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第17話 一瞬の邂逅

「楽しかった。楽しかったよ~!ありがと~!!」


帰りの新幹線、2缶目のビールを飲みながら、久々の旅行に満点を付けて、隣の和央くんに満面の笑みを向ける。


「そんな風に喜んでもらえるとうれしいよ。でも、あんまり観光に行けなくてごめんね。」

「ううん、宿の料理はおいしかったし、遊覧船で飲んだビールもうまかった。それに昨日の夜と今朝の2回も和央くんの愛をこの身に存分に感じられたのも・・・ウフフッ、特に今朝の君はいつもと違ってちょっと強引で男らしかったよ!」

「ちょ、ちょっと、新幹線の中でそんな大きな声で、恥ずかしいから・・・。」

「フフッ・・・。」


真っ赤になっちゃって。相変わらずウブな感じでかわいいな~。


「来年のお正月もまた旅行に行こうね。それで再来年も、その次もずっとずっと一緒に旅行に行きたいな~。」

「ああ、そうだね。来年は海外とかどうかな?」

「海外か~。あたし行ったことないや。和央くんは?」

「台湾とかドイツとかイタリアとか、そんぐらいかな。」

「へえ~・・・。」


どうせ元カノと行ったんでしょ?わかってるんだから。


でも大丈夫!もう、あたしは元カノの影には負けない!

あたしもこれから、和央くんとたくさん旅行に行ってその思い出を全部上書きしてやるぜ!


そう決意したあたしは、和央くんと腕を絡めながら3本目のビールのプルタブを開けるのであった。


―― 


「あ~、ごめん。ちょっとトイレ行ってきていい?新幹線で飲み過ぎちゃったみたいで。」

「またマーライオン?」

「違うし!!急いで行ってくるからちょっと待合室で待ってて!」


名古屋駅に着くと、あたしは和央くんに荷物を預けてトイレに向かった。

やっぱり40分に缶ビール3本は多すぎたか・・・・混んでないといいんだけど・・・。


急ぎ足で女子トイレに入ろうとすると、白いスーツを着て黒髪をなびかせる色白な和風美人とすれ違った。


「わ~っ、キレイな黒髪だな~。」


美容師という職業柄、髪が美しい人にはついつい目を奪われてしまう。


年の頃は同じくらいかな?

髪もそうだけど、あんな超絶美人っているんだな~。

きっと東京の人だろうな~。

もしかしてモデルとかかな。


おっと、いかんいかん。生理現象が限界だし、こんなことしてる場合じゃない。


ーー


「ふぃ~、今回は無事に尊厳を守れたぜ。さすがに前みたいな失態を繰り返すと愛想を尽かされても文句は言えないからな~。」


手を洗いトイレを出て、和央くんが待っていてくれるはずの待合室に向かう。


あっ、あそこの柱の向こうに立ってる。待たせちゃ悪いし、急いで行くか!そう思って駆け出そうとした瞬間だった。


目に入って来たのは、うつむく和央くんの前で、さっきトイレですれ違った和風美女が手を腰に当てて仁王立ちしている姿だった。

和風美女は眉を吊り上げており、何かに怒っているようにも見える。


あれ?何か粗相しちゃったのかな?

あの白いスーツにカレーうどんの汁を飛ばしちゃったとか?


あたしは状況を把握するため、近くの柱の陰から様子を窺うことにした。


「・・・何でなのかって聞いてるの!」

「うん・・・ごめん・・・×××。」


こちらを向いている和風美人さんの声はよく通るので私の耳にはっきりと聞こえる。でも、和央くんは、あたしの方に背を向けているので、何をしゃべっているのかよく聞き取れない。


「だから、あれからどうして連絡をくれないのよ!!心配するじゃないの。」

「いや・・・×××・・・××。だから××・・・××・・・。」

「私がいつ別れるって言ったのよ!」

「でも、×××」

「私は、お父さんの事務所を辞めるんだったら結婚も止めなきゃいけないよって言っただけでしょ!だったら、我慢して事務所を辞めない方を選ぶべきでしょ!それをちゃんと察してよ!!」

「そうは言っても××××・・、それにもう××××××・・・」

「だったら、今から戻ってくればいいじゃない・・・。私から父にも言ってあげる。」

「ええっ!さすがに××××、××××・・・」


和央くんの背中しか見えないけど、明らかに動揺している様子が伝わってくる。


「じゃあ事務所に戻って来なくてもいい。だけど東京には戻って来て。それだったら考え直してあげる。」

「えっ?××××。今は××××・・。だから××××・・。」

「それじゃあ、3年前に言ってくれたことはウソだったの・・・?」


そう言うと和風美人さんは和央くんに近づき、そのまま和央くんの肩におでこをつけた。


ええっ?あたしの彼氏だよ!!だから、その肩もあたしのだ!勝手に使わないで!


