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第19話 その話は聞いてない

1月下旬の火曜日、あたしは美妃子と市役所近くの、チャラ、チェレ、チュル・・・何とかという名前のカフェに来ていた。


前回来た時はバタバタしてしまったので、改めてアフタヌーンティーをゆっくり楽しみたいという美妃子たっての希望だ。


「紗季、これも受け取って。ハワイで買ったの。」


美妃子がマカダミアナッツの箱に続いて差し出してきたのは、細長いジュエリーケースだった。

さっそく開けてみると、チェーンネックレスが入っている。


「えっ?これ高いんじゃないの?」

「うん・・・ハワイの有名な職人さんにハンドメイドで作ってもらった一品物なんだけど・・・。」

「えっ?手作りの鎖?個人経営のチェーン店ってこと?」

「なにそれ?」

「いや、なんでもない・・・。」


唐突に高そうなプレゼントが出て来たから驚きすぎて、思わず真空ジェシカのネタが出てきちゃったよ。でも、ここはふざけるとこじゃないな。


「悪いよ~。あたしはお土産に八つ橋しか買ってきてないし・・・。」


恐縮しながらのけぞって焦るあたしに、美妃子は居住まいを正し、膝に手を置いて深く頭を下げた。


「ごめんなさい。去年、ここで一翔の浮気相手として紗季を疑っちゃったでしょ?ちゃんと謝れてなかったの、ずっと後悔してて・・・。こんなもので済まそうなんて虫が良すぎるかもしれないけど、せめてお詫びの印として、受け取って・・・。」

「あの話はもういいって・・・。誤解は解けたんだし。うん、でもせっかく美妃子が選んでくれたんだし、美妃子の気持ちとして受け取るね。わあ~、プラチナとゴールドかな~、第4シーズンのリリハナちゃんカラーだ。きれいだな~!」


さっそく付けて、スマホで自撮りしてみる。ついでに美妃子とケーキスタンドも入れて撮った写真を和央くんに送ってみたりもする。


「纐纈くんとうまくいってるみたいでよかったじゃない。」

「ああ~、おかげさまで~!テヘヘッ・・・。」


1月頭の旅行では、元カノの影を感じて勝手に嫉妬したり、最後にはご本人登場のサプライズもあったけど、その後は特に何事もなく、毎週火曜日の店休日の前にうちに泊まったり、通話で話したり、急に会いたくなった時に家凸したりされたりと、お互い忙しい中でも時間を見つけて逢瀬を重ね、あたしの不安も徐々に和らいできた。


「うちもね・・・結局、一翔は職場の同僚の子の相談にのってあげてただけみたいで。ほら、うちらの中学のタメの川本幸子ちゃん。長く付き合った彼と別れちゃったんだけど、結婚相手を紹介してくれって一翔に泣きついてたみたいで・・・それでね・・・。」

「へぇ〜、そうだったんだ。川本ちゃんね・・・。」


んっ?あれ?それおかしくない?


だって一翔先輩の髪からうちで売ってるシャンプーの匂いがしたって問題は解決してないじゃん。

そういえば、川本ちゃんってうちでシャンプー買ってくれてたような・・・。


「やっぱり信じなきゃダメよね。旦那も親友も・・・。だからあたし反省したんだ・・・。ごめんね。」

「ああっ、うん。そうだよね~、信じなきゃだめだよね~。」


美妃子はすっきりした顔してるけど、おかしいことに気づいてないのかな~?

でも変なことを言って吉川家の平和に波風を起こすべきじゃない。この疑惑は、名探偵紗季ちゃんの胸にしまっておこう・・・。


「でも・・・私だめだよね・・・。一翔に女関係の匂いがするとすぐに頭に血が上っちゃって・・・。一翔は顔が広くて女友達も多いから不安で・・・。その点、纐纈くんは誠実で、一途そうだしうらやましいな~。」

「いや、そんなことないよ。あたしも不安になることあるし・・・。」

「えっ?紗季もそうなの・・・?纐纈くんと何かあったの?」


美妃子は興味をひかれたのか急にあたしの方に身を乗り出してきた。ゴシップ好きの血が騒いで、何気なく出た一言を聞き逃してくれなかったか・・・。


「いや・・・まあ・・・ね・・・。」

「もしかして浮気?二股疑惑とか?もしよければ一翔に頼んで調べてもらうわよ!!」


美妃子の目がらんらんと輝きだした・・・。体もかなりあたしの方に乗り出してきている。


う~ん・・・このままあいまいにすると一翔先輩にも伝わって、それで勝手に職場で噂を調べてみたとか変な方向に進んじゃうかもな~・・・。和央くんにも迷惑がかかるし、それは避けたい。


「いや、浮気とかじゃなくてね。元カノの影が気になって・・・。」

「えっ?纐纈くん、元カノいたんだ!そりゃそうか。元カノに未練があるとか?それともまだ会ってるとか?え~っ!!紗季という素敵な彼女がいるのに~。」

「そうじゃないし・・・。あの、実は和央くんって元カノが1人しかいないらしいんだけどさ、その元カノのことを5年間片思いして、5年間付き合ってたらしくて・・・。」

「長いね~。さすが!一途そうだもんね。」

「うん、それでね。その元カノは和央くんのことを厳しく教育してたみたいで、和央くんの所作とか気遣いとか、その元カノの影を感じるんだよね~・・・。それが不安で・・・。」


そこまで説明すると、美妃子は、「な~んだ!」という感じで、ずいっと乗り出していた体を戻し、椅子に深く腰掛けた。


「それはしょうがないじゃない。元カノが教育したやり方が気に入らないんだったら、紗季が指摘して直させればいいわけだし。まあ5年も付き合ってたんなら時間はかかるかもだけど、これから紗季の色に染めてけばいいじゃん。」

