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麦畑の大競走と消えたケンタウロスの秘密

これは私が作っている新しい物語です。皆さんの応援をいただければ幸いです。

勇者ライトノベル、ケン、そしてそのパーティは、黄金色の小麦畑がどこまでも広がる地方へと足を踏み入れた。


 風が吹くたびに、波のように揺れる穂先。その中央には白い石造りの競技場があり、歓声が空へと溶けていく。


 この地では、ケンタウロスの女性たちが古代の競技さながらの大競走を行うことで知られていた。力強い四肢としなやかな上半身。彼女たちは誇り高き走者であり、観客たちは彼女たちを英雄のように讃えていた。


 しかし――


 ここ数週間、出場予定だったケンタウロス女性が相次いで姿を消しているという報告があった。


 その中には、次の大競走で優勝最有力と噂されるコメンテアの名も含まれていた。


「……空気が重いな」


 ケンは麦畑の匂いを感じながら呟いた。


 ライトノベルは静かに頷く。


「犯人は必ず捕らえる。勇者として当然の務めだ」


 その声は力強く、迷いがなかった。


 夜。


 ケンたちは、競走者たちが休む大きな厩舎へと身を潜めた。


 干し草の匂い。寝息。かすかな蹄の音。


 緊張が走る。


 やがて――


 黒装束の男たちが音もなく侵入してきた。


 彼らは低く呪文を唱える。


 淡い紫の光が、第二位候補パソコナの身体を包み込んだ。


 彼女の身体が、ゆっくりと宙に浮かび上がる。


 眠ったまま、気づくこともなく。


 まるで重力から切り離されたかのように、ふわりと。


 ケンの瞳が細まった。


(なるほど……浮遊魔法か)


 男たちはそのまま、音もなく厩舎を出ようとする。


 ケンは小さく息を吐いた。


 そして――


 スキルを発動する。


 黒装束の男たちの脳裏から、「浮遊魔法の発動方法」という知識が、静かに削ぎ落とされた。


「……あ?」


 一人が困惑の声を漏らす。


「呪文が……思い出せねぇ……?」


 次の瞬間。


 パソコナの身体が重力に引かれ、干し草の上へと落ちた。


 鈍い音。


「何が起きやがった!?」


 混乱する盗賊たち。


 その背後から、鋭い刃が閃いた。


「ここまでだ」


 ライトノベルの剣が闇を切り裂く。


 彼のパーティも一斉に動いた。


 金属がぶつかり合う音。

 怒号。

 血飛沫。


 盗賊たちは抵抗したが、勇者の剣技の前では無力だった。


 次々と倒れていく。


 だが――


「一人、逃げた!」


 ケンが叫ぶ。


 黒装束の男が裏口から麦畑へと走り去っていく。


 ライトノベルとケンは即座に追った。


 月明かりの下、小麦が割れる。


 やがて辿り着いたのは、朽ちかけた石造りの倉庫。


 中から微かな声が聞こえる。


 二人は扉を蹴破った。


 そこには――


 縛られたケンタウロス女性たち。


 そして、憔悴しながらも鋭い瞳を持つコメンテアの姿。


 逃げた盗賊は剣を抜いたが、ライトノベルの一閃で沈黙した。


 静寂。


 ケンは縄を解き、コメンテアを解放する。


「……助けに来てくれたのですね」


 彼女の声は震えていたが、誇りは失われていなかった。


「間に合ってよかった」


 ケンは短く答える。


 コメンテアは深く頭を下げた。


「あなたのおかげで、私はまた走れます。命の恩人です、ケン様」


 他のケンタウロス女性たちも、次々と感謝の言葉を述べる。


 ライトノベルはその光景を静かに見つめていた。


 そして――


 彼の視線が、わずかにケンへ向けられる。


 じっと。


 観察するように。


 何も言わず。


 ただ、見ている。


 ケンは一瞬だけ、その視線に気づいた。


(……?)


 だが、すぐに意識を戻した。


 任務は完了したのだ。


 翌朝、小麦畑には再び平穏が戻った。


 遠く、競技場からは歓声が響いていた。


 ――


 その地から遥か東。


 ファンタの東方にそびえる古い城。


 重いカーテンに閉ざされた一室。


 窓辺に立つ、ひどく痩せた女性の姿があった。


 病的なまでに白い肌。


 疲れ切ったような瞳。


 彼女は小さく咳き込む。


 白いハンカチに、赤が滲んだ。


 それでも、その視線は遠い地平を捉えている。


 まるで、何かを見ているかのように。


 風が城の塔を撫でる。


 部屋は再び静寂に包まれた。


 ――そして、夜は更けていく。

この最初のエピソードを読んでいただき、ありがとうございます。次のエピソードはすぐにアップロードします。

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