5. 呪い
導き出したのは、明示された答えではなかった。
それでも、事態打開の好機であることには違いない。
リディアは打倒アーネストの道筋に差した光明に打ち震えていた。
一方で佑は――、自身の知らないところで、紗良や竜樹がずっとルミールと繋がっていたことに、ほんの少しの引っ掛かりと、大きな安堵を覚えていた。
「魔女フィアメッタが送ってくれた手紙で、紗良はちゃんと家族のことを知れていたわけですね……。良かった……」
「え……っ?! ショックじゃないの……?」
ホッと息をつく佑を見て、竜樹は目を丸くした。
「ショックって?」
「だ……、だって母さんはずっと、父さんに隠し事をしてたんだよ? 知らないところでコソコソしてたの、きっと嫌な気分だろうなって……」
「何言ってんだ、竜樹。そんなの、どうだっていいんだよ。紗良は優しかった。だから言わなかった。俺に言う訳にはいかなかった。何度も悩んだと思う。そして、言わないと決めたんだろう。……竜樹が話し相手になってくれていて、良かった。紗良はそれだけで救われたんだと思う」
「……つくづく、お前って男は」
呆れたようなリディアの溜め息。
「まぁ、タスクは実際そういうヤツだよ。――そういえば、リュウ。トビアスがセリーナに刺客を放っていた……というのは? 簡単に二つの世界は繋がらない。魔法の文程度ならば、どうにか届けることは出来たのだろうが、刺客となると話は別だ。どんな刺客だったのか……、セリーナはどうやって撃退していたのか、リュウは知っているのか?」
リディアはグイッと身体を前のめりにして、竜樹に尋ねた。
何故紗良が命を落としたのか――、そこに繋がる大事な情報だ。
皆一様に固唾を飲み、竜樹の次のひと言を待った。
「人間では……ないようでした」
竜樹は噛み締めるように、ゆっくりとそう零した。
「人間では……ない?」
リディアの言葉に、竜樹はこくりと頷いた。
「詳しくは……、分かりません。何年か前に一度だけ、母さんが精霊の魔法でそれをやっつけてる所を間近で見たんです。精霊に命じて炎と稲妻で焼き切ったのに、死体どころか、跡形もなく消えてしまって……。母さんに聞いたら、『呪い』だって……」
「呪い……? リディアさんがトランクに掛けてるのと同じ……」
竜樹の話を聞いて、リディアは酷く渋い顔をしていた。
佑の問いにも、眉間にシワを刻んだまま、唸りながら頷いている。
「フィアメッタの使った魔法の文の応用かも知れん。宛先に辿り着いた時に、宛名の人物を襲うよう呪いを掛ける。呪いってのは、術者の命令を遂行する仕組みみたいなものだ。形を持っておらず、その時々に必要な形に姿を変えて命令を実行する。――例えば、私のトランクに掛けられた呪いもそれ。こじ開けようとしたものを襲うように仕組んである。庭の香草泥棒に仕掛けた呪いも同じ。……確かにその方法なら、極端な魔力も使わず、私のように禁忌を侵すことも無く、セリーナを襲えたはず……」
「じゃあトビアスは、紗良がかの地に逃れていることを知っている可能性が?」
「だろうな。リュウ、トビアスからの刺客がどのくらいの頻度で現れていたか、日記には何か書かれていなかったか?」
「あ、それなら……」
竜樹はハッと何かを思い出したように、上着のポケットを漁り始めた。
「タスクとお揃いの魔具!」
スキアがピンと耳を立てて叫ぶと、竜樹はハハハと笑って、「魔具じゃない、スマホだよ」と、画面を操作し始めた。
スマホに馴染みの無いはずのライオネルとロザリーが反応していないところを見ると、どうやら既に竜樹が何かを見せていたのではないかということも、容易に想像がつく。
竜樹はメモアプリを立ち上げ、言いづらそうに話し始めた。
「最初は……、かの地に迷い込んでしばらくの間は何も無くて……、一年くらい経ってから、小動物くらいの使い魔みたいな刺客が現れたらしくて。直ぐに魔法で撃退して、事なきを得たんだけど、日記には『見つかったかも知れない』って。それからずっと、『気が気じゃなかった』って書いてあった」
「そ、そんな前から?!」
驚いて声を上げる佑を尻目に、竜樹は更に話を続ける。
「それからずっと音沙汰もなくて安心してたらしいんだけど……、一昨年の暮れくらいから、今度は中型動物くらいのヤツが現れるようになって……。それもかなり頻繁に。十二月、二月、三月は一回ずつ……。四月は三回……、五月には五回……、六月に入ると三日にいっぺん。母さんが死んだ七月は……、ほぼ……毎日…………」
「毎日……?!」
今度はリディアが声を上げた。
わなわなと震える身体を必死に理性で押さえ付けるようにして、ゆっくり立ち上がると、長く、深いため息の後に、怒りを吐き出した。
「ちょっと待て……。何だ……その頻度は……。明らかに……、明らかにセリーナを殺す気で……!!」
「落ち着いてください、先生」
ロザリーが宥めても、リディアから噴き出す怒りは止まらない。
「王女は……、セリーナは、攻撃魔法を使いたがらなかった……!! 自分の身を守るためにも覚えておくようにと何度も諭して、それでも頑なに首を横に振るようなあの子が……!! 何故そこまで追い詰められねばならんのだ…………!!!!」
見たことの無い顔。
憎悪と怒りに満ち、ギラギラと目を光らせ、リディアは今にも誰かを傷付けてしまいそうなほど、苛立っていた。




