大好きな人には生きていて欲しい
「この……邪魔だっての!」
大樹に近づいていくと、どんどんと化物の数が増えている。未だに犬擬きか人擬きしかいない。まだ化物の進化は進んでいないと考えて良さそう。
火之花ちゃんが次々に焼き払っていく。その間に、私は近くの道を塞いでいる植物を炭化させる。
「火之花ちゃん! こっち!」
「分かった!」
路地裏を通り、火之花ちゃんが背後に炎を広げて、追っ手を撒く。私の足跡もあるので完全に追っ手はこっちに来られない。
「ったく、根っこに辿り着くのも一苦労だよ」
もう目の前に見える根っこ。そこに辿り着くまでに、どんどんと化物が増えている。そのために進路を何度も変えていかないといけなかった。植物で壁を作られていても、私が触れれば炭化するので壁にはならないというのが大きく遠回りはさせられても、遠ざけられるという事はなかった。
現にこうして根っこが目の前に存在する。
「ここを抜ければ根っこだよ」
「やっとかぁ……」
根っこの傍まで走っていき、私は迷わずに手を触れる。私の能力が大樹に対して発動する。そのはずだった。
「聖奈?」
火之花ちゃんが心配そうな表情で私の顔を覗きこんでくる。その理由は、私が大樹の根っこに触れた状態で固まっているからだ。多分、火之花ちゃんから見た私は顔面蒼白になっている事だろう。
「聖奈! 大丈夫!?」
「あ……うん。大丈夫」
火之花ちゃんに再度呼び掛けられて、私は火之花ちゃんの方を向く。そして、出来るだけ安心させられるような笑顔をする。
「触れて分かった。これはここからじゃ駄目っぽい。あの幹まで行かないと」
「何で分かるの?」
火之花ちゃんは眉を顰めながら確認してくる。触れただけで分かったという点が、火之花ちゃんからしたら違和感になるのだと思う。
「この大樹が教えてくれたの。取り敢えず、この根っこの上に行こう」
「…………分かった」
納得いかないような表情をしていた火之花ちゃんだけど、このままここで話していたら、化物達に囲まれる可能性が高いからか頷いてくれた。
火之花ちゃんは私をお姫様抱っこすると、足から勢いよく炎を噴射して飛び上がった。指向性を持たせて、火力を高める事でロケットみたいな感じになる。最初は真っ直ぐ飛べていたけど、重心の変化などでバランスが崩れていく。
でも、何とか根っこの上に来る事が出来た。後は、この根っこを駆け上がっていくだけで、幹には辿り着ける。
「行こう」
「その前に、一体どういう事なのか教えて」
私を下ろした火之花ちゃんはしっかりと私の手首を掴んでそう言った。その表情は真剣そのもの。私からその情報を聞くまでは動かないという意思がビシビシと伝わってくる。
「……この大樹は、元々神樹って呼ばれる別の次元に存在した大樹なの。この世界のバランスだとか、色々を支える大事な樹なんだけど、長い時の中で、こっちの世界から送られてくる不浄とかに侵されていったの。その結果、その不浄を放出しないと神樹が死ぬかもしれないってくらいになっちゃった。その不浄があの植物や化物。
火之花ちゃんは気付いてると思うけど、あの植物は神樹とは違うでしょ?」
「……確かに蔦っぽいけど」
私達の街を壊した植物は、木というような状態ではなく蔦が一番近い。
「不浄は神樹とは違う意思を持ってる。積もりに積もった不浄は神樹を完全に自分のものにしようとしてる。だから、神樹の近くに来るにつれて植物と化物が多くなっていった。私の能力は不浄の黒の天敵だから。
その私の能力を神樹全体に伝えるには、根っこは駄目。神樹の幹から全体に広げないといけないの」
「神樹に触れた瞬間、その情報が聖奈の中に入ってきたって事?」
「うん。神樹には意思がある。その意思で伝えてきた。助けてって。だから、火之花ちゃん、私をあそこまで連れて行って!」
私のお願いに火之花ちゃんは、また眉を顰める。その理由は私の話が信じられないからだと思う。正確には神樹が寄越した情報の方だと思うけど。
「……わかった。どのみち当初の目的がそれだから信じてあげる」
「ありがとう。火之花ちゃん。火之花ちゃんが一緒にいてくれて良かった」
「はいはい。全く困った子だよ。昔から変なところで意思が硬いんだから。ほら、さっさと終わらせて帰ろう」
「うん……」
火之花ちゃんと一緒に根っこの上を走って駆け上がっていく。その途中で次々に化物が出て来るけど、私と火之花ちゃんの連携があれば、簡単に突破できる。
そのまま三十分くらい走り続けてようやく幹に辿り着く。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
さすがに体力なしにほとんど坂になっている根っこを三十分走り続けるというのはキツかった。でも、息を切らしながら幹の前に来る事は出来た。
「後ろは任せて!」
火之花ちゃんはそう言って背後に大きな炎を放つ。炎は神樹にも当たっているけど、神樹自体が燃えていく事はなかった。
私は幹に手を伸ばしたけど、触れる直前で止まる。熱くなる目を無視して、笑顔で背後を振り向く。
「火之花ちゃん!」
名前を呼ばれて振り向いた火之花ちゃんが瞠目する。私は笑顔を心掛けたでも、溢れる涙ばかりは止められなかった。
「聖奈……?」
「ごめんね! 大好きだよ!」
私はそう言って神樹の幹に触れる。すると、幹が光り輝き私を枝が包み込んでくる。
「聖奈! 駄目!」
火之花ちゃんが必死の表情でこっちに走ってくるのが見える。それが嬉しくて申し訳なくて、やっぱり涙が溢れてくる。
神樹が溜め込んだ邪気を浄化する方法。それは、私のような黒を消す能力者を神樹が取り込み、その中で邪気が消えるまで能力を行使し続ける事。その初期段階で表面上の邪気は消え去り、神樹の周りは邪気由来の存在が踏み入れる事の出来ない安全な場所となる。
結局、皆を救うためには私が犠牲になるしかなかった。私はそれを根っこに触れた瞬間に知った。知ってもやめなかったのは、火之花ちゃんに生き残って欲しかったから。大好きな人に生きていて欲しかったから。
神樹に飲み込まれていき、やがて私は意識を失う。




