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きみ、捨てられたの?じゃああたしが拾ってあげるよ。  作者: 有希乃尋
第1章 あたしが拾ってあげる
9/10

第9話 誕生日(前半戦)

「そういえばさ~、誕プレ交換するって言ってたじゃん。もう今月末だけどどうする?ちょうど、あたしの誕生日の29日が火曜日で店休日なんだよね。」


この日、あたしはスキンケアにいそしみながら和央くんと通話で話していた。

毎週月曜日にはいつも晩御飯を一緒に食べるようになったけど、それ以外の日でも和央くんからよく電話がかかってくるので、こうやって他のことをしながら相手をしてあげている。


それにしても、あいつ、どんだけあたしと話すことあるんだ!?


「紗季さんの誕生日にいつもと同じ居酒屋だとさみしいし、どこかいいお店を予約しとこうか?」

「う〜ん、いいお店か~・・・。」


元カノの教育が行き届いている和央くんのことだ、きっと一般的な女子が喜びそうな高級でおしゃれなレストランとかを予約してくれるに違いない。

だけど、正直、そういうお店苦手なんだよな~。


「気が進まない?」

「いや、もっと落ち着いて飲める場所がいい。だけど、誕生日にいつもみたいな居酒屋ってのもちょっとな~・・・。そうだ!じゃあ、うちでやらない?ちょうど休みだし、掃除して、なんかいいお酒とかも買っておくから。」

「えっ?いいの?それ・・・。」

「いいよいいよ。あっ、別に料理とかは作んないよ。ウーバーで適当に頼んで、あとは和央くんが好きなケーキでも買ってきなよ。」

「紗季さんがそれでいいなら・・・僕もそれがいいけど・・・。」

「決まりだね。じゃっ、あたしは寝るからまたね~!」


そう言って通話を切った瞬間から、胸がどきどきしてしばらく動悸が収まらなかった。

我ながら、なんと大胆な提案をしてしまったのだろう!

でも、誕プレとして考えてるあれをやるためには、家に呼ぶしかないんだよな~。


まあ、和央くんだし、問題ないでしょ・・・。


10月29日(火)18時、今日はあたしの誕生日、明日は和央くんの誕生日である。この日、お互いの誕生日を祝うために和央くんが、あたしの家にやって来た。

思えば去年この家に引っ越してきてから男の人が訪ねて来るのって初めてだな。

いや、配管清掃のおじさんが来たことあったか・・・。


「じゃあ、料理もそろったことだし、乾杯しよっかね?ビールでいい?」

「あれっ?紗季さんはノンアルなの?珍しい!」

「ああ、たまにはノンアルでね・・・。」


この後のサプライズプレゼントのために早々に酔っ払うわけにはいかないのだ・・・。


「じゃあ、僕もケーキもあるしノンアルにする。」


こうしていつもとは違い健全な感じで誕生会は始まったけど、それ以外は恒例の飲み会とあまり変わらない。


「君ももう31歳か~。こないだ30歳になったばっかだと思ってたけど、早いね~。いや~ゴーヤと和央くんは育つのが早い。」

「僕はまだ30歳だけどね。むしろ紗季さんの方が先に31歳になってるし。」

「和央くんだって、あと6時間くらいで31歳でしょ?わずか1日違いで年齢マウントとらないでよ!」

「・・・中学の時は誰かに1日違いで先輩風を吹かされた覚えがあるけど・・・。」

「うっさいな!いつまでも過去にこだわる男は嫌われるよ。そんなんだから元カノに捨てられるんだって。」


いつも、こんな感じで遠慮なく言い合える関係がほどよく心地よい。そう思いながらケラケラ笑っていると、急に和央くんが真面目な顔になった。


「・・・いつもこんな感じで言い過ぎちゃうけど、紗季さんには本当に感謝してる。挫折してこの街に戻って来た僕を明るく励ましてくれて、友達も紹介してくれて、それに地元でのルールをいろいろ教えてくれて・・・。ありがとう。あの時、紗季さんの美容室に行って本当によかった。」


急にしみじみした口調になったので、あたしも表情を引き締める。


「いいっていいって・・・あの時は和央くんが無職で彼女にも捨てられて、しかも実家にも居場所がなくてどん底だって思って放っておけなくてさ。まあ彼女に捨てられた以外は全部勘違いだったんだけど・・・。」