「そう思ってるんだけど、なんかその元カノの趣味とあたしの趣味が似てるみたいで・・・あたしの様子をよく観察して気遣いしてくれるとことか、タイミングよく欲しい言葉をくれるとことか、今の和央くんは、あたしの好みにドンピシャだから直したくなくて・・・。」

「ふ~ん・・・でもさあ、纐纈くんをそこまで紗季好みに育ててくれたんだったら、素直に元カノに感謝すればいいじゃない。元カノが苦労してレベル上げして、紗季がおいしいとこから引き継げたってことでさ・・・。」


美妃子は関心が薄れたのか、ケーキスタンドからスコーンをお皿に取ってフォークを突き刺し始めた。


う~ん、同じく元カノの影に苦しんだ美妃子でも、あたしの気持ちを理解してもらえないのか・・・。


いや、むしろ美妃子の考えが普通なのかな。あたしが元カノを意識し過ぎなのかもしれない。


「うん、そうだよね。そう考えると気持ちが楽になったよ。実は、最近、和央くんと元カノが偶然再会したみたいなんだけどさ、その後も変わらず優しいし、あんまり心配しなくて大丈夫だよね。」


あたしの言葉を聞くなり、美妃子はお皿とフォークをカチャンと音を立ててテーブルに置き、一拍おいた後、またずいっと身を乗り出してきた。


「それは聞き捨てならないわよ!どこで元カノと会ってたの?まさか密会?」

「いや、大したことないって・・・新幹線の駅でたまたま会って、立ち話したくらいだったらしいし・・・。」


本当は、ただ立ち話しただけでなく、元カノの聡子さんが和央くんの肩で泣いていたまであったけど、そこまでは言えない。


「いや・・・それでも気を付けないと・・・。5年も付き合ってたんでしょ。そんなに長い期間お互いを好き合ってたんだもん。ちょっとしたきっかけで復縁してもおかしくないわ!!」


えっ!!急に美妃子の目が据わっちゃった!!何があったの?


「いや~、さすがに立ち話くらいでそこまでは・・・。」

「そんなことない!!その場では立ち話だったけど、ああ懐かしいなって、後からLINEとかで『さっきはあんまり話せなくてごめんね』とかメッセ送ったら、『じゃあせっかくだし今度会ってゆっくり話そうか』ってなって、何回か会ってるうちに、昔みたいに気持ちが盛り上がっちゃって・・・一度でも一線を越えちゃった二人なんだもん!まるで行き慣れた近所のコンビニに行く感覚で軽く同じ一線を越えちゃって、「やっぱり俺たちやり直すか?」「うん・・・。」ってなるのは目に見えてるよ!!」


そうなのか?美妃子の目にはそんな未来が見えてるのか?


うわ~っ・・・。まさかそんな風には思わないけど、今のでなんか美妃子の心象風景がよく理解できたわ・・・。

なるほど、そういう昼ドラみたいな発想だから、一翔先輩の元カノであるあたしをずっと警戒してたんだ。


いや、普通そんなことあり得ないし。しかもあの和央くんだよ。あたしには想像つかないな~。


興奮している美妃子に圧倒されながらも、あたしは少し冷静になり始めていた。

きっと、あたしの不安も他の人から見たら、今の美妃子みたいに荒唐無稽に見えるのかな・・・。


しかし、そこまで興奮して話していた美妃子が急に、ハッと何かに気づいたような表情をして、急に押し黙り、少しためらい、そしておずおずと切り出した。


「あのさ・・・もしかしてその元カノって東京の人?」

「ああ、そうらしいよ。うん。遠くにいるし、そんな簡単に会えないから心配ないよね~。」

「・・・ねえ・・・紗季って東京に引っ越す予定?」

「いや、それはないって!!今のサロンを開業したときの借金も残ってるし、ママを一人にできないから、これからずっと地元であのサロンをやりながら暮らすつもりだよ。」


何それ、ハハハッと一笑に付したあたしとは対照的に、美妃子の顔がみるみる曇っていく。


「・・・えっ?美妃子・・・急にどうしたの?」

「・・・うん・・・この話を紗季にしていいのか・・・。うん、でも親友として黙ってられない!!」

「どうしたのよ・・・。」

「実はね・・・。去年のうちに、一翔が纐纈くんを市役所で正規職員として採用できないか人事部に話したらしいのよ。そしたら人事部もぜひ正規職員になって欲しいって話になって、あとは纐纈くんさえ望めば、正規職員になれるところまで話が進んでたんだって・・・。この話聞いてる?」


あたしは黙って首を横に振る。


「でもね・・・今月に入ってから纐纈くんから断りの返事があったんだって。今年の8月に任期が終わったら東京で弁護士をするつもりだって言って・・・。」

「えっ?聞いてない・・・。」


急に目の前が真っ暗になった。和央くんが東京に戻るつもり?まったく知らない。相談もされてない。和央くんが東京に行ったらあたしはどうしたらいいの?


「私はてっきり紗季も東京に行くつもりなのかなって思ってて・・・。でも今の話だったら、もしかしたら元カノが東京にいるからかもって・・・。」


そんな・・・でも、普通に考えてそうだよね・・・。東京には、あたしはいなくて聡子さんがいる。

しかも今月に入って急に断ったってことは、あの件の後でしょ。聡子さんとよりを戻すために東京に戻る計画を・・・?


「一度、ちゃんと纐纈くんと話した方がいいよ。」


ショックのせいで頭が働いていないのだろうか。この後も美妃子は何かを話し続けていたけど、なにかずっと遠くの方で話しているみたいな感じで、よく聞こえなかった。


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