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【現実世界恋愛の短編】ハレンチ学園シリーズ

拾ったリモコンを起動するとうめき声が聞こえてくるから怖くて落とし物として届けた

作者: マノイ

ハレンチ学園シリーズなので、酷い話です。ご注意を。

「今回のテストの最高点は九十七点です」

「うっそ~!今回の数学超難しかったのに!」

「九十点越えるなんて無理だって!」


 確かに今回は過去のテストと比較すれば難しい部類に入るだろう。

 だが高得点を取るのが無理というのは言い過ぎだ。


 何故なら俺が実際に九十七点を取ってみせたのだから。


「ねぇねぇ、九十七点取ったのってみっちーだよね!」

「その呼び方は止めてくれって何度も言ってるだろう」

「ぶーぶー、みっちーはみっちーだもん」

「小学生かよ……」


 休み時間になったら馴れ馴れしく話しかけて来たのは隣の席の女子、(すめらぎ) 紅玉(こうぎょく)さん。

 優雅な名前にも関わらず、子供っぽくて優雅さの欠片も感じさせない性格だ。


 俺の名前が佐野(さの) 道長(みちなが)だからか『みっちー』などと勝手に愛称を作って呼んでくるが、隣の席という間柄なだけで特に親しくなるイベントを経験した覚えは無い。つれない態度で心理的な壁を作ろうともやすやすとぶっ壊してくるため、元々距離感がバグっている性格なのだろうと諦めて自由にさせている。


「九十七点とか凄いなぁ」

「俺が取ったなんて言ってないだろう」

「どうせ掲示されれば分かるんだから隠さなくて良いじゃーん」

「……確かに、理に適っているな」


 この学校では上位二十位までが掲示されるため、俺が最高点を取ったことはすぐにバレるだろう。確かに皇の言うとおりに隠す必要は無いか。


「だが凄くは無い。百点では無かったのだからな」

「さっすが学年一位。意識チョモランマだね!」


 意識が高いと言いたいのだろうか。

 別にこの程度普通だろう。

 学生は勉学が本分であり、満点を目指さないなどありえない。


「ねぇねぇ、今度勉強教えてよ」

「断る」

「うっわ。速攻で断られちゃった。かなぴー!」

「その手には乗らん。俺は弁護士になる夢を叶えるために真面目に勉強してるんだ」


 この学校の女子は普通ではない。

 乳袋だなんて揶揄されている胸を強調したカラフルな制服を喜んで着こなしている上に、性に大らかで気に入った相手を次々と誘惑してきやがる。

 勉強を教えて、というのが性行為の誘いの隠語だということを知っていて本当に助かった。


「みっちーって女の子が嫌いなの?」

「そうではない。今は夢を叶えるのに必死というだけのことだ」


 別に俺は男色でも枯れているわけでもない。

 弁護士になりたいという夢の優先度が高いだけで異性にはちゃんと興味はある。


「う~ん、手ごわいなぁ」

「諦めろ」


 皇が俺のことを性的に狙っていることは薄々察していた。

 テストが終わるたびにアプローチしてくるのだから、俺個人の見た目や性格ではなく賢さが気に入ったのだろう。


 俺としては皇のことは好きでも嫌いでも何でもない。

 あくまでも偶然隣の席になった女子という印象しかなく、構ってくるのが少しうざったいと感じる程度だ。


「もっと真面目に勉強すれば俺より成績良くなるだろうに、勿体ない」

「これ以上頑張るの嫌だよ~」

「はぁ……マジで勿体ないな」


 頭のおかしい女子制服からは想像もつかないだろうが、この学校は超進学校だ。

 女子達も特別枠で入学したなんてことは無く、超ハイレベルな入試を乗り越えて入学した強者揃い。


 しかも勉強についていけずに脱落した者がほとんど居ないのだ。

 性春がどうのとふざけずに今以上に勉強に打ち込めば、俺なんかあっという間に抜き去られてしまうに違いない。


 そのおかげで学年トップに君臨し続けられているのだから、喜ぶべきか、それとも手を抜かれて憤るべきか。考えると頭がおかしくなりそうだから、俺は何も考えず自分がやるべきことに集中すると決めている。


