第13話 クリスマス
「来た!来てくれた!」
呼び鈴の音を聞くや否や、あたしは急いでエントランスのオートロックを開け、少しでも早く会えるように玄関扉の前で今か今かと待機した。
今日は愛しの和央くんと、あたしの部屋で二人きりでクリスマスパーティー!
ちょうど店休日だし、早起きして掃除に、飾りつけにと頑張ったのだ。
あっ、エレベーターが開く音がする。着いたな!よっし!!
「和央くん、会いたかったよ~!!」
あたしは勢いよく玄関を開け、エレベーターから降りたばかりの和央くんに抱きついた。
「・・・お、一昨日も会ったと思うけど・・・あとエレベーターに人が・・・。」
和央くんの後ろのエレベーターに目をやると、閉じかけの扉から、おばちゃんと小さな女の子が目を見開いている様子が一瞬だけ見えた。
しまった・・・。
まあいいや、あの子も大きくなったら、きっとあたしの気持ちがわかるよ。
和央くんと恋人になってから1か月も経たないけど、懸念していたとおり、あたしの想いはどんどん膨れ上がり、いまやロング缶1ダース入りのビールケースよりも重すぎるアラサー彼女に育ってしまった。
「ごめんね・・・ひいた・・・?」
「ううん。すごくうれしい。早く部屋に入ろ!」
和央くんは両手にケーキやお酒を持ちながら、あたしを器用に、それでもぎゅっと強くハグしてくれる。あたしが重すぎるのに同じくらいの愛で返してくれるのがうれしい!!
――
届いた料理をダイニングテーブルに並べ、席に着いたらさっそくクリスマスパーティーのはじまりだ!!
「じゃあ、メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
「いや~!ビールがうまい!」
クリスマスなのに、いつもと変わらずビールを飲み干すあたしを優しく見守ってくれる和央くん。幸せを形にするとこんな感じなのかな・・・。
「あたし、中3のころからずっと和央くんが好きだったんだよ。だから、30歳過ぎて和央くんとクリスマス祝えるなんて夢みたいだ~。」
「またまた~。さすがにそんな空言には騙されないよ~。」
和央くんが疑わし気な視線を向けてきた。
「いやっ!ホントだし!当時は気づかなかったけど、好きだったからこそ、あんなにウザ絡みしてたんだって!信じてよ!」
「過去を改ざんしてる・・・。」
「そんなことないって!和央くんはどうなの?あの頃からあたしを好きだったでしょ?」
あたしは瞳をキラキラさせて上目遣いで熱を帯びた視線を送ってみた。さすがに和央くんもあたしの必殺技の前にはたじたじだ。
「う、うん・・・僕も中学生の頃から好きだった・・・。」
「はい!うっそ~!!この間、中学を卒業してからあたしのことを思い出したことないって言ってたじゃん!うわっ~ひっど~い。口先だけ男だ~!」
「えっ?えっ?もしかして嵌められた?どこから?」
「中3から好きってとこからだよ~。そんなわけないじゃん。」
和央くんは顔に手を当てながら、悔しそうに地団駄を踏んでいる。
フフッ・・・かわいい。
ホントは、あたしは和央くんのことを中学生の頃から好きだった。
最近、和央くんを好きだって認めた時からそう確信した。だけど重すぎて引かれちゃうかなって思ったから、とっさに冗談にしちゃったよ。
「はいはい。機嫌なおして~。じゃあ、気を取り直してプレゼント勝負だ!!」
「場面転換が急すぎる!でも、プレゼント勝負?なにそれ?」
和央くんの訝し気な表情はいったん放置して説明に入る。
「では、ゲームマスター紗季ちゃんからルールを説明します。これから紗季ちゃんと和央くんで先攻後攻に別れて、プレゼントを贈り合います。そして、プレゼントを受け取った側の喜びの反応の大きさを得点に換算して、より多く得点を獲得した方が勝ちとなりま~す!」
「質問がありますゲームマスター。」
和央くんが挙手したので、「はいどうぞ」と発言を許す。
「誰が喜びの大きさを判定するのでしょうか?それから喜びの採点基準はどうなってますか?」
「採点は、ゲームマスター紗季ちゃんが責任を持って、独断と偏見で実施しま~す!なお、勝者は敗者に対して、一つだけなんでも命令できるものとします!」
「え~っ!それは紗季に有利過ぎでは?」
「ゲームマスターの命令は絶対!じゃあ、先攻は紗季ちゃんのターン!まずは最初のプレゼントはこれ!ヘアケアセットだよ!シャンプーとリンスが入ってるから、うちに置いておくといいよ。」
「あっ!!ありがとう。確かにこの家にもシャンプーとか用意した方がいいかなって思ってたんだ。これは助かる~!!」
和央くんの表情がほころんだ。よしよし喜んでくれてる。10点満点中8点ってとこかな?
「どんどん行くよ!次に部屋着セット。これもうちでくつろぐときに使うといいよ。」
「うわ~!確かにこれ着るとくつろげそう!ありがとね!!」
和央くんはさっそく部屋着の手触りを確認したりして満足そう。これもヒットだったようだ!9点獲得!
