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敵とか味方とか_1

 ザックの肩越しに見えたのは、厳しい顔で銃をつきつけてきている七央だった。どうして? という疑問と同時に、だからか、と納得する。

 昨日、黒衣の彼とは初対面であったにも関わらず妙な安心感があったのは、その正体が幼馴染だったからだ。どうしてあの時気付かなかったんだろう。私って、ばどれだけパニックしてたんだか。


「七央……だよね?」


 一応確認してみる。彼は視線だけ動かして私を見て、小さく頷く。


「……ん、オレ。カナ姉、そいつから離れて」


 離れてと言われても私から近付いたわけではない。ザックが近寄ってきただけだ。七央から言われた通りにするのに何の問題もないはずなのだけど、私は素直にその場から動くことが出来ない。


「ねえ、それ、人に向かって突き付けるものじゃない――でしょ」


 七央に問いかける私の声は小さく震えている。明らかな敵意をザックに向けている七央は、自分の知っている幼馴染とはあまりにかけ離れているように見えた。


 真っ直ぐに銃を構えて、見たこともない敵を射竦めるかのような目をしている。あまりにその瞳は冷たく、見ているだけのこちらの心臓の辺りまでもがざわざわしてしまうような気配を発している。これって、殺意っていうものなのかしら。普通の生活をしていて感じることなどないものに戸惑う。

 七央の持っているあれは玩具ではなくて、かつ普通の銃でないことは昨日の件で理解した。それに十分な殺傷能力があるだろうことも知っている。そんなものを、あんな顔をして人に向けるだなんて、あの優しい子とは思えない。

 なにより、本気で撃つ気がなかったとしても、その形状のものは人間に向けるべきではない。してはいけないことだ――と、私の中の常識が言っている。

 早く下ろして、と言い掛けた私の言葉をさえぎるように発せられた冷たい声が耳に入ってくる。


「ヒトって、ソイツのこと?」


 聞いたこともないような怖い声。なんで、どうしてあの不愛想だけど良い子なはずの幼馴染が怖いと感じるのだろう。


「当たり前じゃない。なに言ってるの」


 笑顔を作ろうとした顔が引きつって上手に笑えない。声も震える。


「カナ姉、考えて。普通の人間が、なんの道具もなしにジャンプして二階建ての家の屋根まで飛べると思う?」


 それは――と目の前の男を見れば、彼はこちらに向き直り、すこし眉を下げてから微笑んで肩をすくめた。その笑顔の意味するところは、つまり?


「人間じゃないよ、その男。危ないから、離れて」


 銃を突き付けたまま投げられた言葉に唇を歪め、ザックは私から視線を逸らす。何も言い返さないということは、その言葉が事実だと肯定しているようにしか思えなかった。

 でもどう見ても、身体能力に疑問はあったとしても、彼は人間にしか見えない。どういうことなのか、と黙ってザックを見る私に、七央はなおも続ける。


「そいつ、オレの敵。だから、ほだされちゃダメ。人間に見えるけど中身は全然違う。カナ姉は、オレとソイツどっちを信じるの?」

「……あ、あはは……え? 敵、とか、ねえ七央なに言ってるの? ここは、現実で、ゲームの中じゃな――」


 混乱したまま、どうにかして私に理解できる言語で喋ってくれるよう願う。こんなの、こんなのは。


「わかってる。ゲームとリアル混同してない。でも、昨日のアレも現実なんだよ。覚えてるんでしょ」


 七央はあくまでも冷静に、説得するように話しかけてくる。でもその声の冷徹さは、余計に私を混乱させる。静かな声が、目の前の男を無視して語りかけて来る。


「オレはカナ姉の味方だよ。解ってるよね? それに、もし昨日みたいなのに襲われても助けてあげられる。だから信じて。オレの言う通りにして」

「――助けられるかどうかで言ったら、そんなの俺にだってできんぜ」


 ふ、と差し込まれるのは場の空気にそぐわぬ軽い声。


「アンタは黙ってて」


 銃を構え直した七央に、イヤだね、と笑ってべえっと舌を出して見せたザックはくるりとターンして七央と正面から対峙した。


「俺にはしがらみなんてもんはほぼないからなあ。お前よりずーっと彼女を優先できる。少年みたいな操り人形じゃねえんだよ。言われたことしかできないお前と一緒にすんなよ」

「オレは操り人形なんかじゃない」

「じゃあおつかい小僧でもなんでも良いや。爺さん婆さんの言うこときくしかできない少年は引っ込んでろっての。ほら、安心して彼女のことは俺に任せとけよ」


 彼らはまた、わけのわからない言い争いをはじめる。しがらみとか操り人形とか爺さん婆さんとか、私の知らない関係がその裏にありそうだ。

 一体、彼らはいつからの顔見知りなのだろう。耳に入ってくる内容のあらゆるものが、解説を求めたい内容の見本市だ。


「イヤだって昨日も言った。オマエは信用できない」

「ァん? そこ、少なくともカナに関しては信じてくれて構わねえよ? 姫は俺に任せなって。ほれ、どんなに守りたくても残念ながら人間の腕は二本しかないんだ。それじゃ目の前の全部は掴めないだろ。欲張んなよ」

「カナ姉のこと呼び捨てにしないで、慣れ慣れしい。それに、オマエいつもオレの邪魔してくるんだから敵じゃん」

「敵っつーかなんつーか……まあ、味方じゃあないわな」


 やっぱり敵だ、と言う七央に、ザックは「味方じゃないからって、それが全部敵ってわけでもないだろうがよ」と呆れたように手を振った。

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