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憧れのシチュエーションではあるけれど。

 正直こんな状況じゃなければ、これはそう夢のようなシチュエーションだとは思う。

 ただし『こんな状況でさえなければ』って前提はとても大事だ。


「だからぁ。え? なんでわかんねえの? 俺に任せろって言ってるじゃないか」


 そう言った男に右腕を取られる。こちら、ちょっと軽そうな感じの長身の美形。


「アンタは信用ならないからダメ」


 そう言って左腕を取ったのは、目元を仮面で隠している不愛想な物言いの若い男の子。顔が半分隠れていてもシャープな輪郭と形のいい唇は顔立ちの良さを想像させられる。


 片方の顔は定かでないものの、暫定でイケメン認定できちゃう男子二人に取り合われてるだなんて、正直心ときめく状況ではある。

 ではあるんだけど、この選択肢はどっちもダメな気がする。そもそも二人して格好がまともじゃない。あらゆる意味で残念というかなんというか、まあどう考えても状況が悪すぎるという話で。

 私を左右から引っ張りながら彼らは言い争っている。


「あァん? 俺が姫を傷付けるはずないだろ。んなこと言ってる間にお前はアレやーっとけって」

「姫……? って、ナニ言ってンのアンタ。気持ち悪」


 左右で大声を出されると耳が痛くなる。キンキンする耳に私をお姫様扱いする単語が飛び込んでくるが、そんなのにドキっとする余裕も、彼らの会話をしっかり聞いているような余裕もない。

 なんと言っても、最大級の問題が目の前に迫ってきている。いわゆる命の危機というやつだ。

 二人の背後に迫っているのは巨大な魚型お化けの影で、それはゆらぁゆらぁと左右に揺れながらゆっくりと近付いてきていた。


 街灯の下に浮かんだ姿に目を見開く。

 トゲのないハリセンボンのようなまんまるな身体。そこには水草のようなものが絡みついている。潰れた目からダラダラとタールのような液体がアスファルトにしたたって、ジュゥ、と地面を溶かす音がする。腐ったような臭いに息が出来なくなりそうだ。

 なのに、二人は全く気にする様子もない。


「その手、放せよ」

「少年さあ? 自分の仕事しろよー。ほらーぁ、アイツこっち来てるぞお?」


 男は魚を指さす。しかし状況に反してその口調はのんびりしすぎている。

 いや、来てるぞどころじゃないんですけど。私たち、今にも食べられちゃいそうなんじゃないの? なのにどうしてこんなに余裕なのかわからない。


「アンタが彼女から手を放したら、やる」

「いーやーだっつってんだろ。わっかんねえガキだな」


 ――あああ、来る。なんか、アレ多分攻撃モーションってやつじゃないかなぁ!?

 ああいう動き、モンスターを倒すゲームで見たことある。

 なおも口論を続ける男たちに


「私のために争わないでッ!!」


 私は思わず両手を突きだして叫ぶ。


 ――一度は言ってみたかった台詞リストに載ってそうなヤツ、本当に言っちゃった……!

 いまどきマンガでも見ないようなド定番なセリフに一気に羞恥心が押し寄せ、カァーッと頬が赤くなる。


「なんだかよくわかんないけどっ! 私たちこのままじゃやられちゃうッ、からっ……キャァッ!」


 ビュンと音がしてなにかが飛んでくる。とっさになにも出来ずにいた私をかかえて、男が地面を蹴った。

 耳元で風の音がする。ハッと気付けば周囲の二階建ての住宅の屋根より高く飛び上がっている。高さに怯えて男の胸元にしがみつけば、彼はくふっと笑って


「彼女は俺が守ってやるからさ、さっさと戦いなよ少年!」


 地面に取り残された男の子に向かって叫んだのだった。

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