よしっ、とどめだ!
「それから最後はこれ!これは和央くんのうちに置いてね!」
そう言って、向こうの部屋から体育座りした3歳児くらいの大きさの袋を持ってきて、和央くんの前に置いた。
「わあっ!おっきい。なんだろう?開けてもいい?」
「もちろんさ!」
これこそ今回のプレゼントのメイン!フフッ、きっと驚くぞ~!
リボンをほどき、中から出て来たものを見た時、予想通り、驚きのあまり目を丸くしている。
「これは・・・人形・・・?ぬいぐるみ?」
「フフンッ!そう。魔法少女リリハナちゃんのデフォルメぬいぐるみよ!ほら見て、あたしの銀髪もリボンもリリハナちゃんを意識してるの。そっくりでしょ。だ・か・ら、和央くんの部屋に置いておいてくれれば、いつでもあたしと一緒だよ・・・♡」
「あっ・・・うん・・・。」
・・・ん?あれ・・・この反応・・・。
うわ~っ!!最後にやっちまった~!
なによ、その呆然とした表情は!!
たしかに冷静に考えると、あたしが30過ぎても魔法少女に寄せてるとこも、魔法少女のぬいぐるみを自分だって言ってプレゼントするのもイタいよ、イタ過ぎ君だよ。今になって気づいた。
なんで選んでる時に気づかなかったんだ?あたし・・・。浮かれてた過去のあたしの息の根を止めたい!!
「・・・あっ・・・ちなみに盗聴器とかは入ってないから、ハハッ・・・。」
「ああ、うん。ハハッ・・・。」
やばいって!!冗談にしようと思って、盗聴器って言ってボケてみたら、かえってリアリティ出ちゃってるし!!
いや、和央くん、さっきからリリハナちゃんの体をフニフニ押してるみたいだけど、本当に盗聴器とか入ってないってば!!
「うん・・・ありがとう。大切にするよ。」
ちょっと、そそくさと袋にしまわないでよ・・・。一応あたしの分身なんだから大切にして・・・。
「・・・・じゃあ、後攻、僕のターンで・・・これ、はい。」
和央くんはカバンから細長い封筒を取り出し、あたしの前に置いた。
「えっ?なんだろ?まさか現金とか・・・?現金だと反則でマイナス10点だよ~。」
とりあえず開けてみる、何か印刷した紙が出て来た。『ご予約のお知らせ』って書いてある?うん?
「ほら、お正月の休みに温泉に行きたいって言ってたじゃん。」
「うん。お盆とお正月くらいしか、まとまった休みとれないから。今年こそは絶対に行きたいって思ってたんだよね。でも、付き合い始めたのが12月になってからだったから予約が取れないねってなって、今回は残念だけど無理かな~って。えっ?」
慌てて手元の紙を見ると、琵琶湖のほとりの高級旅館の名前で、「1月3日から1泊2日のご予定でお待ちしております」って書いてある。
「ちょうど大津に友人がいたから、その人に地元の旅行業界に顔が利く人を紹介してもらって、無理を言ってお願いしてみました。」
「えっ・・・うそ・・・。」
驚きのあまり声が出ない・・・。
「ごめん。もしかしてもう予定が入ってた?それかその宿が気に入らなかったとか・・・?」
心配そうにのぞき込んでくる和央くんに対し、胸が詰まって声が出ないあたしは、ただ首を振った。
「・・・うれしい・・・。こんなうれしいプレゼント初めて・・・」
なにより、あたしが一番欲しかったものに気づいてくれて、しかもあたしがとっくにあきらめちゃったことを、和央くんだけはあきらめずに実現しようとしてくれたことがうれしい・・・。
人付き合いが苦手なくせに、友達の友達にお願いまでしてくれて・・・。
「100点・・・。」
「えっ・・・?」
「100点、あたしの負けだ~!!なんでも命令しやがれ~!!」
あたしは天井を向いて叫んだ。さすがに近所迷惑だろうか・・・。管理会社からの苦情も覚悟しないと。
「やった~!何をお願いしようかな~?」
和央くんは腕を組みながら、う~ん・・・と考え込んでいる。
四の五の言わず、さっさと命令しやがれ!
あ~あ、せっかく命令にかこつけて和央くんとイチャイチャしようと思ったのに。
「じゃあさ、あの床のクッションに移って、あそこで一緒に飲もうよ。」
「ん?うちは床暖房じゃないから床は冷たいよ。」
「うん・・・ほらダイニングテーブルだとちょっと距離があるから・・・。ぬいぐるみじゃなくて、紗季本人とくっついて飲みたいなって・・・。それだったら床でも温かいかなって・・・。」
「へえ・・・。」
・・・・おいいっ!!
こいつしれっとした顔して、あたしを喜ばせる天才か?紗季ちゃん検定1級か!?
完全に降参したあたしは、返事をする代わりに、テーブルの下で両足でぎゅっと和央くんの足を挟んだ。