「とにかく、俺の青春は勉強に費やすと決めたのだから、余計なことは……ん、なんだこれ?」


 話を切り上げて立ち上がろうと思ったら、足元に何かが落ちていることに気が付いた。

 誰かの落とし物か何かと思いそれを拾い上げて確認する。


「何かのリモコンか?」


 ピンク色の直方体の端末で、オンオフのスイッチと強弱を決めるボタンだけがついている。

 扇風機か何かのスイッチだろうか。最近は暑いからハンディ扇風機を持ち歩いている人もいるし、そのリモコンかもしれない。


「なぁ、これって皇さんの物か?」


 俺の足元に落ちていたのなら、それは近くの席の人の物に違いない。

 皇さん以外の近くの人は席を立ちどこかに行ってしまっているので、ひとまず彼女に確認しよう。


「何々……!?」


 リモコンを見た瞬間、何故か皇さんの顔が一気に紅潮した。

 反応があったということは彼女の持ち物ということなのだろうか。


「し、知らない!」

「あれ、そうなのか?」


 明らかに何かを知ってそうなのだが、顔を背けてしまった。


「じゃあ誰の持ち物か分かるか?」

「だから知らないって!」

「おっと」


 追加で確認したら、顔を背けたまま手で払おうとして来た。

 それを反射的に避けて差し出したリモコンを引っ込めたら、その拍子に間違ってスイッチをオンにしてしまった。


「あっ……くっ……うふっ……」


 なんだこの声は!?


 皇さん、じゃあないな。


 どこからか奇妙な呻き声が聞こえてくる。

 教室中を見渡したけれど、何故か俺に熱視線を浴びせてくる女子が一人いただけで、不思議と苦しんでそうな人は誰も居なかった。


「え、なんか怖いんだが」


 スイッチを押した瞬間に何処からともなく呻き声が聞こえるとか、絶対に普通じゃない。


「そっか、その手があったか……」

「皇さん?」

「な、なんでもない!」


 やはり皇さんの反応がどうにも怪しいが、聞いても答えてはくれ無さそうだ。

 それよりも今はこのリモコンをどうすべきか。

 さっきの呻き声がどうにも耳に残り、呪われそうで持っていたくない。


「よし、落とし物箱に入れておこう」


 教室の隅には落とし物箱が置かれていて、そこに届けてこの存在を忘れることにした。

 脳裏に残る呻き声も、勉強に集中していればすぐに忘れるに違いない。


 そう思っていた俺は甘かった。

 大甘だった。


ーーーーーーーー


「ぎゃああああああああ!」


 翌日、登校した俺を待ち受けていたのは、あまりにもおぞましい出来事だった。


「どうしたの?」


 席につくや否や突然叫び出したのだから、隣の皇さんが心配そうに声をかけてくるのも当然のことだ。


「ふ、ふふ、ふふふふ」

「ふ?」


 あまりの恐怖に、まともに言葉を発することすらままならなかった。

 何故俺がそんなにも震えて恐怖しているのか。

 それは机の中の様子があまりにも異常だったからだ。


「増えてるうううううう!」


 大量のピンクのリモコン。

 それが俺の机の中に入っていたのだ。


 慌てて落とし物箱を確認すると、昨日のリモコンは無くなっていた。


「ど、どど、どうして!」


 せっかく忘れていた呻き声がまた脳裏に蘇ってしまった。

 そのせいか、机の脚に足を軽くぶつけてしまう。


 その衝撃で机の中のリモコンが一つ床に落ち、ぶつかった際にスイッチがオンになってしまった。


「ふっ……んんっ……き……きたぁ……」

「何も聞こえない、何も聞こえない、何も聞こえない、何も聞こえない」


 呻き声など聞こえ無いと必死に言い聞かせ、耳を塞ぎながら周囲の様子を確認すると、昨日とは違う女子が俺に熱視線を浴びせているくらいで、やはり呻き声の原因となるようなものは見つからなかった。 


 まさか俺は悪霊にでも憑りつかれているのではないか。

 そんな荒唐無稽な考えを、思いっきり頭を左右に振って強引に追い出した。


「よし、捨てよう。全部捨てよう。そして何もかも忘れよう」


 ゴミ箱を持ってきて全部捨ててしまおう。

 いや、機械だから捨てたら怒られるか。


 なら落とし物箱に全部入れて忘れるんだ!


