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きみ、捨てられたの?じゃああたしが拾ってあげるよ。  作者: 有希乃尋
第1章 あたしが拾ってあげる
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第5話 山田市のマーライオン

さんざん好き勝手に飲み食いし、適当に他の人の会話に入って相槌をうち、ついには寝落ちしてベンチで爆睡してると、あっという間に時間は過ぎて、目を覚ますと周りでは片づけを始めていた。

どうやらおひらきの時間になったらしい。


あんまりツレと話せなかったけど、なんやかんやで楽しかったな~!


「紗季ちゃん、帰りどうする?うちのクルマで送ろうか?」

「う~ん、誰か他の人に送ってもらうよ。美瑠玖ちゃん寝ちゃったみたいだし、まっすぐ家に帰った方がいいでしょ?」


そう答えると美妃子は急にニヤニヤし出した。


「あ~!それがいいよね~。じゃあ、纐纈くんに送ってもらったら?ぜひそうしなよ!」


「えっ?紗季ちゃん、纐纈さんに送ってもらうの?こうけつさ~ん、紗季ちゃんを送ってもらえますか~?」

耳ざとく聞きつけた真紀さんが勝手に和央くんにお願いして了解を取り付けてる。


「紗季さん、じゃあ頑張ってくださいね!」


なぜか麻弥ちゃんも近づいて来てニヤニヤしている。その後ろでは紀子さんが握りこぶしを作って控えめに突き上げているような・・・。


みんなどうしたん?なんなん急に?あたしが何を頑張るの?


――


ニヤつくみんなに見送られながら、あたしは和央くんにクルマで家まで送ってもらうことになった。


いったいどうしたんだ?わからん。


ただ、助手席に座った瞬間から、何やら嫌な予感がし始めてそれどころじゃなくなった・・・。

これはもしや・・・。


「今日は楽しかったよ。誘ってくれてありがとう・・・。」

「うん・・・・。」

「いや、最初は初めての人ばかりのところで不安だったけど知り合いも増えて、思い切って来てよかったな~。」

「うん・・・。」

「星ヶ丘さんも楽しめた?剛士さんが高い和牛を持ってきてくれたけどちゃんと食べられた?」

「うっぷ・・・。」


自然公園を出発してから5分あまり・・・さっきから和央くんの問いかけに生返事なのは機嫌が悪いからではない。

内なる衝動と密かに戦っているからだ。

しかしもう限界かも・・・。


「ちょ、ちょっと停めて、すぐに停めて!」

「えっ?ここには何もないけど・・・?」

「いいから停めて!」


そのまま路肩に寄せてくれたので、クルマが停まるか停まらないかというくらいで勢いよくドアを開け、転がるように飛び出した。


あの草むらなら!夏だし雑草が伸びてるから、草むらの奥深くまで入れれば・・・なんとか人としての尊厳は守れる!あそこまで!


「ヴェ・・・オゥヴェ~・・・グロッ・・・ロロッ・・・」


しかし、あたしの健闘虚しく、草むらに入る手前で、立ったまま豪快の戻してしまった。そのまま路肩の側溝の上で四つん這いになり、あきらめて残りを吐き出す。


少し体調が悪かったのを忘れて、調子乗って暴飲暴食したからこんなことに・・・。

きっと吐いてる姿は丸見え、えずく音も丸聞こえのはずだ・・・。


「あぁ・・・もう・・・こんな姿見られたら、お嫁に行けない・・・。」

「大丈夫だって。僕しか見てないし・・・。」


急に目の前の地面が暗くなったので、ふと見上げると和央くんが日傘を差しかけてくれていた。


「気にせず楽になるまで吐いちゃいなよ。落ち着いたら飲み物を持ってくるから・・・。」


「あ、ありが・・・オヴェッ・・・ヴェッ・・・オロロ~」


お言葉に甘えて遠慮しないで吐くことにする。遠慮する余裕もない。

あたりは雑草が茂るばかりで何もなく、セミの声しか聞こえない。そんな中、日傘を差しかけられながら、ウシガエルのように四つん這いになってゲロゲロ戻し続けるアラサー女の絵。ちょっとシュール過ぎない・・・?


