巨人を“忘れ”させたら、正体が腐った貴族だった件
これは私が作っている新しい物語です。皆さんの応援をいただければ幸いです。
勇者パーティに正式加入して三日目。
俺に与えられた最初の任務は、拍子抜けするほど単純だった。
「ギルド近くの酒場に、最近“巨人”が現れてな。用心棒代を要求しているらしい」
勇者ライトノベルは地図を指で叩きながら淡々と言った。
「巨人……ですか?」
「目撃証言では三メートル級が二体。暴れてはいないが、拒めば店を潰すと脅している」
横にいた槍使いが鼻で笑う。
「ただの力自慢だろ。俺たちが行けば逃げるさ」
誰も俺を見ない。
それでいい。
俺は評価を求めているわけじゃない。
任務を達成すれば、それでいい。
酒場は石造りの古い建物だった。
入口の前に、確かに“巨人”が立っている。
灰色の皮膚。異様に膨れ上がった筋肉。
通行人は誰も近づこうとしない。
店の扉の隙間から、怯えた目がこちらを見ていた。
金髪の若い給仕。
震えている。
「ほう……勇者様か」
巨人の一体が低く笑う。
「用心棒代は払ってもらう。これは“貴族様”の決定だ」
貴族様。
その言葉が少し引っかかった。
ライ トノベルは剣を抜く。
「脅迫は見逃せない。抵抗するなら斬る」
正面突破。
王道だ。
だが俺は、一歩前に出た。
「少し、試してもいいですか」
誰も返事をしない。
止めもしない。
俺は巨人を見上げた。
そして、発動する。
――忘却。
「……自分が“巨人である理由”を、忘れろ」
魔力は小さい。
派手さもない。
だが、効果は静かに広がる。
巨人の顔が歪む。
「な、なぜ我らは……」
筋肉が縮む。
皮膚の色が変わる。
膨張していた身体が、音もなく崩れていく。
そこに立っていたのは――
二人の中年男性。
上質な衣服の下に隠していた、変身用の魔道具が地面に転がった。
周囲がざわつく。
「これは……」
ライ トノベルの目が細くなる。
男の一人が叫んだ。
「や、やめろ! 我々はクダゾフニア家の縁者だぞ!」
給仕の少女の顔が青ざめる。
クダゾフニア。
その姓に、彼女が反応したのが分かった。
ライ トノベルは剣を男の喉元に突きつけた。
「変身魔道具による恐喝。勇者ギルドへの業務妨害。現行犯だ」
冷たい声。
「連行する」
巨人だった男たちは抵抗もできず、縄で縛られた。
戦闘は、なかった。
任務は終了。
被害ゼロ。
建物損傷なし。
効率は悪くない。
俺はそれだけ確認する。
パーティの誰も、俺を褒めない。
槍使いがぼそりと呟いた。
「……便利だな、そのスキル」
感情は乗っていない。
それでいい。
酒場の扉が静かに開いた。
さっきの給仕の少女が出てくる。
「……あの」
小さな声。
「ありがとうございます」
近くで見ると、まだ若い。
だが目には、長い間の恐怖の影があった。
「あの人たち……昔から、この辺りで好き勝手してて……」
彼女は深く頭を下げる。
「助かりました。本当に」
俺は少し困る。
礼を言われることに、慣れていない。
「任務ですから」
それだけ答える。
彼女は一瞬だけ、驚いた顔をした後――
ふっと笑った。
「それでも、です。私、カッテリーナ・クダゾフニアといいます」
クダゾフニア。
さっきの男たちと同じ姓。
「……親戚ですか」
「はい。でも、私は家を出ました。あんな人たちと一緒にされたくなくて」
強い目だった。
巨人に怯えていた少女とは、別人のように。
「また、お店に来てください。今度は……ちゃんとお客様として」
その言葉は、営業でも、媚びでもなかった。
ただの、まっすぐな感謝。
帰路。
ライ トノベルが前を歩きながら言う。
「今回の働きは認める」
振り返らない。
「だが、戦場では通用しない可能性もある。過信するな」
「はい」
それだけだ。
友好的でも、敵対的でもない。
評価は保留。
それでいい。
俺は一つだけ、心の中で計算する。
任務成功。
被害なし。
酒場は守られた。
そして――
一人の人間が、俺に笑った。
与えた分は、返ってきた。
今のところは。
それで、十分だ。
この最初のエピソードを読んでいただき、ありがとうございます。次のエピソードはすぐにアップロードします。




