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終末をもたらす大樹に唯一対抗出来るのは、私の力だけでした  作者: 月輪林檎


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16/16

ありがちなハッピーエンド

 聖奈を目の前で喪い、火之花は目の光が消えていく。伸ばした手が下に落ちていき、神樹に触れる。


「……ざけんな。巫山戯んな!!」


 火之花の苛立ちが混じった嘆きと同時に全方位に向かって、火之花がこれまで放った事のない高温の炎が溢れ出ていく。神樹の周りは即座に火の海になるが、神樹自体が焼かれる事はやはりなかった。


「返して……返してよ!! 私の聖奈を返してよ!」


 火之花は立ち上がって神樹の幹を叩く。その度に大きな炎が散るが、神樹は火之花には応えない。火之花の目から涙が溢れ出てくる。


「帰ろうって言ったじゃん! 聖奈がいてくれないと帰っても意味ない! 何で……聖奈を犠牲にして平気な顔して戻れるわけないでしょ! この馬鹿! 大馬鹿聖奈! 何が大好きだ! 私の方が何年も前から何千倍も大好きだっての!!」

「わぁ、本当?」

「は……?」


 突如聞こえてきた声の主は、目の前の幹が開く事で現れた。身体が真っ白に染まっている事を除けば、それは先程神樹に飲み込まれた聖奈であった。


「やっと会えた! 火之花ちゃっ!」

「この馬鹿聖奈!!」


 火之花は現れた聖奈に向かって即座に平手打ちした。頬を叩かれた聖奈は、そのまま蹌踉けて尻餅をつく。


「何が『本当?』だっての!! 紛らわしい事ばかり……やっと……会えた?」


 先程自分を犠牲にした聖奈が何食わぬ顔で現れた事で怒り心頭に発していた火之花だったが、怒りを発していった結果、冷静さを一部取り戻し、聖奈の言葉におかしな点がある事に気付いた。

 つい先程別れたばかりだというのに、『やっと会えた』という言葉は繋がらない。

 戸惑っている火之花を見て、少し目を伏せながら聖奈はその場で正座をする。


「うん……私はさっき神樹に飲み込まれた私とは違う私。それから一万年後の私だよ」

「一万年……?」


 桁外れな数字に火之花の戸惑いが強くなる。


「正確には一万と二十二年くらいかな。私の力で神樹に溜まった邪気を取り除くのに必要になる時間。それだけ神樹の邪気は沢山溜まってたの。私は神樹に触れたその時にその事まで全部知っちゃった。だから、もう二度と火之花ちゃんに会えないと思ってた。

 私の意識が戻ってきた時には千年くらい経ってて、火之花ちゃんはいなくなってたし……絶望感が凄かったんだ。でも、その時に神樹から全てが終わったら願いを一つ叶えてくれるって言われたの。だから、火之花ちゃんと余生を過ごさせてって言ったら、この時代に飛ばされたんだ。神樹の力で私を過去に飛ばす事なんで造作もないみたい。所詮、私は人間だからね」

「それから九千年間も……」

「うん。いつか火之花ちゃんに会えるって、それだけ考えてずっと耐えてた。嫌な事も沢山あったけど……こうして会えた。信じられないかな……?」


 聖奈の困ったような笑みを見て、火之花は自分の胸が有刺鉄線で締め付けられたかのような苦しさを覚える。聖奈にそんな顔をさせたのが自分であるためだ。

 火之花は、聖奈に手を伸ばす。


「信じるに決まってるでしょ。でも、一万年も神樹の中で生きていたって、頭は問題ないの?」


 眠っていた千年を除く九千年の記憶を聖奈は持つ事になる。今の聖奈は人間であるため、そんな記憶を持って問題ないのかは火之花にとっても重要なポイントだった。


「うん。今もどんどん記憶は消えてる。嫌な出来事もめでたい出来事も。でも、今の私には必要ない。それはこれから先の人達だから」

「そう。なら良かった」


 火之花はそう言って、神樹の幹に触れる。


「聖奈……また来るからね」

「…………」


 これには聖奈の方が黙るしかなかった。実際には、この声は神樹の中の聖奈には届いていない。聖奈は千年後まで意識が覚醒しないからだ。


「ほら、帰るよ」

「あ、待ってよ、火之花ちゃん」


 根を伝って歩き始める火之花を追って聖奈も駆け出して横に並ぶ。


「歩けるの?」

「ん? うん。身体は弱ってるわけじゃないから。新しく構築されたのかも。ねぇねぇ、それよりもさっきのもう一回言ってよ」

「さっきのって?」

「大好きって。私は火之花ちゃん大好きだよ」

「へぇ~、そっか」

「火之花ちゃん意地悪。私頑張ったのになぁ」

「私に黙ってね」

「うっ……そ、そうだっけぇ……い、一万年の記憶で薄れちゃったなぁ」

「ふ~ん……」

「うぅ……ごめんなさい」

「最初に言えっての。おかげで、真っ赤かですよ」

「私も真っ白。二人で紅白だね」

「何がめでたいんだか」

「二人の再会?」

「はいはい。一万年で大人に成長出来なかった聖奈さん」

「あぁ! そんな事言うんだ!? そもそも記憶が消えてるから、大人じゃないしぃ。火之花ちゃんと同い年の状態ですぅ」

「全く……逆に子供に戻ってる気もするわ」

「ねぇねぇ、火之花ちゃん」

「うるさ~い」


 邪険にする火之花に聖奈はむくれるが、これは火之花なりの仕返し。火之花に何も言わずに自分自身を犠牲にして世界を救おうとした聖奈への。だが、火之花の中にある聖奈への気持ちは変わらない。


