プロローグ トリコロールの箱姫
初めての投稿になります。佳恋です。
元々物を書くのは好きだったのですが、しっかり書き上げた事があまりなかったので、書いてみたいと思いました。
先にお伝えいたしますと、こちらの小説は実際いらっしゃる
歌姫を見て心を奪われ、書こうと思った短編になります。
ピンとくる方も沢山いらっしゃると思います。
こんな世界が、もしかしたらあるかもと読んでいただけますと
幸いです。何卒よろしくお願いいたします。
「誰が私を溶けるほど愛して、誰が私を締め付けて殺してくれるの?」
その歌声を聞けば、観衆は涙し、各々が叫び、そして奥底に滾る血潮が肌に現れる。しかしその表情を知る事は誰もいない。漆黒の箱に囚われたまま歌い続けるだけの歌姫。年齢も、いつから有名になったのかも、誰もがわからない謎に包まれた異質な存在。その存在に一人、また一人と心を奪われていく。
都会から離れ、鳥が来る人来る人を見ながらさえずり、通りかかった人の命を吸い取りそうなほどの蒼い薔薇が囲む赤レンガの一本道。そこを抜けると見えてくる黒箱のステージ。存在するのですら煙たがられるであろう異質のステージにいつからかそこに彼女はいる。連日連夜、彼女の歌を求めてひとり、またひとりとここに訪れる人は増えていく。来る人々は様々な目的だ。純粋に歌を楽しみたい者、野次馬、今ある現実に希望を抱き進む者、欲に溺れて道を間違えた者、そして、彼女に愛焦がれる者。
見せ物小屋になりつつあるこの場所で今日も彼女は歌う。
---その歌声は絞り出して愛を求めている様にも聞こえ、
憤怒にも、
憎悪にも、
悲哀にも、
それは不可解に混じり、重なり曲になる。
涙を溜め、崩れ落ちるものもいた。
頭を揺らし、ストレスをその動きに昇華するものもいる。
声一つで集まった数百人が、魂を奪われていく。
終わりが近づく。
黒い箱から薄ら見えるシルエットが動く度に皆の瞳孔が一直線に動く。揺れる長髪と指先の天地が変わり、横顔のシルエットが見える刹那、地面が揺れる。今夜の鎮魂歌は最高潮へと走る。
彼女の魂にあてられた人々は
生にしがみつく鮮血のような叫びと
今にも天に向かい死を仰ぐような蒼い歌声から
いつしか「トリコロールの箱姫」
そう、呼ばれるようになった。
これは箱姫の記憶の物語。
死を待つ物語。
これからも続きを書いていきます。
何卒よろしくお願いいたします。