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きみ、捨てられたの?じゃああたしが拾ってあげるよ。  作者: 有希乃尋
第1章 あたしが拾ってあげる
12/31

第12話 ずっと好きでいてくれる?

1週間生きた心地がしないまま過ごした後、あたしは和央くんが指定したお店を訪れた。


この1週間は不安でほとんど眠れなかった。それに緊張からか頭がガンガン痛い。


和央くんが予約してくれたお店は、山田市の郊外にある、誰の需要があってこんな田舎にこんなの作ったんだよって思うような高級感のあるオーベルジュ(?)にあるフレンチで、フランス語(?)で書いてあるらしい店の名は『Provence-Alpes-Côte d'Azur』・・・もはや読む気すらしない。


「なんでわざわざこんな高級店で?・・・・しかも、こんな高級そうなお店にこんな魔法少女みたいな格好で来てよかったんだろうか・・・。」


今日もあたしはいつものように銀髪のボブをさまざまな色のリボンで飾り、リリハナちゃん第3シーズンを意識したパステルカラーでひらひらした服を着ており場違い感がハンパない。さっきから他のお客さんにチラチラ見られてる気がする。


もっともお店のギャルソンさん(?)は、さすがプロのようで、表情一つ変えず和央くんが待っている個室の席に案内してくれた。


久しぶりの和央くん・・・。なんか顔を見ただけで涙が出そう。


「久しぶり・・・。ごめんね。遠くまで呼び出しちゃって。」

「ううん・・・。この店すごいね・・・。」


久しぶりのせいか、なんか気まずい。とりあえず飲むしかない・・・。


あたしはビールを頼み、クルマで来たという和央くんは炭酸水を注文し、それから前菜が運ばれてきて静かに食事が始まったが、始まるや否や、突然、和央くんが急に姿勢を正して、真っ直ぐにあたしの目を見てきた。


「あの・・・ごめん。今日は謝りたくて・・・。あの日の告白はなかったことにしてください。」


ああっ・・・やっぱり告白を無しにして欲しいって話だったんだ・・・。

思わずグラスのビールを一気に飲み干し、すかさず和央くんがお替わりを注文してくれた。


「いや・・・うんいいよ。謝ってもらう必要はないし。まあ冷静に考えたら当然だよね。」


お替わりのビールが素早く運ばれてきたので、また一気に飲み干す。立ち去ろうとした店員さんを呼び止め、和央くんが慌ててもう一杯頼んでくれる。


「ごめん。あの日、あんなことをしてしまった後に、あんな告白なんかしたら紗季さんが怒って当然だと思う。完全に僕が間違っていました。」


いや怒ってない・・・。怒ってないけど、あたしとの関係をそんな迷いない表情で、きっぱりと間違いだって言われると悲しいな・・・。

胸の奥から何かがこみあげて来て涙がこぼれそうになったけど、必死で我慢する。


「ちゃんとしないまま進めちゃって、しかも、あんな大事なことを片手間みたいに話しちゃって・・・。」


そうだよ。ちゃんとすべきだよ。大事なことだよ。しかも片手間みたいに・・・片手間ってどういうこと?あたしと片手間にやっちゃったってこと?それはひどくない?


あたしが抗議の表情をしたことに気づいたのか、和央くんが慌てて補足してくれた。


「あの日、朝の慌ただしい中で、玄関で交際して欲しいなんて言って雑過ぎたよね。ごめんなさい。順番が違っちゃったから焦っちゃって・・・。だから今日はやり直させてください。」

