んだ。まぁ、時間の問題ではあったから、気にせず行くしかないね」

「大体の道は分かるの?」

「ちゃんとは把握してないけど、向こうに線路があるから、大体分かるはず。後一時間くらいかな。三十分もしないで、土地勘がある場所に出ると思うから、そこまで行けば家まではすぐじゃない?」

「よ、よし! 頑張ろう……」


 さっきのコンビニから三時間。道を選び、不要な戦闘は避けているため、大分時間が掛かっている。

 そんな中でホームセンターを見つけた私達は慎重にその中に入り、内部にいた犬擬きを倒した後に必要な物資を集める。


「こっちの方が攻撃力があって良いんじゃない?」


 そう言って火之花ちゃんが渡してきたのは、俗に言うスレッジハンマーだった。


「重っ……う~ん……一撃は強くなるけど、火之花ちゃんの援護って点では心許ないから、鉄パイプの方が良いかな。鉄パイプみたいなのはない?」

「塩ビパイプ」

「ランクダウンじゃん……」

「取り敢えず、金槌は持っていけば? 鞄に入るでしょ。鉄パイプもいつまでも使えるわけじゃないし。綺麗にはしても修復は無理みたいじゃん?」

「そうだね。スレッジハンマーを持ち歩くよりは良いかも。それとこっちのバッグ使わない? コンビニに置いてあったよりも頑丈そうだし」

「だね。後は適当に動きやすい服を見繕うかな」


 ホームセンターで色々と準備をしていき、制服から動きやすいつなぎに着替える。靴もローファーから、安全靴に履き替えた。犬擬きに対して、多少は安全になると思う。

 そうして、色々と整えてから再び家を目指して出発する。

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