4話 修道院と祭り
「なぜ料理をする力を失ったのかわかりました」
修道院まであと少しという道すがらプリンちゃんが声を発した。
「何か原因だったんだい?」
「はい。もっと他の人に食べてもらいたいと思ったからです。精霊様に捧げるべき料理を私は私利私欲に考えたから力を失ったんです」
「そんなことでか?」
カシワが思わず口を挟んだ。
「王国料理人としては失格です。主を差し置くわけですから」
「なるほど」
領主の料理人はあくまで領主の為に従事しなければならない。単純な環境でプリンちゃんはいつしか料理人として別の欲を抱いたから持て成す力を失っていったのであった。
「村のお菓子がそれを気づかせてくれました。私も村の人達をおいしい料理で持て成したいと。もっと料理を多くの人に知って貰いたいという気持ちに」
プリンちゃんはすっきりした顔で話し終えると目的の場所が見えくるとカシワが刀の柄を向ける。
「あそこがウール修道院だ」
中庭を囲むように列柱が並んでいる。一方は聖堂につながり残りは食堂や厨房、共同生活施設につながっている。プリンちゃん達はまっすぐと聖堂に向かう。
入口は空いており中を除くと思わぬ光景に出くわした。
「どうか主よお許しください」
一人の修道女がその身を終わらせようと喉元にナイフを突きつけている。
「お、おまちくださ――」
プリンちゃんが声を上げ終える前にカシワが一足早く修道女の懐に入り手元のナイフを撃ち落とした。
カランっとナイフが転がり落ちる。
「な、なな、だだだれですかっ!?」
「無礼は謝ろう。我々はロワ村よりここに尋ねごとをしに来た者だ」
ロワ村と聞いて修道女の顔色が変わる。
「ロ、ロワ村は無事なんですか? 獣達が暴れたと聞いてあたしは、あたしは――」
修道女は言葉を言い終わる前に泣き崩れた。困惑するプリンちゃんとカシワの間に入りカスタードが落ち着いた様子で声をかけた。
「何か事情があるようだし少し落ち着いてから話を聞こうか」
カスタードの提案に乗り修道女が泣き止むのを待ち事情を確認した。
「ロワ村で獣達が暴れたのは修道院が原因だというのかい?シロップ先生」
「はい。あたしは精霊祭事の持て成しを失敗し加護を受けることが出来ませんでした。この周辺の村に危機が及んでいるのは、あたしのせいなんです」
「精霊の持て成しと言うのは難しいものなのか?」
カシワが尋ねるとプリンちゃんが答える。
「精霊様の性格によります。礼儀を重んじるのか貢物にこだわるのか。精霊様によって好みや趣に合った対応しなければなりません」
「そうなんですぅ! あたしには精霊様のお考えがわかりません!!」
シロップがプリンちゃんにしがみつき再び喚きだした。
「よければお手伝いをさせてください」
プリンちゃんの言葉にシロップの泣き顔がぴたりと固まりしばらくするとまたぐずぐずにくずれていった。
「うぅ。ありがとうございます」
修道院のレシピを確認したいとプリンちゃんが申し出るとシロップは一度、奥に消えては古びた本を取り出してきた。
「これが祭事の時に作るものになります」
出された本に目を通すとプリンちゃんがあることに気が付く。
「このレシピは手順が途中でなくなっています」
「えぇ!?」
慌ててシロップが確認すると本は経年劣化により所々の文字がかすれて頁が抜けている。
「恐らく、精霊様の捧げものが不完全だったのが原因かもしれません」
失われた頁のお菓子の名は鳩小屋の名前がついていた。
「本ではなく記憶から再現してみましょう」
プリンちゃんは腕まくりをして言ってみせた。
カシワは村のみんなに、シロップは他の修道院の仲間に鳩小屋の記憶を尋ねに向かいカスタードとプリンちゃんは食材を揃えに向かう。
「なんだか楽しそうだね。プリンちゃん」
「そうかもしれません」
人が困っているというのに自分がこれから知らないお菓子を作れることに嬉しさが混ざっていることに気が付いた。
それと同時に責任があることにも。
材料を机に並べると料理人としての腕がうずいた。
「まずは中身を作りましょう」
聞き込みした味は中身に果実がはいっていた、パンのようで甘くやわらかい、
