記憶を奪う勇者は危険だと追放されたが、魔法そのものを忘れさせて救ってしまった
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
ここ数年――
名を馳せた大魔導士や歴戦の勇者たちが、
六十代という比較的早い年齢で“若年性の痴呆”に陥る事件が続発していた。
昨日まで詠唱していた禁呪を忘れ、
長年の戦歴を語れず、
自分の弟子の名すら思い出せなくなる。
「忘却は、最強をも無力にする」
その事実は、静かに世界へ恐怖を広げていた。
◇
南ファンタの境界に位置する三つの隣接する村。
そこを治める一人の貴族。
村の魔術顧問を務める老練な魔導士。
そして信仰を司る神殿の司祭。
三人は、その“忘却の連鎖”に強い危機感を抱いていた。
そんな折――
「記憶を操作する異能を持つ勇者が来るらしい」
ケンの噂が届く。
百人同時制圧。
支配系の異質なスキル。
三人は即座に結論を出した。
「あれは危険だ」
「記憶を弄ぶ力など、世界を壊しかねん」
「村に入れてはならぬ」
その日から、三村では密かに噂が流された。
“ケンの力は、英雄たちを痴呆に追い込んだ元凶かもしれない”
恐怖は、瞬く間に広がった。
◇
ケンとライトノベル一行が村の外縁へ到着した時。
門前には、女たちが集まっていた。
「来ないで!」
「記憶泥棒!」
「私たちの村を壊さないで!」
次の瞬間。
トマトが飛ぶ。
赤い果汁がケンの頬を伝う。
パーティが殺気立つが、ケンは手で制する。
「……なるほど」
彼は怒らない。
ただ、三人の背後にある“恐怖”を察していた。
◇
その夜。
突如、北の森から魔力の奔流が迫る。
蛮族の魔術師団。
略奪と破壊を目的とする集団が、三村を包囲した。
火球。
風刃。
毒霧。
村は一瞬で混乱に陥る。
貴族は震え、
司祭は祈り、
魔導士は詠唱するが――数が多すぎる。
誰かが叫ぶ。
「ケンに頼れ!」
だが三人は拒絶する。
「断じてならん!」
「記憶を操る者に未来を委ねるな!」
◇
その時。
城壁の影を、一人の影がすり抜ける。
ケン。
「……助けを求められてないけどな」
静かに手を掲げる。
「《忘却付与・限定干渉》」
透明な波が広がる。
次の瞬間――
蛮族の魔術師たちが、詠唱を止めた。
「……あれ?」
「次の句は……?」
「魔法陣の構築式が……思い出せない……?」
彼らは、自分の呪文の構成を忘れていた。
完全な記憶消去ではない。
“術式の核心だけ”を奪う精密干渉。
◇
「今だ」
ライトノベルが剣を抜く。
彼とパーティは、魔法を失った蛮族たちを容易く制圧していく。
戦いは、あまりにも一方的だった。
やがて。
静寂が戻る。
◇
夜明け。
村人たちは事実を知る。
蛮族の魔法を奪ったのは、ケン。
昨日トマトを投げた女たちが、顔を赤らめて集まる。
「……ごめんなさい」
「あなたがいなければ、私たちは……」
「さすが……予言された史上最強の勇者様……」
中には涙ぐみながら言う者もいた。
「もし許してくれるなら……私、あなたのお嫁さんになります……!」
一人が言えば、二人、三人。
場が騒然とする。
ケンは困惑しつつも、苦笑する。
◇
その前に、三人が立つ。
貴族。
司祭。
魔導士。
顔をしかめ、腕を組む。
「……偶然だ」
「危険な力である事実は変わらん」
「感謝するつもりはない」
沈黙。
次の瞬間。
一発のトマトが、貴族の顔に直撃する。
続けて、司祭へ。
魔導士へ。
「恥を知りなさい!」
「命を救ってもらっておいて!」
「謝るべきはあなたたちでしょう!」
赤い果汁が三人を染める。
三人は言葉を失う。
その背後で、ライトノベルは無言でケンを見つめていた。
歓声の中心に立つケン。
恐れられ、拒絶され、それでも救う存在。
そして――
その“忘却を操る力”が、どこまで世界を変えるのか。
まだ誰も、理解していなかった。
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