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君の世界を巡る旅  作者: 天崎 剣
【6】森を抜ける

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4. リュウ

 朝になっても、まだ風は強く吹き荒れているようだった。小さな窓の外は真っ白で何も見えない。リディアは外に出たと聞いたが、この分だと、遠くに行かずに周辺で話を聞く程度で済ませたのではないかと、佑にも容易に推測できた。

 身支度を終えて宿屋のカウンターへ行くと、飲み屋の方に案内された。

 明るいうちは村の女達が食堂を開いているらしく、朝と昼はそこで食べるようにと促された。


「そもそもご飯食べられる場所が、村にここしかないんだって」


 スキアはリディアに先に聞いていたらしい。なるほどと納得しながらドアを開けると、昨日と同じ席にリディアが座って待っていた。


「起きたか。随分ゆっくりだな」


 昨日の酒はすっかり抜けたのだろうか。リディアは手を軽く上げ、佑に合図した。


「体調、大丈夫ですか」

「誰に聞いてるんだ。こう見えて酒豪なんだぞ」

「酒豪だったら、あんな量であんな倒れ方しませんよ。リディアさんは今後、酒類禁止です」

「はぁ?! タスク、お前なぁっ!!」


 困惑して佑に突っかかっるリディアだったが、佑ではなく、客の方から笑い声が上がった。


「魔女の嬢ちゃん。ありゃあ、お連れさんに止められるよ。初めて酒、飲んだのかい?」


 村は狭い。

 昨晩と同じ客がいたのだろう。何人もが笑い声を漏らしていた。


「は、初めてなもんか! クッ……!! 身体が縮まなければ、エールならジョッキで十杯以上、リヤ酒の瓶なんぞ何本も空けられたのに!!」

「はいはいはいはい。分かりました。とにかく、禁酒してください。身体が追いついてないんです。昔を懐かしんだところで、今の身体じゃ無理なんですよ。リディアさんに倒れられても困りますから、絶対に禁止です」

「ぐぬぬ……、タスク如きに注意されるとは……。それより、タスクもだいぶ飲んでいたように見えたが?」

「まぁ、それなりには頂きました。美味しかったですよ、色々と」


 よいしょと椅子を引いて、リディアの向かい側に座る。スキアも一緒に席に着いて、椅子から足をぶらぶらさせた。


「リディア、腹減った。タスク、全然起きなくてさ」

「スキアは起こし方、上に乗る以外の方法は知らないのかな。重みで気持ちよくて、なかなか起きられなかったんだよ」

「ジョリジョリもしたじゃん。あと、狼ん時はベロベロしたよ?」

「ジョリジョリとベロベロはあんまりいい起こし方じゃないなぁ。普通に揺さぶってくれるといいんだけど」


 あははと苦笑いしていると、リディアがふふんと頬を綻ばせていた。


「どうか、しました?」


 リディアの変な顔に、佑は思わず聞いてしまった。


「いやいや。溶け込むのが上手いなと」

「溶け込む?」

「相手に警戒心を持たせないのが上手い。最初から壁などないと自分を晒け出しておけば、なるほど、相手は警戒心を持たないで済むという訳か。やるな」

「俺は何もしてないですよ。それより、昨日のお代は払いました? ちゃんと払ってくれないと、食い逃げと同じですからね」

「案ずるな。朝一番に払いに来たわ。夜のヤツに渡してくれって、迷惑料含めて多めにな」

「多めには良いですけど、かなりのどんぶり勘定ですよね。まぁ、俺の金じゃないんで知りませんけど」

「だから、金の心配はするなと言った。全く、面倒臭い男だな……」


 面倒臭いと言いながら、リディアはちょっと嬉しそうだ。

 一人、食後の茶を飲みながら、口元を緩ませている。

 と、リディアの後ろから、恰幅のいい中年の女性給仕がずいっと現れた。手にはお盆が二つ。佑とスキアの席にひとつずつ置いて、


「お泊まり用の朝食、二人分ね」


 ニカッと笑いかけてくる。


「ありがとうございます。シリアルかな。こういうの、好きです。いただきます」


 佑は両手を合わせて、軽く頭を下げた。

 スプーンを持ち、食べようとしたところで、


「それ、あの子もやってた」


 女性給仕は佑を真似て、両手を合わせて見せた。


「あ、これですか? いただきますの挨拶ですよ。食べ物と、それを提供してくれた人達に感謝するんです。これから美味しくいただきますねって」


 やはり日頃の習慣は抜けなくて、ついつい無意識に手を合わせてしまう。

 もしかしたら、指摘される前も食事の度に手を合わせていたのだろうかと考えたが、分からなかった。そのくらい自然に、身体が勝手に動くのだ。


「あ! そういえば……」


 佑は一旦スプーンを置いて、懐からスマホを取り出した。

 電源を入れ、写真アプリを開く。


「昨日、飲み屋のマスターにも見せれば良かったな。酔ってて頭が回らなかった。あの、昨日までこの村に滞在してた少年って、この子で間違いないですか」


 喋りながら手元でスマホを弄る様子はだいぶ奇異に見えたのだろう。給仕の女性も店の客達も、立ち上がって覗き込んできた。

 スマホの画面に映ったものが変わる度に、おぉと感嘆の声が上がった。


「この子。俺の息子の竜樹です。どうです? 分かりますか?」


 スマホの画面を女性給仕と他の客らに見せながら、佑は反応を確かめた。

 まじまじと、色んな人がスマホの画面を覗く。


「こ、この子この子!!」

「あんたやっぱり」

「その魔具、リュウも持ってたよ!!」


 誰かが言った。


「リュウ? 竜樹じゃなくて?」


 眼をぱちくりさせていると、すかさずリディアが答えた。


「馴染みのない名前だからかも知れんな」

「そりゃあ、日本名ですから……」

「リュウキ、リューキ、リュキ……、そういう発音の名前はルミールにはないんだ。だから耳にも入ってきづらい。リュウなら、まぁ分かる」

「ま、確かに呼びづらい名前は省略とかしますけど。なるほど……、じゃあ、竜樹はリュウと名乗って……」


 新たな情報だ。

 それにしても、スマホの存在は大きい。モバイルバッテリーを手に入れたのも手伝って、こうやって竜樹の写真を見せれば、本人だと確認するのもスムーズになる。


「村で竜樹はどんな感じでした? 馬の世話とか……、出来てました? 乗ったこともないのに、馬で移動してるって聞いて、心配だったんです」


 竜樹だと確認出来ると、どうしているのか更に気になってくる。

 朝食そっちのけで前のめりになる佑のシリアルとミルクを、スキアは舌舐めずりして狙っている。


「ん?」


 リディアが気付いて、そっと伸びたスキアの手をペシッと払った。


「タスク、息子のことが気になるのは分かった。先に食え。スキアが底なしの腹を鳴らして狙ってるぞ」

「えっ……!!」


 言われるまで佑は気づかなかった。


「た、食べます食べます!!」


 シリアルにミルクを注ぎ、スプーンで掬ってパクッと食べた。


「お、これは意外といける」


 雑穀とドライフルーツ、豆類の混ざったそれは、そういえば紗良の好きな朝食だった。

 色んな栄養が満遍なく摂れるよと、教えてくれたのが紗良だった。


「えぇ〜。オレ、もっと食いたい」


 スキアが口を尖らせると、


「こいつにパンと、何か肉料理を作ってくれ。出来れば腹にずっしりくるやつ」


 リディアは笑って、女性給仕に料理を追加注文した。

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