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夜な夜な図書館を襲うゴブリンを“忘れ”させたら、医療独占を企む貴族だった件

これは私が作っている新しい物語です。皆さんの応援をいただければ幸いです。

次の任務は、王都北区にある古い図書館だった。


「毎晩、ゴブリンの群れが現れるらしい」


 勇者ライトノベルが簡潔に説明する。


「被害は?」


「主に書物の盗難だ。特に医療系の魔導書が狙われている」


 医療系。


 戦略的だ。


 横で魔法使いが顔をしかめる。


「ただのゴブリンにしては妙ね。本を選んで盗むなんて」


 俺も同感だった。


 図書館は石造りの静かな建物だ。

 知識の匂いがする。


 入口で出迎えたのは、一人の女性。


 銀縁の眼鏡。整った所作。

 落ち着いた声。


「私はペレレイア・デュ・ポワン。この図書館の司書です」


 深く一礼する。


「毎晩、日付が変わる頃に現れます。警備を雇う余裕もなく……」


 案内された書架には、空白が目立っていた。


「失われたのは、治癒魔法の基礎書、薬学調合の原典、外科魔術の応用……どれも重要なものです」


 偶然ではない。


 意図がある。


 準備の最中、俺はある光景を目にする。


 ペレレイアが古い魔導書を数冊、箱に入れていた。


「それは?」


「改訂前のものです。理論も古く、今では実用性が低い。保管場所も限られていますから、処分します」


 淡々とした判断。


 だが、その言葉が胸に刺さる。


 ――実用性が低い。


 ――今では不要。


 俺は視線を逸らす。


 役に立たなければ、捨てられる。


 それが普通だ。


 だからこそ。


 俺はこの世界――ファンタに利益を与える。


 そうすれば、ファンタも俺を捨てない。


 与えた分だけ、返ってくるはずだ。


 それが、あるべき形だ。


 夜。


 館内の灯りを落とし、全員で身を潜める。


 勇者パーティ、そしてペレレイアも。


「危険です。奥に」


「ここは私の職場です」


 彼女は静かに言った。


「奪われるだけでは、終わりたくありません」


 強い人だ。


 窓が割れる音。


 低い嗤い声。


 緑色の小柄な影が次々と侵入してくる。


 ゴブリン。


 十体以上。


 だが――


 動きが整然としている。


 棚を迷いなく選び、医療区画へ向かう。


「やはり、ただの魔物ではないな」


 ライトノベルが低く呟く。


 その瞬間。


 一体がペレレイアを発見した。


 素早く取り押さえ、刃物を突きつける。


「動くな!」


 仲間たちが一瞬止まる。


 人質。


 合理的な判断だ。


 ゴブリンにしては。


 俺は前に出る。


 静かに。


 忘却。


「自分たちが“ゴブリンである理由”を、忘れろ」


 魔力が広がる。


 ゴブリンたちの目が揺らぐ。


「な……我々は……」


 緑の皮膚が剥がれ落ちるように消える。


 小柄な体躯が伸びる。


 豪奢な服。


 高級な装身具。


 そこに立っていたのは――


 ヴィウス家の紋章を身に着けた貴族たちだった。


 周囲が凍りつく。


「ば、馬鹿な……!」


「変身魔術が……」


 ライトノベルの剣が一閃する。


 逃走経路を断つ。


「ヴィウス家当主の親族か。説明してもらおう」


 男の一人が吐き捨てる。


「医療は金になる。回復魔法も薬も、独占すれば王都を支配できる」


 静寂。


 なるほど。


 知識を奪い、価格を吊り上げる。


 合理的だ。


 だが。


 それでは世界が歪む。


 戦闘は短かった。


 貴族たちは拘束される。


 ヴィウス家による医療独占計画は、未遂で終わった。


 夜明け。


 静かな図書館に朝の光が差し込む。


 ペレレイアが俺の前に立つ。


「……ありがとうございました」


 眼鏡の奥の瞳が揺れる。


「本は、世界の記憶です。奪われれば、多くの命が失われるところでした」


 彼女は深く頭を下げる。


「あなたは、それを守った」


 俺は少し考える。


「任務です」


 それ以上でも以下でもない。


 だが彼女は、柔らかく微笑んだ。


「それでも、です。ケン様」


 様付け。


 少し、距離が近い。


 帰路。


 ライトノベルが言う。


「また貴族か」


「偶然でしょうか」


 誰も答えない。


 俺は心の中で計算する。


 医療独占は防がれた。

 知識は守られた。

 被害ゼロ。


 世界に利益を与えた。


 ならば。


 世界も、俺を少しは必要とするはずだ。


 そうでなければ――


 あまりに、不公平だ。


 図書館の扉の前で。


 ペレレイアは、俺を見ていた。


 その視線は、恐怖ではなく。


 明確な信頼だった。


 与えた分だけ、返ってくる。


 今のところは。


 まだ、均衡は保たれている。

この最初のエピソードを読んでいただき、ありがとうございます。次のエピソードはすぐにアップロードします。

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