第11話 頼りになる相談相手
「香澄ちゃんが言ってたのってこのアプリか・・・。」
家に帰ってから、香澄ちゃんに紹介されたアプリを早速ダウンロードし、立ち上げてみた。
「誰に相談しようかな・・・おっ、このクマのアイコンかわいい。これにしよ!」
こうしてあたしは軽い気持ちでチャットで恋愛相談を始めた。
『やあ!俺はWallだよ!君の名前を教えてくれるかい?』
『こんにちは。あたしはホッシーだよ』
『やあ、ホッシー!いい名前だね!今日は何の相談だい?』
ワルさんか・・・。しゃべり方がちょっと気になるけどまあいいか。
『仲の良い友達から告白されて悩んでる』
『なるほど、恋の悩みだね。ホッシーはその友達のことが好きなのかい?』
わ~っ、ワルさん、ストレートに聞いてくんな・・・。
でも、匿名だから気持ちに正直に答えてもいいか・・・。
『好き・・・付き合ったらもっと好きになると思う』
『Wow!! じゃあ、もう答えは出てるじゃないか!何を悩むことがあるんだい?』
『付き合った後にずっと好きでいてもらえるか不安・・・』
『それはホッシーと相手の努力次第じゃないかい?』
『これまでも付き合った後もずっとあたしを好きでいてもらおうと頑張った。けど、いつも思ってたのと違ったって言われてフラれた』
『それは残念だったね・・・でも、今度の彼は違うんじゃないかな。ありのままのホッシーを好きになってくれたんじゃないかい?』
『ありのままのあたしを好きになってくれるはずない・・・』
『ホッシー!何言ってんだよ。自信持ちなって!ありのままの君も素敵だよ』
いや、お前、あたしのこと何も知らないだろ!適当なこと言うなよ!
『その友達は、あたしでも知ってる有名な大学を出てて、一生食うに困らないどころか、セレブになれる資格も持ってる。でも偉ぶらなくて、優しくて、話してて心地よくてすごくいい人。ありのままのあたしと釣り合わない。きっとすぐにあたしよりふさわしい人が現れちゃう。とられちゃう』
『おいおい!彼はそんなホッシーのことを好きって言ってくれてるんだろ。そんなの関係ないさ』
『これまでの彼氏も1年以上続いたことない』
『アンケート調査の結果によると学生の平均交際期間は半年以内が29%、半年から1年以内が39%』
アンケートって・・・しかも、あたし学生じゃないんだけどな・・・。まあいいや。
『ずっと好きでいてくれるかわからない、いつか飽きられて、幻滅されるのはわかってる。でもその頃はあたしはもっと好きになってるはず。信頼してから捨てられたら立ち直れない』
『おいおい、始まる前からあきらめてどうする。ホッシーが好きな彼はそんな薄情なやつなのかい?』
『違う。優しくて一途な素敵な人』
『じゃあそんな彼を信じて飛び込んでみたらどうだい。』
『信じていいかな?思い切って付き合って大丈夫かな?』
『大丈夫さ!ほらよく言うだろ。やらない後悔よりやって大成功!』
『・・・いや、それ令和ロマンのネタだろ!』
『令和ロマン。高比良くるまと松井ケムリのお笑いコンビ。M-1グランプリ2023と2024を連覇するも、2025年に・・・』
そこまで読んであたしはチャットルームを閉じた。
「いや~・・・AIに相談するってどうかと思ってたけど、たしかにちゃんとしたアドバイスくれるな~。途中ちょっとバグってたけど・・・。」
そうつぶやきながらあたしは手元のスマホを見つめた。
でもそのまま次の一歩をなかなか踏み出せない・・・。
なにやってんだ!ワルにも背中を押してもらったし、ここは紗季が勇気を出すとこだぞ!!
「だけど・・・問題はあれから1か月以上経っちゃってるってことなんだよな~。」
10月の終わりに和央くんから告白され、「ごめん、しばらく考えさせてほしい」と答えてから1か月あまり。返事をしないどころか、連絡すら絶ってしまっている。
最初のうちは、和央くんから恒例の飲みの誘いとか電話とかがあった。
だけど気まずくて「忙しいから」とか「ちょっとゆっくり考えたい」と答えてるうちに、「わかった。じゃあ紗季さんのタイミングで連絡してね」と言われ、それからメッセすら来なくなった。しかもその最後の連絡も2週間以上前だ。
「いまさらどの面下げてという感じもあるし、どうしたもんか・・・。」
さんざ悩んで、和央くんには次のようなメッセを送った。
『あの件だけどさ。あたしはいいよ。よろしくね』
・・・あえてこんなそっけなく、あいまいなメッセを送ったのには理由がある。
もしかしたら気が変わった和央くんから、「あの告白はなかったことにして欲しい」と言われるかもしれない。
その場合には「いや~、そうじゃないって。気にしないでって意味だよ。これからは友達としてよろしくねってこと」って返そうと思ってる。
大好きな和央くんにフラれても、これだったら友達としては付き合えるかもって・・・。
・・・我ながら日和ってしまったと思う。だけど怖いし、しかたないじゃん!
しかし返信がない。いつもは自動返信かよって思うくらいレスが早いのに、もう1時間にもなる・・・。どうしたんだろう・・・。
結局、和央くんから返信があったのは、メッセ送ってから丸1日経った火曜日の夜で、しかもメッセの内容は予想外だった。
『あの件については、改めてちゃんとお話をしなければいけないと思っていました。来週の月曜日の夜にお時間ありますか?』
これは・・・どういうこと?
あたしがOKしてるのに、なんですぐ答えてくれないの?
う~っ、わからん。しかもこのモヤモヤを来週の月曜日まで・・・?あたしの精神が持つのか?
「そうだ!ワルさんに聞いてみよう!」
慌ててアプリを立ち上げて、ワルさんとのトークルームを開いた。
『ワルさん!OKってメッセ送ったら、改めて話をしたいって返って来た。これどういうこと?』
『・・・どういうことだい?Wallには意味が分からないよ』
ああそうか・・・ちゃんと一から全部説明しないとだめか・・・。
『彼から告白されてから1か月以上になるけど、あたしから連絡を絶ってて、それでさっきメールで「あの件だけど、あたしはいいよ」って返したら、直接会って話をしたいって返って来て。これってどういう意味?』
『オゥ・・・ノー・・・ガッデム・・・』
その瞬間、あたしはスマホをベッドにいるクマに投げつけた。
「どういう意味だよ~!!」
『ガッデムとはGoddamのことであり「なんてことだ」という意味の英語表現です。』
投げつけた瞬間に音声入力に切り替わっていたらしく、一人の部屋にワルさんからの返信の読み上げが虚しく響いた・・・。