しかも和央くんも拒絶しないで、彼女の肩に優しく手を置いているし・・・。

二人でぼそぼそ何か話してるみたいだけど、聞き取れない・・・。


その時、東京行きの新幹線が到着するアナウンスが流れ、やっと和風美人さんが和央くんから離れてくれた。


「また話し合いましょ!必ず連絡ちょうだい!絶対よ!!」


彼女の目は真っ赤になっていて、人差し指で和央くんの胸を押してから、去り際にはっきりとした口調でそう言って、そのまま早足で去って行った。

あたしの方からは、和央くんが軽くうなずいたようにも見えた。


和央くんは、そのまま崩れ落ちるように待合席の椅子に座り込んだ。うなだれて、敗戦した後のボクサーみたいになってる・・・。


早く和央くんのところに行かなくちゃ・・・だけど、焦る気持ちに反して、足が震えてしばらく一歩も動けなかった。


「ご、ごめ~ん・・・。遅くなっちゃった~。」

「ああ、うん。じゃあ帰ろうか?」


ようやく声を掛けることができたあたしを振り返った彼の表情は意外にも冷静だった。


だけど、和央くんは何か考え事をしているのか、少しうわの空で、その視線もあたしじゃなくてちょっと遠くを見ているようだった。


「それでね~。美妃子に京都の方に旅行に来てるってLINE送ったらね~、『アジャリモチを買って来て』って返って来たんだけどね。なんだろねってなって結局買わなかった~。」

「ああ、阿闍梨餅じゃない?京都駅でも買えたのに。」


名古屋駅で乗り換えた特急の席でも、和央くんは少し考え事をしてるようだった。

あたしは、何か不安になって、絶え間なくどうでもいい話題を話しかけたけど、あの和風美人さんのことは口にも出せなかったし、彼も説明してくれなかった。


・・・・でもわかる。あの人が元カノさんだよね。聡子さんっていう名前の。それで、よく聞き取れなかったけど、和央くんはきっぱりと復縁の誘いを断ってくれたんだよね。今は愛しい紗季ちゃんがいるから無理です、事務所にも東京にも戻りませんって。だからあの人泣いてたんだな・・・きっと。


信じてる。だからわざわざ和央くんに確認しなくても大丈夫!!


・・・もし確認して、少しでも考えているようなそぶりを見せられたら、きっとあたしの心が持たないだろうし・・・。


そんな気持ちを知ってか知らずか、和央くんは、あたしと話しながらも、窓際の席に座ったあたしではなく、車窓の外の暗闇を見ているようだった。


「・・・・あのさ・・・もし、もしだけど、元カノさんがやり直したいって言ってきたらどうする~~?」


我慢しようと思ってたけど、耐え切れずに言っちゃった!!でも、なんとか語尾を冗談ぽくできたから大丈夫か・・・?


しかし、あたしの語尾は何の効果もなかったらしい。和央くんはそのまま少し考え込むような真面目な表情になった。


「それは現実的じゃないな・・・・。」

「そっか・・・。」


うそつき!!現実にさっき起ってたじゃんか!!


そんなんじゃなくて、『今の僕には紗季が一番大事だから、それでも紗季を選ぶよ』とか言って欲しかった・・・。


なんか悲しくなっちゃって、何かしゃべると涙が出そうだったから、その後ずっと黙ってた。

楽しい旅行の最後がこんななんて・・・。


――


「じゃあ、明日から和央くんも仕事でしょ?あたしも疲れてるし・・・。ありがとね。荷物持ってきてくれて。」


物思いにふけっていても優しい和央くんは、駅からクルマであたしを送ってくれて、荷物をマンションの部屋の前まで持ってきてくれた。


いつもだったら家にあがってもらうところだけど、今日はとてもそんな気になれない・・・。


「うん。お疲れ様。あっ、そうだ。忘れてた。紗季、これを持っててくれない?」


そう言って和央くんは手のひらに載るくらいの小さくて白い紙包みを差し出してきた。


「なにこれ・・・?」

「さっき京都駅で見つけたんだ。旅の思い出にと思って・・・。」


袋を開けてみると、中からキーホルダーが出てきた。なんか字が書いてある。なになに?


『瀬をはやみ岩にせかるる滝川の割れても末にあはむとぞ思う』


「えっ?」

「うん・・・。あの琵琶湖畔での、末にあはむとぞ思うって誓いを忘れないように・・・。僕も同じの持ってるから紗季も持っててくれるとうれしいな・・・。」


和央くんが見せてくれたキーケースには同じキーホルダーが付けられていた。


「かずおきゅ~ん・・・!」


思わずハグッ!!

やっぱり和央くんはあたしのことを一番に考えてくれてる!

信じてあげられなくてごめんね!!


和央くんも抱きしめ返してくれて、しばし玄関前でハグ・・・。やっぱりこの匂い好き・・・。幸せ。


「あっ、疲れたんだっけ?ごめん。じゃあまた今度ね。」


そう言って体を離した和央くんの服の袖をぎゅっと掴んでみる。


「・・・ちょっと寄ってってよ・・・。」

「えっ?でも疲れてるんでしょ?」

「疲れてるからこそ一緒にいたいの!!だめ・・・?」

「うん・・・・僕も同じ気持ち。」


そうして、あたしたちは、宿泊地をあたしの部屋に変えて、旅行を一日延長することになった。


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