「実際、僕はあの時は精神的にはどん底に落ち込んでたんだと思う。だけど、紗季さんのおかげで、最近やっと立ち直れた気がしてる。本当に感謝してる。ありがとう。」

彼はそのままテーブルに手をついて深く頭を下げてきた。おでこがテーブルにくっつきそう・・・。


「・・・そんな真正面からお礼言われちゃ照れちゃうって・・・。」

「うん・・・。」


なんか変な空気になっちゃった。やっぱ酒飲まないとダメかな~。


「・・・というわけで、感謝の気持ちをこめて僕から誕生日プレゼントがあります。」


そう言うと、和央くんはおもむろに足元から重厚そうな紙袋を出し、あたしの方へ差し出してきた。


「わ~・・・、これ名古屋のあのデパートだよね。なんかお歳暮みたいな包装だな~。開けてもいい?」

「もちろん・・・。」


包装を慎重に開けると、中からペアグラスが入った臙脂の箱が出て来た。


「バ・・・バク・・・バチャ・・・このブランドどう読むの?」

「Baccarat、バカラね。紗季さんは家でもお酒を飲むし、ちょうどいいんじゃないかと思って。」

「へ~、きれいじゃん。あっ、Saki・・・あたしの名前も入ってる!」

「それはアルファベット表記でも読めたんだね。」

「あたしだって自分の名前くらい読めるわ!!でもありがと~!すごいキレイ!大事にするよ!!」

「喜んでもらえてよかった。」


あたしはグラスを照明に照らしてキラキラ光らせたりしながら、ぼんやりながめていたが、そのうちあることに気づいた。


「・・・ところで、なんでペアグラス?」

「ああ・・・それは一つだけだとバランス悪いし、お友達が来た時とかに使ってもらえれば・・・・。」

「ふ~ん・・・。てっきり和央くんが自分用に買ったんだと思ってた。これからうちに入り浸る魂胆で。」


あたしがニヤニヤしながら冗談っぽくからかうと、和央くんは急に真っ赤になった。


「いや・・・そんなことは・・・。ほら、そっちのグラスにはHoshigaokaって入ってるでしょ。」

「ふ~ん・・・そんな照れてごまかしちゃって・・・。」

「・・・・・。」


横を向いて黙ってしまった・・・からかい過ぎたか・・・。しかし女性関係にはホントにうぶだなこいつ。やっぱり元カノが一人だけってのは本当だったか・・・。


「そうだ・・・あたしからもプレゼントがあるんだ。こんな高いもんじゃなくて悪いけどさ、ちょっと準備してくるから待ってて・・・。」


あたしは道具を取り出し、床にクッションを二つ床に置くと、ポンポン叩いて和央くんをそこに座らせた。


「ほい・・・手を出してよ。」

「・・・・?」

「忘れちゃった?中学の時の約束のことを。ほら、卒業式の日だったかな、あたしの実家で爪を磨いてあげたじゃん。片方だけ・・・。」

「ああ・・・うん・・・。」

「その時に、ネイリストになったらもう片方の手も磨いてあげるって言ったよね。ネイリストにはなれなかったけどさ、趣味でネイルは続けてるし、和央くんへの誕生日プレゼントは爪のお手入れ道具と、紗季ちゃんによるネイルケアのセットにしよっかなって思って・・・。このために今日はお酒も我慢したんだよ。」


和央くんへのプレゼントはすごく悩んだ。最初は無難にネクタイとかにしようかなって思ったけどなんかピンと来なかった。和央くんへの感謝を示すにはそんな月並みなものじゃなくて、もっと気持ちがこもったものがいい・・・。そんな時、中学の時の約束を思い出して、「これだ!」とひらめいたのだ。


「あれ・・・。磨いてないのってどっちの手だったっけ・・・?」

「左手・・・。」


そう言って和央くんはおずおずと左手を出してきた。


「なんだ、ちゃんと覚えてるじゃん・・・。」

「うん・・・最近まで紗季さんのことずっと忘れてたけど、美容室の名前を見て思い出して・・・。」

「ひどいな~。あんなに大切な思い出だったのに・・・。」


そう言いながらも、あたしもお店に来てくれるまで和央くんのことを忘れていたのは秘密だ・・・。


心の中でそう思いながら、和央くんの手を取って、人差し指から丁寧に磨き始めた・・・。


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