勇者だと言われた俺のスキルは、明らかにバグっている
これは私が作っている新しい物語です。皆さんの応援をいただければ幸いです。
三十歳、無職、引きこもり――それが俺、ケンの肩書きだった。
目が覚めた瞬間、俺は闇の中にいた。
真っ暗だ。何も見えない。息が苦しい。体が妙に圧迫されている。
「……は?」
昨夜は確か、安いカップ麺を食べて、そのまま布団に転がったはずだ。事故にも遭っていない。酒も飲んでいない。
なのに、なぜ俺はこんな場所にいる?
そのとき、遠くに光が見えた。
細い、細い光だ。
俺は本能的にそこへ歩き出した。いや、歩くというより、這うように進んだ。狭い洞窟のような通路。ぬめり気のある壁。外からは女の悲鳴のような声が響いている。
「――陛下! もう少しです!」
陛下?
何の冗談だ。
やがて光が一気に広がった。
俺は――生まれ落ちた。
床に転がり、冷たい空気を肺に吸い込む。
だが、赤ん坊の泣き声は出なかった。
代わりに、はっきりとした意識があった。
「……ここは?」
周囲には巨大な人間たちがいた。
メイド服の女。甲冑を着た騎士。豪奢な衣装の貴族。
全員が、俺を見下ろしている。
いや、違う。
俺が小さいのだ。
自分の体を見下ろす。
そこにあったのは――三十歳の俺の姿。
だが、サイズは手のひらほどしかない。
小人だ。
しかも、俺は赤ん坊ではない。顔も体も、引きこもり三十歳そのまま。
「な……んだ、これ……」
そして、視線の先。
豪華な寝台に横たわる美しい女性。
銀髪の女王。
彼女は荒い息をつきながら、俺を見つめていた。
「……あなたが……生まれたのですね」
王妃シア。
誰かがそう呼んだ。
だが奇妙なことに、彼女は妊娠していなかったらしい。周囲の貴族たちもざわめいている。
「陛下は身籠っておられなかったはず……!」
そのとき、杖を持った老人が前へ出た。
「思い出されませ、陛下。マホム・アスターが預言をお伝えしたはず」
賢者マホム・アスター。
彼は静かに言った。
「“身籠らぬ王妃の胎より勇者は生まれん。その勇者、世界最強となる”――」
空気が凍った。
全員の視線が、俺に集中する。
俺は手を挙げた。
「……ケン。俺の名前はケンだ」
沈黙。
次の瞬間、広間は歓声に包まれた。
「預言が成就した!」
「勇者様だ!」
いやいやいや、待て。
俺、昨日までニートだぞ。
俺は王妃シアに連れられ、巨大な食堂へと運ばれた。
テーブルの上に置かれた料理は、どれも山のようだ。
「預言には続きがあります。十分に食事を与えれば、あなたはやがて“正しき大きさ”へと成長する、と」
半信半疑で食べる。
食べる。
食べる。
体が熱い。
そして――
数日後。
俺の体は、普通の人間サイズへと成長していた。
まるでRPGのイベントのように。
王妃シアは世界の現状を語った。
異世界。
外敵はいない。世界は統一されている。
だが――腐敗。
地方の貴族たちは魔法で姿を変える。
ドラゴン、巨人、ゴブリン、スライム。
だがそれらは本物の魔物ではない。
すべて、人間だ。
魔法で姿を偽り、民を襲い、罪を重ねる。
「私には、誰が腐っているのか分からないのです」
シアは苦しげに言った。
だから勇者が必要なのだと。
やがて、俺はファンタ最強の勇者――
ライトノベル・オヨムの前に立っていた。
金髪。整った顔立ち。圧倒的な自信。
いかにも主人公。
「預言の勇者、か。……面白い」
彼は俺を鍛え始めた。
火球魔法。
風刃。
強化術。
だが――
「……あれ? 今の詠唱、何だっけ?」
覚えたはずの魔法を、俺は数分で忘れる。
何度やっても、忘れる。
「ふざけているのか?」
「いや、本気だ」
だが異変はそれだけではなかった。
ライトノベルが火球を放とうとした瞬間。
「……詠唱が……出てこない?」
仲間たちも同様だった。
「強化術が使えない!?」
俺が近くにいるだけで、全員が魔法を忘れる。
賢者コノラが診断を下した。
「ケン殿の能力は――“忘却”です」
俺は魔法を覚えられない。
そして、近くの者の魔法をも忘れさせる。
最悪の能力。
「……足手まといだ」
ライトノベルは冷たく言った。
「出ていけ」
俺は追放された。
俺は一年間、城の古い一室に閉じこもった。
毎日、座る。
目を閉じる。
頭の中に浮かぶのは――火山。
俺は噴火し、すべてを焼き尽くす。
制御不能。
だから誰も近づけない。
だが、ある日。
俺は思った。
噴火は悪か?
方向を定めればいいのではないか?
溶岩を、狙った場所へ流せばいい。
俺は集中する。
“あいつだけを忘れさせる”。
“あいつだけを外す”。
何度も、何度も。
やがて――
制御に成功した。
王妃と勇者一行の前で、俺は証明した。
賢者コノラにだけ、魔法を忘れさせる。
次に解除。
今度は騎士一人だけ。
成功。
仲間たちはざわめいた。
「戦略兵器だ……」
投票が行われた。
多数決。
ライトノベル以外、全員が俺の復帰に賛成した。
彼は不機嫌そうに俺を睨む。
「……いいだろう」
だが、その目は冷たい。
「だが覚えておけ。もし俺の邪魔をしたら――」
彼は剣を抜いた。
刃先が俺の喉元で止まる。
「殺す」
俺は目を逸らさなかった。
「分かってるよ、勇者様」
こうして俺は――
忘却の勇者として、再びチームに戻った。
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