1. 鉱石と金属加工
百を優に超える客席に運ばれてくる数々の料理。手を一切抜かない、妥協しない姿勢が見て取れる程に、一つ一つが洗練されていて、味わい深かった。ペンデの宿星降り亭の晩餐も豪勢だったが、流石王宮料理人の仕事とあって、一皿一皿がまるで芸術品のような美しさを備えていた。
アラガルドの料理の特徴とも言うべき香草の使い方も、星降り亭のそれより更にふんだんで、組み合わせの仕方が違うのか、味の深みが一段と素晴らしい。
「岩塩と胡椒の使い方が一流ですね。流石はアラガルド王国、良いものを使ってる」
エドウィンがニコニコしながら言うのを、佑も頷きながら聞いていた。
沿岸部に多い天日塩ではなく、山麓で採集される色とりどりの岩塩を砕いたものを使用しているそうだ。まろやかさや旨味が強く、見た目も鮮やかで、単なるサラダがそれだけで存分に楽しめた。
「王国では確か、かなりの種類の鉱物が採れるんですよね。山脈でグルッと囲まれてますし、宝石の原石は勿論、工業製品に加工出来そうな鉱物も……」
佑が何の気なしに聞くと、ライオネルがサッと口元を拭いて、「そう、かなりの種類なんだ」と教えてくれた。
「大陸を分断する山脈には、相当な量の鉱石が眠っているらしい。タスクの言うとおり、様々な種類の石がある。だからこそ、王国は栄えた」
「その中には、まだルミールでは利用、加工するのが難しい鉱石も多いんじゃないんですか?」
「――と言うと?」
エドウィンが身を乗り出して聞いてくる。
「そうですね……。宝石として加工されたり、武器や防具に加工されたりするような石が殆どだとは思いますが、中には有毒物質を含んでいたり、或いはそれそのものが触れるだけで危険だったりと、様々な鉱物が存在するんですよ。技術が進めば、そうした鉱物にも利用価値が出てきたりします。含まれている物質を集めて別の物資の生成に利用したり、特定の物質を抽出して薬品として使用したり、様々です。けど、そこに追いつくにはまだもうちょっと技術の発展が必要ではないかなと感じています。それに、綺麗であるからと言って、過去には化粧品や薬として使用されてきた鉱石が実は大変危険なものだった、という話もよく聞きます。健康被害が出てから、原因を追及すると実はそれで、何も知らない鉱夫が犠牲になっていた……なんて話も聞いたことがあります。特に鉱夫なんて立場が弱い出稼ぎ労働者が多いでしょうから、たとえ健康被害があっても申し出しにくいのが現実だと思います。――と、まぁこれは、どの世界でも言えることだと思いますから割愛しまして、金属加工に関しては、ガリム公国よりももしかして、エクシアの方が少し進んでいたりしませんか?」
それとなしに関係ありそうななさそうな話題を挟みつつ、佑はエドウィンやエクシア王に話を振った。
「それはどういう意味だ。我が国の金属加工の技術が未熟だと?」
ライオネルは少しカチンときているらしいが、佑は「そうではなく」と軽く返した。
「だいぶ細かい装飾のアクセサリーをお召しなので。道具が良いのか、技術が優れているのか、と思ったんです。エクシアは海に囲まれていて、交易も盛ん、ということですから、海外から優秀な技術者が入ってきていてもおかしくないんじゃないかと」
「流石はタスク殿、お目が高い。実は近年、東の大陸から装飾具の職人を招き入れ、国を挙げて技術向上に取り組んでいるところなのです。やはり、細かい仕事は東の大陸の方が進んでいます。道具も繊細で、強度もある。金属加工の方法も少し違うようで、勉強になっていると職人達が話していました」
「そうですか。外からの知識は新鮮ですし、それを受け入れようとするエクシアの姿勢は素晴らしいですね」
ルミールの文明、技術レベルは多く見積もっても産業革命以前のもの。まだ蒸気機関も電気も発明されていないため、大きな機械や道具を作るのは難しい。東の大陸にはそこまで行かなくても、細かい金属を上手に加工出来る技術がある、ということなのだろうか。
「そういえばエクシアは議会制を取り入れて、民間人登用も進んでいると聞きました。先進的な取り組みですよね。大公殿下も関心が高いとおっしゃっていたので、その辺のお話も伺えますか」
たくさん褒めれば、普段外に出さないような情報も出してくれるに違いない。
下心丸出しで聞いてみると、エドウィンはニコニコとご機嫌良さそうに答えてくれた。
「ライオネル殿下が民間人登用などと。面白いことになってきましたね。ええ、そうです。エクシアでは民間人も政治や行政の場に登用しようという動きが強まっていまして。貴族ばかりに任せていては、利権争いや妙なしがらみがあって、せっかくの有用な意見も通りにくい現実がありますからね。それこそ東の大陸からやって来た職人に話を聞いたのです。向こうではどうやら身分の上下なく試験が行われ、優秀な成績を収めたものが職務に就くのだと。確かにそうやって優秀な人材を集めていく方法なら、埋もれている人材を多く集められます。貧富の差なく、平等に試験というもので選別するとは、なかなか面白い試みであると思われましたので、一部で取り入れてみました。結果は面白いものでした。貴族階級に任せていたときに比べ、財政がまず改善しました。効率的に働くということがどれほど大切か、貴族とは違う目線での、物事を見極める力というものの必要性も浮き彫りになりました。ガリム公国でもそうした取り組みをしたい、ということであれば、幾らでも助言させて頂きますよ。ライオネル大公殿下もとうとう、世の中の仕組みを変えていこうという気持ちになってきたと言うことですね」
他国とはいえ、貴族階級だけの支配が続くルミールの政治体制に不安と不満を持っている貴族もいるのだと知れたことは、佑にとってかなりの収穫だった。
ちょっといけ好かないところはあるが、このエドウィンという男は、案外こちら側なのではないかと思う。
念のため、追加の質問をする。
「エドウィン様は先進的な考えをなさっているようですね。エクシア王もそれに賛同なさっている。他国にもそうした考えは広まってきているのでしょうか」
「どうでしょう……。陛下はご存じでしょうか。エクシアはだいぶ乱暴に事を進めていると揶揄する人間も多いという噂を私は耳にしましたが……」
エドウィンは口を濁す。
が、エクシア王は口角を上げ、いいやと首を振った。
「そうでもない。ここ数年は、だいぶ我が国の動きに賛同する国が増えてきた。王政だけでは限界がある。国力を上げていくためには、広く国民全体の力を必要とする時代が近付いている。そうして世界全体が発展していくことが、これからの時代必要になってくるのではあるまいか。のぅ、ソルザック侯爵殿」
意味ありげに微笑むエクシア王に、佑も「そう思います」と微笑み返した。




