7. 付け焼き刃
「どうしてロザリーに似たご令息がもう一人居るのだろうと思って見ていたんです。なるほど……、貴殿の……。これはつまり、どういう事でしょう」
鋭過ぎるエドウィンの指摘に、佑は言葉を詰まらせた。
確かに竜樹は佑より紗良に似ている。髪の毛の色も、目の色も、顔立ちも。佑にも勿論似てはいるが、紗良のことを知っていれば、紗良に似ていると誰もが思う程に特徴を引き継いでいる。
ルミールの社交界には当然、紗良――セリーナ王女の若かりし頃を知る者は多いだろう。想定内ではあるのだが、ダメージはやはり大きい。
「いとこ……? エドウィン様、おかしな話ではありませんか。ロザリー妃のごきょうだいに、他に既婚者はありません。前王であらせられるジョセフ様も、現王リアム陛下も、未婚でございましょう……? エドウィン様は一体、何の話をしてらっしゃるのでしょう」
リディアもまた、エドウィンに不敵な笑みを送っている。
二人の視線がまるで火花を放つようにぶつかり合うなか、佑はただヒヤヒヤとして、その場に居た心地がしなかった。
「確かに……? そう仰られてはぐうの音も出ません。今のことは――どうかスッパリ忘れてください」
手のひらを返したように、エドウィンは声を明るくして笑顔を作った。
目は笑っていない。
鋭い視線で佑とリディアを牽制しているようにも見える。
「お気になさらず。こうして慣れない場所で緊張しきりの私にお声をかけてくださり、ありがとうございます」
「タスク殿、今夜は大いに楽しみましょう」
にこやかに、だが不穏な空気を残して去っていくエドウィンの背中を、佑もリディアも苦々しく見つめるしかない。
「……バレましたよね」
「演技が下手くそ過ぎる」
項垂れる佑と、呆れ返るリディア。
エドウィンはまた、別の男に声をかけ、談笑しているようだ。
「分かる奴には分かる。仕方ない。タスクの芝居が残念なことも良く分かった。期待した私が愚かだった」
「す……すみません。必死に繕ってたんですけど、付け焼き刃はバレますね」
「付け……なんだって?」
「付け焼き刃、です。日本刀……、かの地の俺の住んでる国の伝統的な武器ですけど、切れ味が悪くなったときに、鋼の焼き刃を付け足して補修する方法があるんです。全く別のところからその場しのぎに持ってくる鋼ですから、一見綺麗に修復出来たように見えて、剥がれ易いそうで。結局直ぐに壊れてしまうんです。まぁ、根本的な解決方法じゃない、その時さえ良ければ良いってアレです。要するに、今の俺が、それなんです」
「……なるほど。私はそれでもいいがな」
リディアはフッと小さく笑う。
「明日の精霊祭で全てを終わらせられるなら、その刃で相手を倒せるなら……、本物かどうかなんてどうでもいいことだと思うがな。最後まで、お前達の心が私と共にあるならば、それだけで」
自暴自棄とも思えるリディアの発言に、悪寒が走った。
佑はリディアの本当の心の内を未だ知らないのかも知れない。全部話してくれているようで、そうでもない。信用しているようで、されていないようで。
だがそれが、裏切りと絶望の淵にいた過去から来るものだということも分かっている。
誰だって、裏切られたくない。
いつまでも、日常が続くように願っている。
本当は、壊す側にも壊される側にも立ちたくないのに、どうしてもそうしなければならない時があることも、佑には分かっていた。
特にこのアラガルド王国においての日常――宰相アーネストと魔法使いトビアスの悪政に関しては、貴族達にとって都合の良いものだから続いてきたわけで、それを壊そうとする、つまり王の権威を復活させることは、彼らにとっては不都合で、受け入れがたいものになるはずなのだ。
「そろそろお席にお着きくださいませ」
給仕の男性が声を掛けて回っている。
佑とリディアも各々の席に着く。
幅広の長テーブルの上は、美しい花々で彩られていた。等間隔に置かれた蝋燭の明かりが柔らかく食卓を照らしている。
席次にも気を配っていたという手紙の文面通り、なるべく友好関係にある国同士を同じテーブルに配置しているのだそうだ。
一つのテーブルに十席程度、それが十数脚。
「凄い人数ですね」
次々に席に着く高貴な人達を目に、佑は目を丸くした。
「ソルザック侯爵の博識を世に知らしめる良い機会ではないか」
同じテーブルの向かい側で、ライオネルは暢気に言うのだが、佑は気が気ではなかった。
現王リアムの異母姉ロザリーの嫁ぎ先ガリム公国は、当然のようにメインテーブルのすぐ前のテーブルだった。王家の方々が会場に入るのはこれかららしく、席は空だ。
テーブルのあちこちに小さな席次表が置いてあったが、佑はルミールの文字が読めない。案内された席でソワソワしていると、不意に声を掛けられた。
「タスク殿、席、ご一緒でしたね」
黒髪のエドウィンがニッコリと不敵な笑みを浮かべながら、はす向かいの席に腰を下ろした。
「え? あ、……そうですね」
「なんだタスク、もうエドウィンと挨拶を交わしていたのか?」
ライオネルが何の気なしに声を掛けてくるが、佑は気が気ではなかった。
「た、偶々声を掛けて頂いて。ルイーズ妃の……ご実家の、という話は伺いました」
「ライオネル殿下が欲しがる人材とはどんなものか、興味深く声を掛けさせて頂いた次第です」
「殿下などと。普段は敬意など払わない癖に、人前に出ると急に貴族面をするんだ、エドウィンは。悪いヤツではない。ちょっと疑り深いというか、まぁ、面倒ではあるが……」
腹を探り合うようなライオネルとエドウィンの会話に、佑は生きた心地がしなかった。




