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終末をもたらす大樹に唯一対抗出来るのは、私の力だけでした  作者: 月輪林檎


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思い出の蓋は除かれた。彼女を閉じ込めるものは何も無い

 戦闘を避けた大樹までの道程は、大分遠回りになる。でも、全ての戦闘を避けられる訳では無い。


「ここは戦闘で突破する必要があるな。西園寺、大規模な能力は使うな。道が塞がる」

「了解」


 火之花ちゃんの炎が広がると、私達も進めなくなるので、火之花ちゃんには炎を節約してもらうしかない。まぁ、最初の時と同じ戦い方になるだけだ。

 私は懐刀を抜く。刀身まで真っ白に染まっている。


「戦闘は最小限。ここを一気に抜けるぞ。西園寺、先頭を頼む」

「うん」

「俺達は援護。大樹に着くまでに、東堂の体力が尽きないように東堂は最小限の戦闘だ。すまないが、全部を抜けさせないのは無理だ」

「はい。相手が人型なら問題はないと思います。元々私が習わされた武術は人に対するものなので」

「心強いな。西園寺、良いぞ」

「うん!」


 火之花ちゃんは両手に炎を纏って走る。私達はその後ろについて走る。走りながら日暮さん達が正面にいる人型の化物、人擬きを撃っていく。人擬きはどんどんと私達に向かって来る。頭を撃てば取り敢えず倒せるみたい。

 火之花ちゃんは迷わず顔面をぶん殴っていた。日暮さん達も銃剣を着けて近接でも戦っていた。数が数千くらいいるので、私の方にも来る。

 首に突き刺し炭化させる。懐刀に掛けた能力が霧散するかと思ったけど、能力の付与が継続している。


(そういえば、軍艦も継続してた……私の能力も進化が続いてるって事?)


 懐刀の能力が継続するなら、私の武器での攻撃も常に一撃必殺になる。でも、能力の進化が発生するって事は、また気絶するかもしれない。


「東堂! 止まるな!」


 一瞬思考に入ってしまったため、動きが止まってしまっていた。


「……ごめんなさい!」


 日暮さんに止まるなと言われた瞬間、私の記憶の中に蘇るものがあった。それは何故これまで忘れていたのか分からないもの。忘れちゃいけなかった大切な思い出であり、苦い思い出。


『聖奈。止まるな。止まれば死ぬ。動き続けなさい。生き残るために。動いていれば命は繋がる。よく見て、よく動き、止まる事なく生き続けなさい。聖奈なら出来る。さぁ、もう一度だ』


 お祖父ちゃんの言葉。稽古を受けている時、お祖父ちゃんはよくそう言っていた。だから、お祖父ちゃんとの稽古では一度でも止まったら、すぐに倒されていた。その稽古は辛くて、大変で、何度も逃げ出したくなって、一度はお祖父ちゃんが大嫌いになって……でも、やっぱり大好きで。亡くなった時は悲しかった。辛かった。

 だから、稽古もやめた。思い出したくなかった。辛いから。でも、やらないといけなかった。それはお祖父ちゃんとの思い出だから。

 もう忘れない。


「そうだ。止まっちゃ駄目だ……動かなきゃ!」


 私は速度を上げる。目の前に来る人擬きの首を斬り、そのまま背後にいる人擬きに触れてから、止まらずに走り続けて次々に人擬きを倒して行く。

 首を斬る。脇を斬る。太腿を斬る。鼻の下を殴る。鳩尾を殴る。膝を蹴って態勢を崩したところを延髄に突き立てる。人擬きの中を通って近づいてくる犬擬きの顎を蹴り上げて、晒された喉に突き立てて裂く。

 後は能力が覚醒した時に上がっている身体能力で、この動きを強引に成り立たせながら、相手の攻撃を全て避けて突き進む。


「東堂! 突出し過ぎるな! 西園寺! 任せるぞ! こっちは任せろ!」

「分かった!」


 火之花ちゃんが私の手を掴んで走り、背後に炎を広げる。


「火之花ちゃん!?」

「能力者が後ろから来てる。日暮さんに任せるしかないよ」

「能力者……?」

「気付いてないと思った。集中しすぎ」


 後ろを見ると、日暮さん達が背後に向かって撃っている。そっちから得体の知れない攻撃が飛んできている。


「でも、日暮さん達が」

「私達の目的は?」

「私が大樹に辿り着く事……」

「信じて任せるしかないよ」


 火之花ちゃんはそう言って、背後の方に特大の炎を放って、私達の退路と同時に能力者達がこっちに来られないようにしていた。


「大樹は見えてるんだから、私達は真っ直ぐ突き進むだけ。ここからは能力温存せずに行くよ。信じてくれる皆やここに送り出してくれた皆のためにも」

「……うん。分かった!」

「よし! 行くよ!」

「うん!」


 私と火之花ちゃんは、速度を上げて突き進む。近づいてくる人擬きなどは火之花ちゃんが焼き払い、私も次々に斬り裂いてく。火之花ちゃんは能力を温存しないから、足まで燃えていた。靴もない。どんどんと炎が強くなっていくので、こっちも熱くなるかもしれないと思ったけど、火之花ちゃんはそこら辺も調整しているらしい。感覚派の力は凄いな。

 能力を強く発している火之花ちゃんの髪が半分まで赤く染まっていた。


「火之花ちゃん! 大丈夫!?」

「何が!?」

「髪! 染まってるよ!」

「うげっ! 染め直せなかったら、大樹恨むわ。取り敢えず、意識はしっかりしてる。最初の気絶は順応に必要だっただけで、そこからの覚醒には必要ないのかもね。聖奈の髪も染まってる」

「え? あ、本当だ……」


 私の髪も白く染まっている。そして、今も色は上ってきている。能力が覚醒していく証だと思う。


「覚醒……私の素肌……火之花ちゃん! 私の足焼いて!」

「はぁ!?」

「早く!」

「もう! 調整が上手くいくとは限らないんですけど!」


 火之花ちゃんは私の足を焼く。調整が上手くいくか分からないと言っておきながら、しっかりと私の肌は火傷を負っていない。私も火之花ちゃんと同じように素足になった。


「目的は!? 攻撃手段じゃないよね!?」


 素肌が私の能力の効果範囲と知っている火之花ちゃんは、最初私が素足で蹴られるようにするために頼んだと考えたみたいだけど、私の戦い方で足を使う事は割と少ないので、それは違うと気付いたみたい。

 さすがは、小学校の時からの付き合い。


「私の能力が覚醒してるなら、触れるものは多い方が良い。ちまちま戦うしかなかったけど、私だって火之花ちゃんに負けられないからね!」


 私が踏んだ地面。そこが白く染まる。それは足跡。そして、黒を消し去る罠。

 私達を追ってきていた化物がそれを踏んで炭化する。能力の覚醒により、足跡は残る。私が歩いた道が安全な道となる。


「やるじゃん」

「私が歩いた場所が道になる! なんてね」

「調子出て来たじゃん。小学校の時みたい」

「気分が沈んで、そのままになってたけど。蓋が取れたから」

「そっか。さっ! ラストスパートだ。私達二人なら行ける」

「うん!」


 私達は走り続ける。体力の限界。そんなもの投げ捨てちゃえ。お母さんの想い。日暮さん達の信頼。お祖父ちゃんとの思い出。そして、隣にいる大切な人に応えるため。

 何があっても、大樹をどうにかして、終末を終わらせる。

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