「えっ・・・?」

「いつも明るい紗季さんのことが好きです。僕と正式に交際してもらえませんか。」


えっ?どういうこと?頭が追い付かないんだけど・・・。


「つまりそれは・・・和央くんがあたしの彼氏になってくれるってこと?」


和央くんはあたしの目を見てから深くうなずいた。


「あ、あの・・・、あたし、めんどくさいよ。付き合ったらどんどん相手のことを好きになっちゃって、それで重くなって束縛したり、嫉妬したりして・・・。」


「どんどん僕のことを好きになってくれるんだったらむしろ嬉しい・・・。」


「えっ、あの・・・付き合ったらいつも、ありのままの紗季は思ってたのと違うって言われるし・・・こんなに大酒飲みだって思わなかったとか。」


「いや、それは知ってるし。ほら・・・マーライオンだって見ちゃったし。」


「マーライオンはもう忘れて。それだけじゃなくて料理もできないし、掃除も苦手で・・・。」


「ああ、それもこの間、誕生日に部屋に行った時にわかってたし。でも、誰にでも得意不得意はあるって。」


「あと、今のサロンを開業した時に借金があるから仕事頑張らなきゃいけなくて・・・休みも合わないからあんまり会えないし、お盆とお正月以外は一緒に旅行もいけないし・・・。」


「今も同じでしょ。ああ、それだったらお盆とお正月は旅行に行くことにしようか。」


「そうだ。性格がウザくて、ウザ絡みしちゃうし、ダルい感じだし・・・。」


自分をディスる言葉を紡ぎ続けるあたしに、和央くんはフッと微笑んだ。


「僕は紗季さんのそういうところが好きなんだよ。僕は人見知りで控えめだから、紗季さんが明るく話しかけてくれるのがずっと嬉しくて・・・。」


「えっと、他にも、ありのままのあたしは・・・。」


セルフディスりを続けようとするが他に何も思いつかない。

おかしい、あたしにはもっとイヤなところいっぱいあったはずなのに・・・。


「もしかしたら、これから僕が知らない紗季さんも見つかるかもしれないけど、それでも今の僕に見えている紗季さんの魅力だけで、ずっと一緒にいて欲しいって思う理由には十分・・・」


「あっ、そうだ!あたし、この髪形とかファッションとか、魔法少女みたいな格好を変える気ないよ。これから40歳になっても、50歳になってもこの髪形で、こんな服を着続けるよ。それでもいい?」


ここだけは絶対譲れない!あたしが真剣な目で訴えると、和央くんは急にスンっとなり表情を消した。


「えっと・・・それはちょっとキツイ・・・。」


うわっ!引いてるし・・・やっぱりありのままのあたしじゃダメなんじゃん。

そう思ってガックリ肩を落とした瞬間だった・・・。


「ハハッ・・・。ダメだよ。ボケたらツッコまないと。ボケて、ツッコんで、どっかんが普通のコミュニケーションなんでしょ?中学の時に言ってたじゃん。」


向かいの席の和央くんはお腹を抱えて大笑いしている。


「えっ?今のボケ?わかりにくいし!」


こんな真面目な話の時にふざけるなんて!ぷんすか怒っちゃうよ!


「ごめんごめん。真面目に話すよ。僕が挫折してこの街に戻って来た時に、精神的にはどん底だったけど、紗季さんがそんな感じで明るく慰めてくれたおかげで立ち直れて・・・。だからこれからも、色んなことがあるだろうけど、ずっと紗季さんと、ボケて、ツッコんで、どっかんみたいな感じで笑い合っていきたいんだ。どうだろう?」


柔和な表情でじっと見つめて来る和央くんの魅力に抵抗できるだけの理由は、あたしの中にはもう残っていない。


「・・・ずっとあたしのことを好きでいてくれるなら・・・。」


「うん・・・。それは自信あるよ。だってほら・・・前も・・・捨てられるまでずっと一途だったでしょ・・・。だから紗季さんが拾ってくれるなら、紗季さんが僕を捨てるまでずっと一途だよ・・・。」


「うん・・・じゃあ、あたしが拾ってあげるか!大事にするよ。よろしくね。」


そう言ってビールのグラスに手を伸ばす。さっきまではまったく味を感じなかったけど、このビールやたらと美味しい!料理もうまい!!


こうしてあたしは、のん気に一人で生きていくという誓いを破り、和央くんと付き合い始めることになった。


あたしは、この晩のことを一生忘れないだろう。

だけど、料理とお酒がおいしすぎて、帰りに送ってもらう途中、また路上でマーライオンみたいになってしまったことだけは記憶から消したい・・・。


第1章はここまで。

無事に恋人になれた2人。だけど元カノの影に不安が募る紗季。2人は過去を乗り越え関係を続けられるのか。第2章へ続く

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