やるべきと決めれば一直線
火之花ちゃんとお話しながら二時間くらい経った時、私達のところに日暮さんがやって来た。私達が姿勢を正そうとすると、日暮さんは手で制止した。今検証中だという事が分かるからかな。
「お嬢ちゃん達……って、そういや自己紹介してなかったな。俺は日暮守孝」
「東堂聖奈です」
「西園寺火之花です」
「東堂と西園寺だな。少し聞きたいんだが、能力の覚醒はどういう時に起きた?」
「私達は能力を沢山使ったからだと思う。それまで私は戦闘で使っていたし、聖奈は常時使用だから。聖奈の場合は、鉄パイプをずっと握っていたからっていう風にも考えられるけど」
「継続的な能力の使用だな。それ以外に何か心当たりはあるか?」
そう言われて、私と火之花ちゃんは顔を見合わせる。でも、私も火之花ちゃんも何も心当たりがないので、互いに何もないという事が分かるだけだった。
「特には」
火之花ちゃんが答えてくれる。
「そうか。まぁ、その辺りは共有しておくか。そうだ。東堂と同じ能力の持ち主だが、避難民の中にはいなさそうだ。西園寺と同じような火の能力者はいるが、現状火力が段違いだ。これが覚醒関連なら良いんだが」
「戦力にならないくらい弱いんですか?」
「基本ライター。強くして火炎放射器だな」
因みに火之花ちゃんの最低火力は、火炎放射器の十倍くらいはある。それを手に纏って殴っているのだから、犬擬きも一溜まりもない。
「覚醒の時の夢で火力の最大値とかは変わってきそうですね。私は太陽でした」
「太陽の火力って事か……地球が焼失するな。その火力があれば、大樹も燃やせるか……」
「その場合どこまでが燃えるか分からないけど」
あの大樹を焼失させる程の火力を出すとすれば、東京都だけではなく関東一帯が被害を受ける可能性がある。それで消えるなら良いけど、消えなかった場合が困る事になると思う。
「理想は大樹を完璧に消し去る事。次善として、大樹による世界の崩壊を防ぐというところだな」
「世界の崩壊? そこまで言ってるんですか?」
「まだ確定したわけじゃないが、無線からの情報や調査に出した部隊からの報告を受けたところ、そう考えられる。どうやらあの植物はまだ増えているらしい」
街に現れた私が炭化させられる巨大植物。あれがまだ増殖傾向にあるとの事。あの植物自体が何かしているって感じはないけど、あれと同時に化物が出ているので、何かしらの関連があると考えた場合、増殖しているのは悪い傾向となる。
「私が消しても焼け石に水って事ですか?」
「申し訳ないがそのとおりだ。東堂と同じ能力を持ったやつがいれば、もう少し作戦の立てようがあるんだが、中々にレアな能力のようだ」
「レア……そうだ。大樹が出る前に能力っぽいものが出ていた人はいませんでしたか? 私は大樹が現れる前には触れた物を綺麗にする力がありました。火之花ちゃんは、体温が高い状態なのに他の風邪の症状が一切ない状態でした。そんな感じで能力の前兆みたいなのがある人がいたと思うんです」
「能力の前兆か。確認しておく。ところで、東堂の周りだけ妙に綺麗な地面になっているのは能力のおかげなのか?」
「一応そうです」
私の能力が地球に影響するのか。その答えは微妙だ。一応地面は綺麗になっている。私の半径一メートルくらいは異常なまでに綺麗になったけど、それだけだ。建物と比べて、進みが遅いには何かしらの理由があるのだろうけど、それを調べる術はない。
取り敢えず、地球本体に対して能力は使えるが、それが地球全体に行き渡るのに物凄い時間が掛かるという事は分かった。
「東堂の能力で地球全体を安全にするっていうのは現実的ではないな。こっちも人数がいれば良いんだが、正直なところ、そこまで時間があるかも分からない」
「そんなに植物の侵攻が早いんですか?」
「それもあるが、犬型だけじゃなく、他にも化物が出始めた。あの親玉のような個体さえいなければ、こっちでも対処出来てはいるが、それが出来なくなるのも時間の問題だ」
「銃弾の補給が出来ないから……」
「そういう事だ」
この状況で工場が稼働しているとしたら、それは奇跡だ。電力の安定供給も何も出来ない状態だから。