「みっちー待って!」

「皇さん?」


 真っ青になりながら落とし物箱を取りに行こうとしたら、皇さんが何故か引き留めて来た。


「ちゃんと全部のスイッチをオンにしないと」

「何でだよ!」


 また怨霊の呻き声が聞こえるかもしれないのに、どうしてスイッチ入れなきゃならないんだよ!


「でもそれがそこに入ってるってことは、みっちーにスイッチを入れて欲しいってことじゃないかな」

「どういうこと!?」

「スイッチを入れないと今度はみっちーの家にまでついてきたりして……」

「止めろおおおおおお!」


 何故だろうか。

 まったく理屈が通っていない話なのに、本当にそうなる気がして超怖い。


 スイッチ入れないと……ダメ?

 もう呻き声聞きたくないんだが。


「ほら、そこの少し大きめの奴なんかスイッチ入れてってアピールしてるよ」

「そういうのマジでやめろって。というかどれも同じにしか見えないんだが」


 触れるのも嫌だが、本当に家までついてきたらもっと嫌なので、試しに皇が言っているリモコンを手に取ってみた。


「うう……」


 しかし恐怖で中々スイッチのところに指が伸びない。


「さあ、思いっきりオンにしちゃおう!」

「なんでそんなに楽しそうなんだ……」


 あの呻き声は俺にしか聞こえていないのだろうか。

 だとすると皇が能天気にスイッチを押せと言ってくるのも分かる気がする。


「オーン!オーン!オーン!オーン!」

「うるさいなぁ!」


 能天気なのはまだしも、コールを入れる程にノリノリなのはなぜだ!?


「ええい!」


 コールに背を押されたわけでは無いが、意を決してスイッチをオンにした。


「あひゃあ!」

「え?」


 すると今度は呻き声は聞こえて来なかった。

 その代わりに皇さんが奇妙な叫び声をあげた。


「どうした!?」

「な、なんでも、うっ……これ、結構……」

「大丈夫か!?」


 顔が真っ赤で、体をくの字にして、口を手で押さえて何かを必死で我慢しているかのような異常な様子だ。


「まさか皇さん……」


 リモコンのスイッチをオンにしたら皇さんが苦悶し始めた。

 これはやっぱりそういうことだよな。


「悪霊に取りつかれちゃってるのか!?」

「へ!?」


 あの呻き声の原因となる悪霊やら怨霊やらが、俺ではなく皇さんをターゲットにしてしまったんだ。 

 さっきのコールが良くなかったのかもしれないな。


「ち、ちが……」

「すぐにスイッチを切るからな」

「ま、まって!」


 スイッチを切れば悪霊が大人しくなるかと思ったのだが、皇さんは何故かそれを止めた。


「それじゃあ……ダメ」

「ダメ?まさか皇さんは正しい対処方法を知っているのか!?」


 もしかしてこの怪異は有名なものだったのかもしれない。

 勉強ばかりしているからそういう話題には疎いんだよな。クラスメイトとの交流も大事だと、今更ながら反省だ。


「それを……強に……して……」

「強?このボタンを押せば良いんだな!任せろ!」


 それで皇さんが解放されるのならばと、全力で連打(・・)してやったぜ。


「あひゃああああああああああああああああ!」

「皇さん!?」


 解放されるどころかもっと酷いことになってるじゃないか!

 手で口を塞いでいても隠し切れない程にだらしない顔になってびくんびくんと痙攣している。


「ま……これ……やば……んん……」

「皇さん!大丈夫!?皇さん!」

「ひゃあああああああああああああああああ!」


 異性に勝手に触れるのは悪いと思ったが、非常事態なので肩を軽く掴んで支えてあげようとしたら、また盛大に叫んでしまった。


 こうなったら仕方ない。


「保健室に連れて行くからな!」


 彼女の腕を取り、体を支えて保健室へと連れて行く。

 彼女は白目を剥きかけていて、時折びくんびくんと震えていてあまりにも可哀想だ。


 除霊方法が分からない以上、一刻も早くベッドに横になって楽な姿勢で休んでもらいたい。


「くっ……歩くのも無理か」


 皇さんは足に力が入らないようでフラフラだ。

 酷く汗をかいているのか、独特の香りが漂ってくるような気がするが、マナー違反だから意識の外へ追い出すことにした。それと何故かブブブブと機械音が聞こえてくるような気もするけれど、気のせいかあるいはスマホが震えているだけだろう。


