南の森を荒らす巨大狼を“忘れ”させたら、観光利権を狙う貴族だった件
これは私が作っている新しい物語です。皆さんの応援をいただければ幸いです。
南方諸州の森に、巨大な狼が現れる――
そんな噂が王都にまで届いた。
勇者ライトノベルは地図を広げる。
「三年前から出没。人的被害は少ないが、家畜や農地が荒らされている。住民の半数以上が移住したらしい」
半数以上。
それは、災害に近い。
現地に到着して、俺は少し驚いた。
空気は澄み、風は柔らかい。
森は豊かで、川は透明。
気候も穏やかだ。
「……悪くない場所だな」
槍使いが呟く。
むしろ、住みやすそうだ。
それなのに、人が減っている。
村に残っていた老人が言う。
「三年前、突然あの狼どもが現れた。夜になると森を徘徊してな……」
「襲われた者は?」
「追い払われるだけだ。だが恐ろしい。あんな巨体、勝てるはずがない」
妙だ。
本気で排除するなら、人を殺す。
だがそれはしていない。
“恐怖”だけを与えている。
さらに話を集めると、ある事実が浮かび上がる。
この土地は元々、サー・トーマス四世の私有地だった。
だが彼は移民の農民に無償で土地を分け与えた。
開墾させ、村を作らせた。
そして三年前――
トーマス四世が死去。
ほぼ同時期に、巨大狼が出現した。
偶然にしては出来すぎている。
狼を誘き出す方法は単純だった。
森で野営すること。
「餌だな」
ライトノベルが言う。
俺たちは森の奥で火を焚いた。
夜は静かだ。
星がよく見える。
こんな場所なら、確かに観光地にできる。
宿泊施設、温泉、狩猟体験。
金の匂いがする。
遠吠え。
低く、重い。
木々の間から現れた。
巨大な狼。
体長三メートルはある。
黄金の瞳。
統率の取れた動き。
五体。
包囲する。
「来たな」
ライトノベルが剣を抜く。
狼は唸るが、飛びかかってこない。
様子を見るように距離を保つ。
やはり――
本気で殺す気はない。
俺は一歩前へ出る。
魔力を広げる。
忘却。
「自分たちが“狼である理由”を、忘れろ」
風が止む。
巨大な体が揺らぐ。
毛皮が霧のように消え、牙が縮み、四肢が人の形へ戻る。
そこに立っていたのは――
豪奢な狩猟服を纏った若い男。
そして数名の同年代の貴族。
「……サー・ケネス」
ライトノベルが低く呟く。
ケネスは舌打ちする。
「忌々しい勇者どもめ」
「父は愚かだった」
拘束されながらも、ケネスは吐き捨てる。
「こんな土地を、農民にくれてやるとはな」
周囲の森を見渡す。
「気候は穏やか。景観は一級品。観光開発すれば、年百万枚の金貨は固い」
百万。
確かに可能だろう。
「だが土地は既に農民の名義だ。だから恐怖を与えた。価値が下がれば、安く買い戻せる」
理屈は明快。
残酷なほどに。
ライトノベルが静かに言う。
「威嚇による土地売却の強要。変身魔術の悪用。現行犯だ」
ケネスは笑う。
「証拠は消える。叔父が議会にいる」
余裕。
何度目かの摘発なのだろう。
また釈放される可能性は高い。
夜明け。
森は再び静かになる。
あの狼たちは、もういない。
村に戻れば、人々は安心するだろう。
だが、俺は考える。
勇者は、結果を出さねばならない。
役に立たねば、価値はない。
だが彼らは違う。
生まれた瞬間に、土地も、権利も、影響力も持っている。
失敗しても、悪事を働いても、爵位は残る。
俺は違う。
証明し続けなければならない。
この森のように、価値を示さなければ。
そうしなければ――
いつか俺も、不要と判断される。
ライトノベルが言う。
「土地は守られた。だが……」
続きを言わない。
政治は剣より重い。
それでも。
今夜、村人は眠れる。
それだけは、確かだ。
俺は森を振り返る。
与えた分は、返ってくるのか。
この世界は、本当に。
俺を必要としているのか。
まだ、分からない。
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