「ヴェッ・・・オヴェ・・・ウェ・・・」


もう胃からすべて吐き出してしまったようで何も出て来ないが、えずきが止まらなくて苦しい。しかも体力を使い果たしたようで立ち上がれない・・・。


「はい、どうぞ・・・。」


和央くんが差し出してくれたペットボトルのお茶に口をつけたが、なかなか飲み込めなくてツラい。

そんなあたしに日傘を差しかけながら、和央くんはスマホで何かを調べている。


「・・・・5分くらい行ったところに休憩できるところがあるけど、そこまで頑張れる?」

「うぇっ・・・ご休憩?」


そう言えば来る途中に見かけたけど、もう少し行ったところにラブホがあったような・・・えっ?いきなり?


「苦しいだろうけど、ちょっと頑張って移動しよう。肩を貸すから。」

「あ、あたし・・・こんな汗まみれ、ゲロまみれで・・・。」

「そんなん別にいいから。」


え~っ!?汗とゲロにまみれててもいいって、この変態!!このままだとラブホに連れ込まれてしまう・・・え~っ!?


そのまま肩を貸してもらいながらクルマに乗せられ、きっかり5分後、あたしは連れ込まれてしまった・・・。


道の駅の中にある喫茶店に・・・。


「まあ・・・こんなことじゃないかと思ったよ。あの人畜無害そうな和央くんがホテル連れ込むとかあり得ないしね・・・。」

「何をぶつぶつ言ってんの?ほら、あのままあそこにいたら熱中症になってたかもしれないでしょ・・・。ここは冷房も効いてて涼しいし、冷たい飲み物もあるからゆっくり休むことにしよう。」


あんな醜態をさらしたのに、何事もなかったかのようにすまし顔のまま、団扇であおいでくれる和央くんがなんか憎らしい。


「でも・・・迷惑かけてごめんね。和央くんも帰るの遅くなっちゃうよね・・・。」

「ああ、大丈夫だよ。もともと帰りに、ここの道の駅に寄るつもりでチェックしてたし。後で名産の巨峰だけ買わせてもらえれば・・・。」

「ふ~ん・・・・。」


そうやってフォローしてくれるのはありがたいけど、あたしが気まずいのは変わりない。まさか再会して間もない中学のタメに、あんなマーライオンみたいに豪快に吐く姿を見られるなんて・・・。恥ずい・・・。


「・・・そういえば、僕も一度だけ飲み過ぎて同じようにマーライオンみたいに吐いて友達に助けてもらったことがあるよ。まだ学生のころだけど・・・。」

「へえ・・・いつも冷静そうだし、酔っ払うことすらなさそうなのに意外!なんでそんなに飲み過ぎたの?」

「ああ・・・うん、その頃好きだった人にフラれてやけ酒で・・・。」


和央くんは少し照れながら鼻の頭をかいている。あれ?それおかしくない?


「こないだ大学1年生の時に出会った子をずっと好きで追いかけ続けて、その子としか付き合ったことないって言ってなかった?え~っ?一途だと思ったのにウソだったんだ~!浮気者だ~!」

「いや、フラれたのも元カノも同じ人だよ。うん・・・その人と付き合うまでに3回フラれてて、特に3回目は大学4年の時だったんだけど、もう話しかけないでってキッパリ言われたからガックリ落ち込んじゃって、もうどうなってもいいやって感じでやけ酒しちゃって・・・ハハッ・・・」

「あぁ、和央くんも苦労したんだね・・・その苦労が報われるといいね・・・。難しいだろうけど。」

「いや、その後、ちゃんと報われたし!って、いや結局は別れたんだから報われてないのか・・・?」

「ハハッ、ノリツッコミ。ハハハッ・・・」


なんか体調悪かったけど、和央くんをからかってたら元気出てきた。


でも優しいんだな、こいつ。あんな醜態さらしてたのに、しかも服とかクルマとか汚したのに嫌な顔一つせず・・・。

こうやってさりげなく気を遣わせないようにしてくれて、話してても心地いいし・・・。


これからもたまにご飯くらいなら一緒に行ってもいいかもな~。


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