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君の世界を巡る旅  作者: 天崎 剣
【12】前夜祭

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2. 耐えるしか

 午前中、騎兵達は護衛ルートの確認名目で城壁内を巡回した。

 ペンデの衛兵による警備の状況や安全面を特に重点的に確認するようにと、ガリム公国大公ライオネルから直々の命があったのだ。

 例年も同じように巡回するが、今年は普段より来賓の数も多いため、大公はより神経を尖らせているのだと騎兵達は口々に言って回った。

 これにはペンデの衛兵達が渋い顔をしていたのだが、要人が多く来訪する精霊祭の直前、しかも同盟国の騎兵による巡回とあって、あまり横柄な態度も取れなかったらしい。お陰で、何か潜んでいると思われる場所、要人護送に相応しくない場所なども確認出来たと、騎兵隊長のジュードは満足気だった。


「やはり、巡回は正解でした。昨年より随分治安が悪くなっている」


 ほほうと、報告を聞いたライオネルは椅子の上で頬を綻ばせた。

 星降り亭の二階では、前夜祭へと出発する準備が着々と進んでいる。使用人らが王都へ運ぶ荷物を纏めたり、衣装の最終点検をしていたりと慌ただしい。


「侯爵様が何をお考えかはさておき、改めて王国の現状を知る良いきっかけとなりました。……あんなに傭兵がいるのを、まず見たことがありません。これは確かに、戦争でも始まるんじゃないかと、噂になるのが良く分かります」

「昨晩も、タイロンとビクターがそのような話をしていた。祭りの出店の多くが武器防具とは笑えないな」

「……ええ、全くです。それに、浮浪児が多かったのも気になります」

「浮浪児?」


 ライオネルは顔を上げ、眉をひそめた。


「ええ。残飯を分け合っているのを、至る所で見ました。修道院も満杯らしいですよ。あぶれた子ども達が市中のあちこちに隠れているようです。ここの大人達には、施しをする余裕はないようですからね……。盗みを働いたり、脅し取ったり……、どうにか生きようとしているのでしょう。衛兵にやられたのか、傷のある子どもも多かったです。あれは、侯爵様でなくても、見ていられません」


 年配のジュードに、子ども達の様子は痛ましく映ったようだ。思い出しながら顔を顰め、深くため息をついていた。


「それから、別の部下達の話では、物価が高過ぎるようだとも。テッセで銅貨五枚のものが、八枚払わないと手に入らない。市民向けに販売されているものはどれもこれも質があまり良くない印象でした。旅行客や貴族向けの店には、かなり高価で質の良いものが溢れるほど置いてあるのに……。内と外で使い分けているのでしょう。ペンデから出て行く品々は高い関税と引き換えに、確かに良質なものばかりです。安く粗悪な品を、市民に高値で売り付けて、差額で懐を潤している人間が間違いなく存在しているでしょうね」


 淡々と話しながらも、ジュードは始終顔を強ばらせていた。

 他国の事ながら、歯痒くて堪らない。それはライオネルも同じだった。


「アーネストの息がかかっていない人間にしか、この酷さは伝わらないだろうな。貴族連中の殆どは、己の懐と立場に危険が及ばねば何だって良いのだから。まともな人間を探すのは……、難しそうだな……」

「ええ、全くです。殿下、どうにか人道支援という名目でペンデに介入出来ませんか。このまま見過ごすのは、あまりにも心苦しいではありませんか」

「……それが出来たら、こんなに頭を抱えたりしない」


 ロザリーは別室で支度中、息子達は竜樹と一緒に、一階で騎兵らと戯れている。佑は部屋の隅で懸命に周辺国の情報を頭に叩き込んでいる。

 ジュードの他に誰も見ていないのをいいことに、ライオネルは情けない姿を晒していた。


「こんなに傭兵がいる状態では、何も出来ん……。しかも周囲は城壁で囲われている。見て見ぬふりをするしか、ここから無事に出る方法はない」

「殿下……!!」

「みすみす自国の優秀な騎兵を危険に晒すほど、私は愚かではない。私情に振り回され王国の怒りを買えば、我が国は滅びるだろう。今は耐えろ、ジュード」

「しかし、あのままでは」

「ジュード、私は彼らを見捨てろとは言っていない。今は耐えろと言ったのだ。……耐えるしかないのだ」


 ジュードは拳をギュッと握り、ギリギリと奥歯を噛み締めた。

 かつてのペンデを――、ジュードは思い出していた。城壁都市となる前の、貧しかったが、美しい花と緑に囲まれていた街。アラガルド王国の玄関口として相応しいと、訪れる度に幸せを感じたものだ。


「……それにしても、侯爵様はよく一瞬でペンデの内情を見抜きましたね。閣下、彼は一体、何者ですか」


 突然妙なことを言い始めるジュードに、ライオネルはフッと笑いを零した。


「あれは、苦労人だ」


 窓際に椅子を寄せ、スマホをじっと見つめてブツブツと独りごちる佑に目をやる。

 絶対にしくじるまいという緊張感で、ライオネル達の視線には気付いていないようだ。


「幼少の頃から随分苦労したと聞く。……真面目で賢い。人の心の痛みも知っている。タスクを見ていると、貴族だの王族だの、身分の高い者ばかりが持て囃され、権力を持つことの無意味さを思い知らされる。平民にも素晴らしい人材は多くいる。タスクもかの地では、勤め人をしている平民らしい。上からではなく、国民の目線で政治をするべきだと、ペンデの話を聞いて思い知らされた。ルミールは変わらなければならない。腐った政治をほったらかしにしていれば、国はどんどん衰えていく。誰のための国か、そこにあるのは何かよく考えろというのは、何もアーネストだけに向けられるべき言葉ではない。私とて……、そういう気持ちで政治を行わなければ、国民は失望してしまうだろう」

「なるほど、侯爵様に刺激を受けたと」


 感心したように、ジュードは小さく頷いた。


「ジュード、お前も同じだろう。あれは……、結構な人たらしだ」

「同感です」


 ライオネルがチラリと見上げると、ジュートはニコニコしながら窓際の佑を見守っていた。

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