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第15話 二人の旅路

繁忙期で大変だった年末を乗り越えた1月3日、楽しみにしてきた旅行の日がやっと来た!


「新幹線なんて学生の頃にUSJに行った時以来だよ~、和央くん!ホントありがとね!」

「・・・新幹線に乗ったくらいでそんなテンション上がるなんて・・・。ちょっと引く・・・。」

「ちょっと~!!」


名古屋発新大阪行きの新幹線。外が見える窓際の席。右手にはビールのロング缶。左手には愛しの和央くん。これでテンション上がらないはずがないっしょ!!


「そういえばさ~・・・新幹線に乗ってる女の人って美人ばっかなんだね~!」

「そうかな?普通だと思うけど・・。」

「あれだよ!みんな東京から乗ってきたからだよ。東京には美人が集まってるから。和央くんも東京にいた時は周り美人だらけだったでしょ!!」

「あ~、うん・・・それはそうだったかも・・・。僕が大学に入って東京に引っ越した最初の日にスーパーに行ったんだけどね。レジを打ってるお姉さんが信じられないくらい美人でびっくりして。まるでモデルみたいで・・・。」

「へ~っ・・・スーパーにモデルがいてスーパーモデルだったって?つまんね~!!すべってるよ、和央くん・・・。」

「ちょっと!一方的に変なオチをつけて、勝手にすべらせないでよ!!」


抗議する和央くんを見ながらケラケラと笑ったが、ふっと真顔になって和央くんをじ~っと見つめた?


「な、なに・・・?」


引き続き無言でじ~っ・・・。


「あっ、そうか。うん。東京には美人がいっぱいいたけど、紗季より美人な人には会ったことないよ!」

「え~っ、和央くんほめ過ぎ~。でもやっぱりそう思ってたか、でへへ~。」


ほんとは美人って言ってくれたよりも、あたしが考えていたことをわかってくれたことがうれしい!

以心伝心!!さすが相思相愛だね!!


「・・・・まあ冗談はこのくらいにして、真面目な話なんだけど・・・。」

「ちょっと!冗談だったの!?」


あたしが頬を膨らませているのを無視して、和央くんのクールな視線は窓際に座ったあたしの瞳を捉えた。


「東京ではさ、こう、きれいに着飾って美人に見える人は多かったよ。だけど・・・紗季みたいに自分はこうありたいって確固たる考えを持って、しかもそれを勇気をもってファッションで表現できている人はいなかったよ。そんな自分を持ってる紗季が一番素敵で、一番好き。」

「えっ?」


ちょっと、なにそれ!?普通に一番美人って言われるより全然嬉しい!そんな変化球であたしの気持ちをこんな揺さぶって!緩急自在の技巧派か!?


「あれ・・・ちょっと頬が緩んでる?」

「い、いや・・・そんなことないし・・・。」


慌てて窓の方に顔を向けてごまかすと、窓ガラスに微笑む和央くんの顔が映った。

もう・・・完全にやられた・・・。


プシュッ!!


「あれ?新しいビール開けるの?京都まであと20分くらいしかないよ。」

「いいじゃん!こんなロング缶くらいすぐに飲めちゃうし!あっ、ワゴン販売来たら教えて!あたし、あれ楽しみにしてて、あえて売店でおつまみ何も買わなかったんだ~。」


ところが和央くんが急に申し訳なさそうな顔になった。


「少し前からワゴン販売は廃止になってて・・・。」

「え~っ!!そんなん知らなかったよ~!」

「ごめん・・・僕は知ってたから乗る前に教えてあげればよかった・・・。」


なんだよ~。普段新幹線に乗らない人はそんなこと知らないよ~。ちぇっ!!


「まあしょうがないか。でもそれを知ってるってことは、和央くんってよく新幹線乗るんだ。」

「ああ・・・うん。たまに東京に行くことがあるから。」


チクッと針でひっかいたような痛みが胸に走った。

なんで和央くん東京に行ってるんだろ?なんで・・・?