────────────────────


 この先、神樹の周囲には本当に安全な場所が出来る。その範囲に植物や化物は入ってくる事はない。ここに人々が集まっていく。それは世界中の神樹で起こる事だ。

 神樹は繋がっている。私が一万年を掛けないといけなかった理由は、これにある。神樹と繋がっている理由は、神樹本体が地球に収まる大きさじゃないから。分裂して様々な場所に生える事で大きさを補う形となった。

 この全てを浄化しないといけないから、それ相応の時間が掛かった。


 千年後。人々は神樹を中心に活動をしていた。工場なども出来ており、元々の文明力がある程度復活してきていた。世界の復興。それは喜ばしい事だ。そのために統治者なども生まれていた。これが火之花ちゃんとかだったら良かったけど、火之花ちゃんの姿はこの時どこにもなくなっていた。

 学校も出来ていて、与えられた能力の研磨などが始まっていた。中にはこれを呪いと言っていた子もいた。欲しくて手に入れたものじゃない。その通りだ。神樹の恩恵とも言えれば、呪いとも言える。

 同時に空間の歪みが出来ていた。それは私の浄化と邪気の抵抗により発生したもの。人類はそれをダンジョンだとか呼んでいたけど、安定した空間ではないので、そこから資源を得るという行為は私にとって危険な事にしか思えなかった。


 二千年後。神樹の安全エリアは少しずつ拡大されていく。それは私がしている浄化が進んでいるから。それでも本当に少しずつだった。それが良くなかったらしい。

 隣の芝生は青い。他の安全エリアとの僅かな交流が、この思考を加速させていき、やがて相手の土地を奪おうという考えが生まれた。この奪い合いに能力は打って付けだった。

 能力による人の殺し合い。それは私と火之花ちゃんもやった。守るための戦い。でも、最終的に相手を効率良く殺すための技術を磨き始め、ただただ相手を殺すだけの戦争が度々勃発するようになった。

 そもそも争う理由が乏しい無意味な争い。相手の神樹を奪ったところで、またそこが独立して戦争を始める。当たり前だ。神樹同士でどれだけ離れている事か。神樹が傍になければ、増えた化物にどんどんと襲われる。

 その中での戦争なんて正気じゃないと思うけど、既に化物がいるのが当たり前になっているのでそれ前提での戦争が起こっていた。

 無意味に人が死んでいく。その光景は、私にとって精神を削るようなものだった。


 四千年後。戦争は基本百年ごとに起こっていた。基本的に年単位で起こっており、最大で九年続いた。そんな戦争もこの頃になると落ち着いてきていた。理由は人が少なくなったから。

 疲弊しきった人類は、神樹の周辺で大人しく暮らし始める。互いの安全エリア同士で多少の交流はあったけど。

 この頃になると神樹の安全エリアは東海道と東北に伸びていた。


 七千年後。再び戦争が起きる。人が増えれば戦争をする。愚かな生き物だ。大抵は他の資源が欲しいから。資源のやり取りをしているが、その独占がしたくなるものらしい。

 この問題は統治者が一番大きな影響を与えている。戦争は統治者が変わると落ち着き、統治者が変わると起こっていたから。

 もうこのまま人類が滅んだ方が良いとすら思い始めた。


 九千年後。また戦争が落ち着く。この頃になると、安全エリアは本州を覆っており、九州や北海道の一部も安全になっていた。人々は安全に暮らせるようになっていた。

 安全な場所が増えれば平和になるというと、それは違った。平和になれば内側での犯罪が増えた。いや、平和だからこそ目立つだけだったのかもしれない。

 こうした犯罪は理不尽な事ばかりが多かった。見たくなくても神樹の安全エリア内の出来事は頭に入ってきてしまうので、とてつもなく不快だった。


 一万二十二年後。神樹の浄化が終わり、世界から植物と化物とダンジョンが消え去る。そもそも邪気を消し去るための浄化であり、邪気から生まれていたのだから、浄化が終われば消えるのは当たり前だった。 この時から能力を持つ人も消えていく。能力の元になっていた神樹も世界から元の次元へと帰り、世界は一万二十二年前に戻る。

 その時点で私は火之花ちゃんの元に戻りたいという願い伝えて、こっちに戻って来た。だから、その後の人類がどうなったのかは分からない。



 でも、本当はね。いっそ人類を滅ぼそうかとも思ったんだ。存在する意味がないってね。そんな場面を何度も何度も何度も何度も見てきた。

 それでも私は、火之花ちゃんを選んだの。そんな場面を見てきたが故に、真っ直ぐ誰かのために動く火之花ちゃんの温かさを思い出せたから。火之花ちゃんが私の心を支えてくれたんだよ。火之花ちゃんが……火之花ちゃんがね……




 私が火之花ちゃんの手を取ると、火之花ちゃんは撥ねのける事もなくすぐに受け入れてくれた。火之花ちゃんは怒っているけど、嫌いにはなっていない証拠だ。私はそれが嬉しい。


「ところで、この炎大丈夫?」

「まぁ、そのうち消えるでしょ」

「適当だなぁ」

「これも聖奈がいなくなったのが原因だから」

「あ、あははは……」


 私達は並んで帰路に着く。途中で日暮さん達と合流して無事にお母さんのところに戻る。

 ここからが私達の幸せな時間の始まりだ。幸せになれると良いな。幸せになりたいな。

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