「頑張れ!もう少しだ!頑張れ!」


 ゆっくりとだが着実に進み、ようやく保健室まで辿り着いたのだが、なんと養護教諭が不在で鍵がかかっていた。


「そん……な……」

「あっ……んっ……」


 鍵がかかった保健室、傍らには苦しむ皇さん。

 一体どうすれば良いのだろうか。


「そうだ、こういう時のために確か保健室の隣には!」


 生徒を休ませるためにベッドだけが置かれている部屋があるはずだ。


「あった!」


 急いでその部屋に皇さんを連れて行き、ベッドに横たえた。


「おっと忘れるところだった」


 この部屋を使う場合は『使用中』の札を外に出す必要があるんだった。

 何故これが必要なのかどうか分からないし、これまた何故かハートマークが描かれた怪しいピンク色の札なのだが、今はそれを気にしている場合ではない。

 急いで札を出し、皇さんの様子を確認するためにベッドの傍に近寄った。


「あっ……んっ……ああっ!」


 もはや声を隠す余力も無いのだろう。

 目をトロンとさせた皇さんは、苦しみながらも俺の方をじっとり見つめ、何かを言いたげだ。


「皇さん……」

「みっ……ちー……」


 彼女が一体何を言いたいのか。

 それが分からない程、俺は愚かでは無い。


 彼女を苦しみから解放する方法は一つしかないもんな。


「よし、救急車を呼ぶから待っ……あれ?」


 スマホを取り出して救急車を呼ぼうとしたら、物凄い勢いで皇さんが俺の手からスマホを奪い取り、枕の下に隠してしまった。


「何してるの!?」


 これでは救急車を呼べないでは無いか。


「まさかこれも悪霊の仕業なのか!?」


 皇さんの身体を乗っ取っているのかもしれない。

 くそぅ、一体どうすれば彼女を助けてあげられるんだ!


「みっちー!」

「はい!」


 悩んでいたら、突然皇さんが大声で俺を呼んだ。

 これまでにない、はっきりとした反応に驚き、思わず素直に返事をしてしまった。


「前から思ってたけど鈍すぎ!」

「え?」


 突然何を言い出すのかと困惑していたら、皇さんは俺の腕を掴んできた。


「わわ!なんだ!?」


 そしてとてつもない力で、ベッドの中に引きずり込んできたでは無いか。


「はぁっ……はぁっ……」

「あ、あの、皇さん?」


 ベッドの上で俺は皇さんに馬乗りされている体勢になってしまった。

 彼女の顔はあまりにもひどく紅潮し、怪しく俺を見つめている。


「(まさか悪霊に操られた皇さんに殺される!?)」


 マウントポジションを取られてしまったら、いくら相手が女子とはいえ簡単には逃げられない。

 絶体絶命の状況に青褪めていたら、俺とは対称的に超真っ赤な皇さんが何かを言おうとしている。


「私に……何が起きたのか……教えて……あ・げ・る」

「え?」


 皇さんはそう言うと馬乗りになったまま自分のスカートに手を伸ばし……俺は必死に勉強するだけでは決して知ることのできない神秘の世界を勉強させられたのであった。




 悪霊じゃなくて良かったけど、男にアレのリモコンを操作させようとするなんてやっぱりこの学校の女子はイカれてる!

ボタン式にするかダイヤル式にするか悩みました(どうでも良い)

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― 新着の感想 ―
[一言] >>ボタン式にするかダイヤル式にするか悩みました(どうでも良い) スライダー式もあります(ほんとにどうでも良い)
[一言] ほろべ
[一言] そういうリモコンって、何で通信しているのかなあ。場所柄赤外ではないだろうし。混線したりして、全部が一斉に動作を始めたら…w
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