焼き菓子だった、この三点が主だった意見になった。
プリンちゃんはレシピ本に書かれている果実の砂糖漬けを作る。
「問題はここから生地の部分ですね」
シロップが本の抜け破れた箇所を恨めしそうに眺めて呟く。
「材料まではわかっています。あとは分量と混ぜ具合を何パターンに分けていくつか作ってみましょう」
手際よく生地を複数に分けて混ぜ合わせるプリンちゃんがメモを取っていることにシロップが気が付く。
「これは新しいレシピですか?」
覗き込むといくつかお菓子作りの手順が記載されている。
「ええ。上手くいったものは次回に使えると思って」
「なるほど…ってああっ、すみません材料をこぼしてしまいました!」
「こちらで拭いてください」
差し出されたのは手元のレシピだった。
「ええっ!?せっかくのレシピなのに」
狼狽えるシロップを余所にプリンちゃんは構わずに汚れた所を拭き取った。
「これは混ぜ具合が悪かったレシピです。そういうのはこうして使ってしまうものなんですよ。それより、いよいよ焼いてみましょう」
焼きかまどは専用の建物に作られていた。白い壁に上下の開口部がくりぬかれ下は火元、上はかまど口になっている。混ぜ終えた生地を運び中に入るとカスタードとカシワが汗だくで作業していた。
「やぁ、生地はできたみたいだね」
カスタードが明るい声をあげた。
「はい。お願いします」
プリンちゃんから生地を受け取るとカスタードがかまどに入れる。
今度こそ持て成しを成功させるための準備が始まった。
シロップはお菓子を並べるテーブルを用意し祭事の飾りをつけをしていく。
準備が整えば焼き上がった鳩小屋をテーブルに並べる。
すると辺りが眩い光に溢れふわりとひと際目立つ光が近づいた。
「そうそう!これだヨ~」
それは以前にプリンちゃんが出会った精霊の声だった。
「精霊様この度は食べ比べをして頂きたいのですがいかがでしょうか?」
深々とシロップは頭を下げて申し出る。
「面白いネ~!いいヨ~」
姿は光に包まれて見えないが喜んでもらえているのがわかる。
プリンちゃんは陰ながらシロップを応援した。
「精霊様は満足しそうかい?」
精霊が焼きあがった鳩小屋を堪能しているのを見届け一度、修道院から出てきたプリンちゃんにカスタードが声をかけた。
「はい。持て成しが終われば精霊様の加護を受けれると思います」
「村の獣たちも大人しくなるか?」
カシワが心配そうに尋ねる。
「納めている村にも加護が及びますから安心出来るかと」
「そうか。それで今後はどうする予定なんだ?」
カシワからの質問にプリンちゃんは穏やかに答えた。
「まだまだ未熟な所があるので暫くは旅を続けながら勉強をしようかと思っています。そして、いつかは自分の店を作りたいと思っています」
「追手がいるのに呑気な夢だね」
からかうカスタードにプリンちゃんは意に返さず答える。
「それだけ本気に思ったのです。今回のことで料理を作るのも、考えるのも、食べるのも、みんなに食べてもらうことも私は好きだとわかりました。プティシ国を納得させる方法はまだ思いつかないですがいつか必ずお店を出したいと」
「プリンちゃんの店なら俺も食べに行きたいと思う」
カシワの申し出はプリンちゃんを笑顔にさせた。
「それじゃあ僕はお客1号になるためにその夢を手伝うよ」
さらりと言うカスタードの言葉にプリンちゃんが慌てた。
「あの、そこまでお世話になってもいいんでしょうか?」
「気にしなくていいよ。こうみえて僕は面倒見がいいんだ」
「別の目的もあるんじゃないのか?」
カシワの指摘にカスタードは否定をせずにいる。
緊迫する空気にプリンちゃんが間に入った。
「私はカスタードさんを信じています。大丈夫ですよカシワさん」
その時、修道院より精霊の笑い声が響く嬉しそうな楽しそうな声に辺りが包まれると加護が村々に降り注ぐのが見えた。
同時にそれはプリンちゃんの新しい旅立ちをも祝福しているかにも思え、眩い光景に三人は笑みを交わし合った。
了
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