表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の世界を巡る旅  作者: 天崎 剣
【12】前夜祭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/130

3. 抑止力

 決して勉強が得意な方ではなかったが、どうにか頭に周辺国の地名、関係者、特産物や歴史の概略は叩き込んだ。

 思ったよりも国際情勢は不安定で、大きな戦争をしていないのが不思議なくらいに均衡を保っているのは、やはり精霊石の存在が大きいのだろうと、佑は改めて感じ取った。

 強大な力を持つという石がアラガルド王国にあることで、各国は牽制し合って王国には手出ししない。たとえ今、宰相アーネストの悪政が原因で民衆が生活に困窮していても、何のためか傭兵を大量に雇ったり、或いは昔逃亡して行方知れずになった王女と魔女を探すのに世界中に兵士を派遣しても、見て見ぬ振りをしてしまうのだ。


「核抑止力と構図は一緒だよ。結局、もしもの被害を考えれば逆らわない方がいい、敵同士にならない方がいい。そういう駆け引きが見えないところで成立しているから、平和に見えているってだけ。本当はどの国も、今のアラガルド王国のあり方には賛同してない」


 スマホで撮影したルミールの地図を見ながら、佑は打ち合わせに戻ってきた竜樹に説明した。

 竜樹も佑のスマホを覗き込みながら、なるほどと相づちを打った。


「貴族達の根回しなんかもありそうだよね。どう考えても……、ここの街は変だし、このままの方が都合が良いって国も多くあるのかも知れない」

「正義はあくまで主観に寄るからな。強い者の正義が、大抵その時代や地域の正義になる。……余所から見たら明らかにおかしくったって、その人達が正義だと思えば正義なんだよ」


 だから戦争が起きる。――と、佑はそこまで言いそうになって、口を閉じた。

 自分達のやろうとしていることだって、別の角度から見たらテロにしか思えないはずだ。

 国家転覆を謀って……、そういう罪状を叩きつけられる可能性は大いにある。


「俺の方も、父さんのスマホで撮影した動画と合わせて編集し終わったんだ。見て。一階の騎兵さん達にも見てもらったけど、結構良い映り」


 午前中、騎兵達が外へ出て撮影してくれた動画には、思いの外様々なものが映っていた。

 シナリオもない、どんなものが映るかも分からない状態でカメラを回し――、演技ではない、素の表情や景色がたくさん撮れたのだ。


「元々はもっと清潔で美しい街だったんだろうな。だいぶ、老朽化が目立つ」


 剥げ落ちた壁や、朽ちたひさしもそのまま。屋根の煉瓦も、道に敷かれた石畳も傷んでいる。幾らその場を繕っても、こういうところまで手が行き届いていない時点で、この街はだいぶ廃れているのだと感じてしまう。


「竜樹、俺のスマホにもデータ飛ばして。あとは……、それぞれ味方になってくれそうな人物を探さないとな。それが一番難しそうだけど」

「今日の晩餐会は、そのために行くものだと思ってる。問題は、正体がバレないようにしなくちゃならないところだけど。父さんは……大丈夫?」


 竜樹に心配され、佑はハハッと軽く笑った。


「まぁ、知らない人と喋るのは慣れてるから。それに、覚えなきゃいけないことも、大体覚えた」

「流石は銀行員。伊達に接客業してないね」

「それしか出来ないからやってるだけだよ。俺は大学も出てないし、FPとか証券外務員とか資格持ってたところで、他の仕事が出来るわけでもないし。……ほら、異世界に来たら自分が持ってるスキルでどうの、ああいうの憧れだったけど、何にも出来ないから。笑えるだろ」


 冗談交じりに佑が言うと、竜樹は意外そうな顔をした。


「……父さんでもそんなこと、考えるんだ」

「考えるよ。もの凄い料理のスキルがあったら、きっとリディアさんにも美味しいものをたくさん振る舞えただろうし、仮に医者や薬剤師で、医学知識に長けていたら、ジョセフの目を治してあげられたかも知れない。……でも俺はただの銀行員なんだよ。金を数えたり、資産運用の手伝い、相続の相談に乗れるのは、あそこが日本で、そういう知識を欲しがってる人達がたくさん居たから。ルミールは経済レベルも未だ低いし、そもそも貨幣経済が行き届いてない可能性もある。今を生きてくのが必死な人達に、教育の必要性を説くのも難しい。身分制度よりも実力主義になって欲しいって気持ちがあっても、王政が主流の世界じゃ意味不明だろうし。非力だよ。知識だけがあっても、それを実行するだけの力も手立てもない。あそこでエリックを救えないと判断したのは、俺が非力だって知ってたから。一介の銀行員にも出来るのは、現状を確実に装飾なく伝えること。あくまでも淡々と事実を突きつけて、如何にヤバい状態か、リアム王に分かって貰うことくらいだ」


 スマホを両手で握り締め、佑はふぅと息を吐いた。


「そうかな。父さん、自分が思ってるよりも案外……」


 竜樹はそこまで言って、口を閉じた。

 佑は聞こえなかったのか、気付かなかったのか、何の反応もしなかった。


「昼過ぎに出発だったな。気合い、入れないと」


 すっかり片付いた部屋の中で、佑は自分を鼓舞するように、力強く言い放った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