「着実に終末に近づいてるな。何とか食い止めたいところだが、大元になっているであろうあの大樹をどうにかしねぇと……」
「大樹を……なら、私が行きます」
「東堂が? だが……」
「私の能力は、大樹が出て来てから生まれた存在を消す事が出来ます。多分、大樹も対象になるか、大樹自体の力を消す事が出来るんじゃないかと。現状、対抗する手段は私か火之花ちゃんの火力しかないんです。世界が滅びを迎えるなら、やれる事はやらないと」
「私も聖奈に賛成。そもそもあれと化物をどうにかしないと、今後の生活すら危ういし」
火之花ちゃんも賛成してくれた。もし大樹が世界に終末をもたらすというのなら、人間が終末の過程で絶滅するという事も十分にあり得る。運良く終末を生き延びるとかは期待しない方が良い。
それならこの終末をここで終わらせるために動いた方が後悔は少ない。
「……分かった。だが、これは東堂の親御さんの許可を得たらの話だ」
「え?」
「未成年の子供に、役目を押し付ける事になる。そんな事を親に黙ってやるつもりか? 俺達自衛隊が交渉するのは最後だ。まずは自分で許可を貰って来い。それが筋ってもんだろ」
「確かにおばさんに許可は貰った方が良いだろうね。大樹に近づくって事は、それだけ命の危険も伴うし」
「なるほど……それもそうだね。ちょっと行ってくる」
こればかりは二人の言う通りなので、私は立ち上がってお母さんを探しに向かった。すると、ちょうどお母さんがこっちに来ているのが見えた。まっすぐにお母さんの元まで向かう。
「お母さん!」
「お昼を持って来たのだけど、もう検証は終わり?」
「今のところは? その前にお母さんに話があるの。私、大樹のところに行って大樹に向かって能力を使ってくる」
「ん? どういう事?」
直球で言い過ぎたかな。お母さんは一瞬理解が遅れているようだった。
「だから、大樹をどうにかしてくる。私の力は地球に対して使うには不向きみたいで、地球全体を安全にさせるには長い時間が必要になる。でも、あの植物とかにはすぐに効果が現れる。あの大樹が同じような感じで出来てるなら、私は大樹を消す事が出来ると思うの。そうでなくても、大樹の力を弱体化出来れば、今世界を覆おうとしている植物や化物を減らせる。それに人の生存圏も広がる。
私にはその力がある。大きな力を持つ者は、その力を振るう責任を理解していなければならない。力は」
「力は弱き者を害するためにあるわけではない。弱き者を守り、皆に平和をもたらすために使うものだ。お祖父ちゃんの言葉ね」
火之花ちゃんと一緒にここまで戦いながら進んでいる時、私はお祖父ちゃんから教わった事を思い出していた。その一つが、この言葉だ。
私が大樹をどうにかしないといけないなら、自分が行くと言った理由もこの言葉にあった。能力を持つ以上、私は弱き者ではなく、強き者になる。
「私にその責任があるわけじゃないけど、どうにか出来るかもしれない力を持ちながら何もせずに被害が拡大してお母さん達まで喪うのは嫌だ。大切なものを守るために、私は戦いたい。怖いって気持ちはあるけど、喪う方が怖いから」
私が真っ直ぐお母さんを見ながら宣言すると、お母さんはため息をつきながら私の頭を撫でる。その手付きはお母さんのものでありながら、何となくお祖父ちゃんの感じがした。
「分かったわ。本当にお祖父ちゃんが亡くなってから、普通の女の子みたいになったと思ったのに、もうあの頃の目に戻っているんだもの。止める理由がないわ。大樹に向かうという事は、自分がどうなるかも分かっているのでしょう?」
「もしかしたら、死んじゃうかもしれない……」
「そう。それでも行くと言えるくらいに覚悟は決まっている。そういう事ね?」
「……うん! 私は私に出来る事を頑張る!」
「分かったわ。でも、一つ覚えておきなさい。お祖父ちゃんは教えていなかったけれど、強き者にもちゃんと帰る場所がある。最初から死ぬ気でいる事は許されないわ。最後の最後まで足掻いて足掻いて足掻きなさい」
「うん!」
お母さんの許可はちゃんと貰った。後は、これを日暮さんに共有して、これからどうするかを話し合うだけだ。




