2話 料理秘術
女王は結婚相手に決して頭を垂れることはしなかった。
この日、プティシ国の〇家に嫁いだ女王を迎える祝いの場が開かれた。
女王の故郷であるタリアナ国から連れてきたお抱えの職人たちに腕を振るわせ豪華な食事は自らの懐と権力を示した。
〇家は心をすっかり奪われ積極的に食事会を開いた。
「我が妻、採食の女王デザートよ今宵も素晴らしい食事であった」
「それはそうでしょうとも。カップ様は幸せ者ですわ」
女王は夫の腹を面白そうにつついた。
「でも、本当の食事会の準備はこれ以上ですわよ」
「これ以上の食事があるのかい?」
「ええ、ただし……」
にこりと女王は笑みを浮かべる。
「食事をするのは私達ではありませんことよ」
精霊は甘いものが好きであり持て成せば恩恵を得られる。
女王は愛する主人にそう話した。
「――そのもてなしを私が務めたのです」
フォークを倒した後、二人は休める場所に移動した。そこでプリンちゃんは自身のことをカスタードに話始めた。女王のお抱え料理人だったことを。そして、その料理は精霊をも喜ばすほどの技量であることも。
「プティシ国はタリアナ国から料理秘術を手に入れたということか」
「精霊の恩恵はプティシ国を発展させました。それと同時に私自身は料理人として力を失っていきました」
「なぜ?」
プリンちゃんは首を振った。
「わかりません。ですが、精霊を持て成すことが出来ないとなれば主であるデザート女王の名誉を落とすことになるでしょう。そうなる前に私は国を出ることにしました」
「そのことは女王さまは知っているのかい?」
「はい。『自由にせよ』と」
うつむいた顔から表情は読み取れない。カスタードは話題を変える。
「さっきの不思議な力は凄かったね」
フォークとの闘いの最中にプリンちゃんが生み出した力のことを尋ねた。
「あれは料理人である印ですよ。カスタードさんも自分の印をお持ちでは?」
「こうみえて肉体派なんだ」
おちゃらけるカスタードをプリンちゃんはじっとみつめた。
「たしか庶民の間では印を使用しないと聞いたことがあります」
「し、しょみん……」
カスタードは名答にたどり着いた明るい声を出す子が貴族の一員だと痛感した。
恐らく、いや、本気で悪気ない発言なのだろう。
「なにか?」
「うん。まぁ庶民なのは庶民なんだけど」
「やっぱり!」
両手を合わせて喜ばれ言葉が出ないでいるとプリンちゃんが頭を下げた。
「カスタードくん。お願いがあります」
「え」
「庶民について私に教えてくれませんでしょうか!?」
続く