第1話 社畜、異世界転生する
社畜だった俺は、仕事中にぶっ倒れて死んだ。
気がついたときには、真っ白な空間にいた。目の前には長いひげを生やした老人が浮かんでいる。
「おお、目覚めましたか」
老人はにこやかに微笑んでいる。
「あなたは過労死しました。かわいそうなので、異世界で第二の人生をプレゼントします」
「……は?」
俺は自分の体を見た。確かに、今までのスーツ姿ではない。手を握ったり開いたりしてみるが、疲れも感じない。
「つまり、俺は死んだ……?」
「その通りです。あなたは過労の末に倒れ、そのまま息を引き取りました」
「マジか……」
働き詰めの人生だった。ブラック企業で毎日深夜まで働き、休みもろくに取れない。寝ても仕事のことが頭を離れず、気づけば机の上で意識を失い、そのまま……。
「はあ……やっと解放されたってことか」
「ええ、ですので新しい人生を楽しんでください。異世界に転生するにあたり、あなたにスキルを授けましょう」
「お、スキルか。なら、俺はスローライフを送りたい。仕事とは無縁の生活を……」
「では、適したスキルを与えましょう。『万能仕事人』というスキルです」
「……ん?」
聞き間違いか?
「すみません、今なんて?」
「『万能仕事人』です。あらゆる職業の才能を極限まで高めるスキルですよ」
「ちょっと待て。それ、俺の希望と真逆じゃね?」
「仕事を極めることで、どんな状況でも生きていけます。異世界で楽に暮らせる最高のスキルですよ」
「いやいや、楽に暮らすどころか、むしろ働くしかない未来しか見えないんだが?」
「細かいことは気にしないでください。それでは、異世界での新しい生活を楽しんでくださいね」
「おい、待っ……!」
俺の抗議もむなしく、光に包まれ、意識を失った。
◆
目を覚ますと、森の中だった。
「……異世界か」
服装はシンプルなシャツとズボン。手には何も持っていない。でも、なぜか「万能仕事人」というスキルについての知識が頭に流れ込んできた。
『万能仕事人:あらゆる職業の才能を極限まで高めるスキル』
「……いや、やっぱりスローライフに向いてないよな、これ」
文句を言っても仕方がない。とりあえず生きていくために近くの村を目指すことにした。
◆
村に着くと、ひどく困った顔をした老人がいた。
「おや、旅のお方かね?」
俺は軽く会釈しつつ、老人に話しかける。
「すみません、ここはなんという村ですか?」
「ここはラト村じゃよ。だが、今はちょっと困ったことになっておってな……」
「何かあったんですか?」
すると、老人はため息をついて語り始めた。
「今年の畑が不作でのう。作物が実らず、村の食糧が足りなくなりそうなんじゃ」
「それは大変ですね……」
俺は試しにスキルを使ってみた。すると、作物の状態が手に取るようにわかった。
「土の栄養が足りないな。適した肥料を作ればいいか」
気がつくと、俺は畑仕事を始めていた。
「おぬし、農業の心得があるのか?」
「いや、初めてです。でも、なんかできそうな気がするんで」
俺は近くの森に入り、適した素材を集め、肥料を作った。そして畑に施し、水のやり方を工夫すると……。
数日後、畑は豊作になった。
「す、すごい! これほどの実りがあるとは……!」
「本当に農業の神様じゃ!」
村人たちは歓喜し、俺を「農業の神」と呼び始めた。
「いや、俺はただのスローライフ希望者なんだけど……」
しかし、それを皮切りに次々と仕事が舞い込んできた。
「鍛冶屋の仕事を手伝ってくれ」
「家の修理も頼む」
「子供たちに勉強を教えてほしい」
なぜか、どんな仕事でも完璧にこなせてしまう。
「万能仕事人……万能すぎる……」
こうして俺のスローライフ計画は、最初の村に着いた瞬間に崩れ去ったのだった。
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