4. 手紙の意図
魔法の文――。
そんなものが、佑の知らないところでアラガルドから届けられていた。
全く思いもよらない展開だが、一方で、頼もしい味方が内部に潜んでいるという確信も持てた。
リディアは特に嬉しそうに、頬を綻ばせている。
「流石はフィアメッタ……!! 正義感の強さ、冷静さ、思考の速さ、どれをとっても私に引けを取らない、最高の人選ではないか! あぁ、トビアスが真相を知り、絶望する瞬間が見たい!! アーネストが全てを失う瞬間が見たい……!!」
「リディア先生、心の声がダダ漏れですわよ」
いたずらっぽくロザリーが言うと、リディアは益々上機嫌になった。
「いいではないか。ここ二十年で一番胸が踊ったわ。――いい情報だ。ライオネル、フィアメッタには公国から接触は出来んのか?」
「そう仰ると思っていました」
ライオネルは身を乗り出して、リディアの言葉に笑顔で応えた。
「無理です」
ガクンと、テーブルの角からリディアの肘が落ちる。
「む、無理?! 大公の権限でどうにかならんのか!!」
「残念ながら、無理ですね。相手はアラガルド王国ですよ? まして、表舞台に一切出ぬ王宮付きの魔女に、どうやって接触出来ましょう」
「では、アーネストとトビアスの横暴を見て見ぬふりでもしろと言うのか?!」
「まぁまぁ、落ち着いてください。リディア殿、話は最後まで聞くものですよ」
今度はライオネルが、リディアを制した。
半分納得していないリディアは、眉間に皺を寄せて、渋々椅子に座り直した。
「魔法の文の話に戻りましょう。漆黒の魔女フィアメッタは、王宮――とりわけ、盲目の義兄ジョセフの補佐的な役割も担っているようです。私もジョセフには何度かお会いしましたが、かなり頭のキレるお方でした。アーネストが標的にした理由も分かります。何しろ、見えなくても、凛とした佇まいと威厳はそのままなのです。もし仮に目が見えていたなら、ジョセフはきっと偉大な王として長く王国を治めていたに違いありません。それくらい、指導者としての魅力に抜きん出ていたのですから。……目障りだったのでしょう。ロザリーの母、ルイーズ王妃の死も、仕組まれていたに違いありません。怪しいと分かっていても、内政干渉になると言われれば手出しが出来ません。アーネストは狡猾です。絶対に自分に疑いが向かぬよう、いや、向かったとしてもその言葉を消せるよう、何年も掛けて王国の実権を握っていったのです」
ライオネルはそこまで言うと、一旦ふぅと息をついた。
「気に食わない人間は、王族であれど排除する。それでも……、賢いジョセフは黙っていなかったのでは?」
佑が恐る恐る口にすると、「その通り」とライオネルは深く頷いた。
「フィアメッタが王宮に迎え入れられて程なくして、ロザリーに手紙が届くようになりました。魔法の文です。宛名の人物まで、確実に届ける魔法が掛けられていました。が……、フィアメッタは発覚を恐れたのか、念のためと思っていたのか、文字として差出人と宛名を記載しない方法をとっていました。我が国の宮殿付魔女ミランダに言わせれば、要するに、そういう大事な者は全部呪文の中に組み込んでいるのだと。届いて、開封されているかも確認しているはずだとも話していました。手紙の実物は……、残念ながらお見せできません。何度か読むと消えるのです」
「なるほど。時限装置付きの手紙……。フィアメッタも考えたな」
「ええ。私も、何度か消える瞬間を拝見しました。パッと燃えて消えてしまうんです。証拠が残らないよう、入念に魔法が掛けられているんです。そして、問題なのはここから。手紙の文章を綴っていたのは、フィアメッタではなく、盲目の前王ジョセフ」
「ジョセフは書けない。代筆か」
「恐らくは、ジョセフの指示でフィアメッタが手紙を送ってきていると、こちらも考えました。内容は、殆ど王宮内部での他愛ない出来事や王家の近況。ジョセフが王位に就いてからも、退いてからも、ずっと変わらず届いています。最初は……、若くして嫁いだ妹を心配して、寂しくないようにと配慮下さっているとばかり。しかし、それにしてはおかしいと感じる文面もありました」
「私とライオネルが二人で王宮にお呼ばれしたことまで、詳細に書かれてあって。――つまり、あの一連の手紙は、私に向けて書かれていたものではなかったのです」
最後にロザリーが付け足すと、リディアと佑はハッとした。
「もしかして、ロザリーと紗良に向けて、同じ内容の手紙を?」
「フィ……、フィアメッタが考えそうなことだ」
リディアは大きく息をつき、ごちゃごちゃになった頭の中を必死に整理し始めた。
「魔法の文は、特定の相手に届けるために、魔法使いや魔女が使う魔法のひとつ。強力な呪文を乗せることで、開封確認や読了確認も可能なんだ。一方的に送り付けることも、返事を強要することも出来る。――フィアメッタは、セリーナの所在と安否を確認していたのだと思われる。何処かで生きていると、確信したのだ。ロザリーに同じ内容の手紙を送っていたのは、王国から出ずとも、自分やジョセフの意図をロザリーに伝えるため。手紙は、セリーナにも届けているよと伝えていたに違いない。フィアメッタは無言で関係者と情報の共有を図っていたんだ……!!」




