4. 何者か
時間の止まった空間で、佑はフィアメッタに突きつけられた言葉を受け止めきれずにいた。
恐らく……と思っていた事が、次から次へと現実味を帯びてくる。
明らかに佑達だけでは解決出来ない、出来そうにない。
これだけの人数を集め、脅しの材料にするのか、殺してしまうのか。いずれにせよ穏やかではないことが起きてしまいそうなのだ。
「アラガルド王国に……侵入……? ど、どういうことですか、フィアメッタさん。アーネストは、貴族出身だと」
「ええ、そうです。しかし彼は養子です。ボルドリー子爵家には男子がおらず、遠縁のアーネストを養子に迎え入れたと聞いています。その遠縁というのが何者なのか、知る者はいません」
佑はドキリとして息を詰まらせた。
どこかで聞いた話だ。まるで、自分のことを言われているような――……。
「アーネストは……、本当は何者なんですか。まさか、俺と同じ……」
「可能性がないとは言えません。妙に頭が回るので、未知の知識を持っているのではと思うことがあるのです」
「な、なるほど……。じゃあやっぱりその線で考えた方が良さそうですね……。ちなみにフィアメッタさん、ルミールとかの地の間に穴が空く時、時間のズレ……みたいなものはなかったですよね」
「時間のズレ……?」
フィアメッタが首を傾げているのを見て、佑は安心したように表情を綻ばせた。
「良かった。その心配はなさそう。魔法の文が飛んでくるのも時系列順みたいだったし、俺が竜樹を追いかけたタイミングや、ルミールに到達した順番もめちゃくちゃじゃなかったから、多分大丈夫だと思ってたんですけど、念の為。過去と未来がちぐはぐでないなら、……大丈夫。アーネストには負けませんよ」
自信満々に佑はガッツポーズをして見せた。
「ほ、本当ですか?!」
「ええ。仮にアーネストがかの地の人間だとして、ルミールに来たのは三十年程度前。その頃には存在しなかった技術や知識が俺達にはある。ルミールに関しては素人だけど、味方してくれる人も多そうだし、決してアーネストに劣ることはないと思います」
佑の言葉に、フィアメッタは安心したのだろう。
「やはり、セリーナ王女は素晴らしい。このような方を伴侶に選んだのですから」
静かに頬を緩め、そう零したフィアメッタの目に、薄らと涙が浮かんだ。
「……けど、フィアメッタさん。決して楽観的にはならないでください。問題はここからです。アーネストがどういう動きをしてくるか、全く予想が付かない。精霊祭は明日ですから、とにかく急がなくてはなりませんよね。可能なら今晩中に賛同してくれる仲間を集めて、少しでも早い段階で色々と打ち合わせておいた方が何かと都合が良いんですが……。その打ち合わせ場所や時間が一番の課題で……」
「アーネストの目を掻い潜り、話し合いをするのは難しいと思いますよ。何しろ、彼の仲間はそこかしこに居ます。……が、今の王国のやり方に不満を持っている国が多いのも事実。アーネストの企みを知れば、助けてくれそうな人物はあちこちに居るのですが……」
「フィアメッタさん、どうにか王宮の部屋を一つお借りすることって、出来ないですか?」
下を向いていた佑が視線を上げたところで、フィアメッタは困ったように眉をひそめた。
「ですから、アーネストの目を掻い潜るのは難しいと先ほどから」
「――それなら心配ありません。全く別の目的で集まって貰いますから」
「別の目的?」
「丁度今しがたライオネルが、エクシアの皆さんに国際的な教育機関の設立について提案していたところなんです。大陸全土から、優秀な人材を育成する施設を作ってはどうかって。貴族階級のみならず、広く平民からも優秀な人材を集めて教育し、ルミール全体の文化レベルを押し上げようって話です。貴族ばかりに政治を許してきたからこそ、汚職や財政悪化が問題になるまで放置されてきたんですよね。それが喫緊の課題だと……、そこまで言わなくても、賢明な皆さんならお分かり頂けるでしょうし。身分の優劣だけで真に優秀な人材の活用を怠っていたとしたら、それこそ国益の重大な損失になりますからね。教育は、何にも勝る財産になる。その辺を話し合うという名目で集まるなら、アーネストは文句を言えない。これなら堂々と集まれますよね?」
自信満々に語る佑に、フィアメッタはかなり驚いていた。
頼りなさげに侯爵を演じていて、大胆にこんなことをするような人間には見えなかったとでも言わんばかりに。
「……そ、そうですね、分かりました。けれどこの時期、王宮内は殆ど精霊祭の準備等々で部屋も埋まってしまっています。離宮なら……。けれどそのためには、ジョセフにも事情を話しておかなければなりませんよ」
「勿論です。なるべく多くの国の人に集まって貰って、早いうちに根回ししておかないと、回避出来る危険も回避出来なくなる。それだけは避けたいですから」
「それからもう一つ。様々な国の方が絡む場に、アラガルド王国の人間が居ないのはあまりにも不自然では? それこそアーネストが黙っていません」
「分かってます。……けれど、精霊祭だからこそ、アーネスト抜きで話を進められると思うんです。まさか責任者自ら、精霊祭を放棄して話し合いに参加する訳にはいかないでしょうから。そういうことも全部加味して、アラガルド王国側からは是非ジョセフに、話し合いに参加して貰いたいと思っています。打ち合わせの場所が離宮なら、ジョセフが参加しても何ら不自然じゃないですよね。このあと、俺の方からジョセフにそれと無しに話を振ります。――ジョセフが参加するということは、介助役としてフィアメッタさん、あなたをも巻き込むことになります。面倒ごとでご迷惑でしょうけど、この国のために、ひいてはルミールのために。どうか了承して頂けますか……?」




