表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の世界を巡る旅  作者: 天崎 剣
【13】結託

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/130

3. 企み

 美しい花々で彩られたメインテーブルの右端の席には、漆黒の髪とドレス、そして一見冷たそうではあるが凛とした印象の魔女がいた。

 魔女とは年齢不詳な生き物らしく、見た目には三十前後の妖艶な女性ではあるが、リディアと修行時代を共にしたということは、やはり三〇〇歳前後なのだろう。

 上から下まで真っ黒で、メイクも薄め、口紅も紫系だが、目元にだけしっかりと赤い色が入っている。

 本当に息を呑むような美しさだ。

 確か“漆黒の魔女フィアメッタ”と呼ばれていた。

 順番待ちの列が進み、フィアメッタの真ん前に来る。

 緊張した面持ちでやってきた佑を、フィアメッタは柔和な笑みで迎え入れた。


「は……、初めまして。ガリム公国大公ライオネルの補佐をしております、侯爵のタスク・ソルザックと申します。お会い出来て光栄です」


 偽りの経歴をどうにか言い終わり、ふと顔を上げたところで――世界が暗転した。

 時が止まり、自分とフィアメッタだけが動いている。

 動ける二人以外のものは皆色を失い、モノクロの世界の中に佑とフィアメッタが浮いているようにさえ見えた。


「えっ! な、なんだこれ!!」


 慌てふためく佑を前に、フィアメッタは静かに笑う。


「――驚かないで。どうしてもあなたと話をしなくてはと二人だけの時間を作りました。私はフィアメッタ。タスク……でしたね。今しがた、リディアにも同じように話を聞きました」

「り、リディアさんにも?!」


 リディアを見ると、止まったまま視線はフィアメッタの方にある。手前の竜樹はソワソワとリアムの方を見ていて、一瞬目が合い、佑はわわっと仰け反った。


「そ、そうか。フィアメッタさんはリディアさんの若い頃を知ってるから」

「セリーナ王女はリディアの言いつけを守り、あなたと幸せに暮らしていたのですね。とても良さそうな人で良かった」


 漆黒の、などと呼ばれている割に、確かにフィアメッタは柔らかそうな魔女だ。眼差しも、声も、物腰にもトゲがない。


「リディアさんの……言いつけ、ですか」

「かの地に逃したところで、少女が一人で生きるのは難しい。だから遠慮せずに、信頼出来る人間を頼りなさいと。いずれルミールに通じる穴が開いたらかの地から戻れるかも知れない。何年後かは分からない。それまで生きることを諦めないように、愛する者と共に生きなさいと。セリーナ王女はあなたを探し当てた。王女の見立ては間違ってはいなかった。こうして、王女亡きあとも、彼女を想い、ルミールにまでやって来てくれたのですから。王子も……、リュウもセリーナ王女によく似ています。優しく強い少年に育ったとリディアに聞き、安心しました」

「リディアさんが……、そんなことを……」


 ルミールに来てから一度だって、リディアにそんな話をされたことはなかった。

 迷い込んだばかりのあの日、何故リディアは涙を流していたのか――種明かしのように知らされ、佑は胸を詰まらせた。


「この国を……、アラガルド王国を愛してくれて本当に嬉しく思います。宰相アーネストが王国の実権を握り、何もかもほしいままにして、一体何年経ったでしょう。三十年近く経ったでしょうか……。失意のうちに亡くなったアレック王に、私は何度も詫びました。リディアならば救えたかも知れない、私の力が及ばず申し訳ないと。王位を追われたジョセフと共に、私はどうにかしてリアム王を支えようと誓いました。そして同時に、あの狡猾な宰相の企みを未然に防ぐ方法を考え続けました。私達の意思は伝わっていた。だからこそ、リュウ王子はここへ辿り着いたのでしょう」


 フィアメッタは竜樹をリュウ王子と――継承権などないのに、それほどまでに想いを募らせて来たのではないかと思うと、佑の胸は熱くなった。


「宰相の……企みというのは、フィアメッタさんはご存知なんですか……?」


 佑の問に、フィアメッタはこくりと頷く。


「宰相の地位では飽き足らず、アーネストは国を丸ごと乗っ取ろうとしています。――それだけではありません」


 フィアメッタの顔が険しくなる。


「精霊石の力を利用し、力で世界を支配しようと考えているらしいのです。……本人はハッキリと口では言いませんけどね。魔法使いトビアスに命じて、次から次に事を起こしてきたのですから、間違いありません。宰相アーネストは不必要な傭兵を世界中から集め、高い城壁を築き、金と権力を全て自分の物にしようとしているようです。高い給金で雇った傭兵達は、何かあれば宰相に味方するよう根回しされていると聞きます。私達が内部から何か起こそうとしても、吊し上げられるだけで、何も出来ないのが現実です」


 やはりと言うべきか。

 佑が恐れていた事が、実際に起きようとしている。


「クーデターを……起こそうとしてるんですね」

「クー……なんですか?」

「武力による政権奪取ですよ。――あれ? じゃあやっぱり、マズいんじゃないですか」

「マズいと言うと……?」

「クーデターを起こそうとしてる人間が、各国要人を多く招待した精霊祭の裏方してて……、精霊石の力を利用して……。お披露目の日、大勢の賓客……。アーネストの目的って、単なる国力の提示とか、祭りの成功じゃなくて……」


 考えを巡らし、最悪のシナリオを思い浮かべる佑の喉は、カラッカラに乾いていた。

 そんなこと、あっていいはずはない。

 人の良さそうな顔はしていたが、狡猾だと誰もが眉を顰める本当の理由が見えてきた時、佑は意識が一瞬、どこか遠くへ飛んで行ってしまったのかと錯覚した。


「タスクも気が付きましたね……? そうです、物事はそんなに単純ではなかったのです。アーネストはこの日のために、全てを捧げて来たと言ってもいい」


 フィアメッタは目を細め、語気を強くした。


「宰相アーネストは明日、精霊祭の儀式に乗じてリアム王の命と精霊石を狙うはずです。参列した各国の要人全てを証人にして、新たな王として自らを認めさせる可能性があります」

「けどそんな事、認められるはずが……」

「それだけではありません。最悪、要人達は人質です。いや、殺されるかも知れない。あの男は、この世界(ルミール)全てを我が物にすべく、精霊石に庇護されたこのアラガルド王国に侵入してきたのですから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