・・・まあ、仕事で行くこともあるか。おかしくない、おかしくない・・・。


「グェッホ!!ゲホッ!!」

「ほら、急にビールの一気飲みなんかするから・・・落ち着いて飲みなって・・・。」

「うん、ごめんね。」


せっかくの楽しい旅行なんだし、余計なこと考えるのやめよ・・・。


そう思った瞬間、チャイム音がして、まもなく京都というアナウンスが流れたので、慌ててビールを喉に流し込み、またむせてしまった。


ーー


「わ~っ!!京都だ~!」

「京都だ~!!」


京都駅に降り立ったあたしたちは、二人で両手を突きあげて上陸を祝った。


「じゃあ、どうする?お昼ごはんにしよっか?何があるかな~。」

「そうそう予約してあるんだよ。京都名物の牛カツの店!」

「えっ!ホント?牛肉大好き。紗季が好きな物、ビール・牛肉・和央くん!」

「いや、そんな巨人・大鵬・玉子焼きみたいに言われても・・・。」

「巨人、タイホー?なにそれ?」

「いや、知らないならいいや・・・。」


ちなみにちょっと前までは、ビール・牛肉・リリハナちゃんだったけどね。まさか魔法少女よりも好きな人が現れるとは思わなかったぜ!!


「牛カツうめ~!ビールにあうな~!!」


そんなこと言いながらバクバク牛カツを食べてたら、和央くんがこっそり自分の皿からあたしの皿へ二切れ移してくれた。やさし~っ!!


京都のみんな、この優しい人があたしの彼氏だよ~って鐘を叩いて触れ回りたい!!


「そういえばさ、この後どうする?京都って来たことないから、あたしよくわかんなくて。」

「ああ、しおりで確認するよ・・・えっと、この後、1時15分のバスで清水寺に向かって、2時半まで観覧の後、銀閣寺へ・・・。」


和央くんはカバンからホチキスで止めた冊子のようなものを取り出した。1ページ目には「旅のしおり~京都・琵琶湖旅行編~」と書いてある。


「ちょ、ちょっと待って!なにそれ?」

「えっ、旅のしおりだけど。ほら、LINEで送ったじゃん。行き当たりばったりだとお店に入れなかったり、待ち時間が長かったりするから、なるべくストレスがなく楽しめるように綿密な計画を・・・。」


和央くんがあまりに真面目な顔で説明してくれるから、吹き出してお腹を抱えてゲラゲラ笑ってしまった。


「いや、ウケる、草生える!おもしろすぎるって和央くん。修学旅行じゃないんだから、二人の旅行で旅のしおりって・・・。」

「ごめん・・・ずっとこんな感じできちんと計画を立てて女性をエスコートしなきゃいけないもんだと思ってたから・・・。」

「あっ・・・・!」


変わらず真面目な顔で恐縮する和央くんを見て気づいてしまった。これは冗談じゃない。和央くんが元カノに施された教育されたの一つだ・・・。


付き合う前は気軽に元カノの話をいじってたけど、いざ恋人同士になると、気にし過ぎちゃうから元カノには極力触れないようにしてたのに・・・。

よりによって京都への楽しい旅行まで元カノの影が追ってくるなんて・・・。


「ごめんね・・・。旅のしおりは冗談。冗談だから、修学旅行気分が出るかなって思っただけで・・・。紗季はどこか行きたいとこある?スマホで探してみよっか?」


和央くんも過ちに気づいたようだ。あわててしおりをカバンの中に隠した。


「あのさ・・・。」

「あっ、ちょっと遠いけど金閣寺行ってみようか?修学旅行以来だし。」

「あのさ・・・。あたしが変えてあげるよ。」

「えっ?」


あたしの言葉の意味がわからなかったのか、和央くんはきょとんとしている。


「あたしが旅のルールを変えてあげる・・・ほら、旅は行き当たりばったりのが楽しいって教えたげるよ!!次はあたしが行きたい場所決めていい?」


和央くんは黙ってうなずいてくれたので、あたしは身を乗り出して和央くんの耳に口を近づける。


「・・・人がいっぱいの観光地よりも、早く旅館に行って二人きりになりたい・・・。それで和央くんとイチャイチャしたいな・・・。」


耳から口を離すと、和央くんが真っ赤になって、もう一度うなずいてくれた。


こうしてあたしたちは、世界的な観光地である京都を素通りし、一路、宿のある大津に向かったのであった・・・。


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