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君の世界を巡る旅  作者: 天崎 剣
【3】竜樹の行方

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4. 極悪人

 王国は、二十年前に第一王女セリーナを逃した王宮付きの魔女リディアを捜している。追っ手から逃れ、ずっと身を潜めて暮らしていた彼女が旅に出ようとしている。その意味を、佑は噛み締めていた。

 やはりリスクが大き過ぎるのではないか。幾ら手練の魔女でも、無事では済まされないのでは。

 町の人々の会話に垣間見えるのは、決して穏やかではないアラガルド王国の現状。あまり聞きたくは無いが、やはり宰相による権力の独占は続いているということなのだろうか。だとしたら、やはりリディアは旅に出るべきではないのでは。

 そう思うと気が気でない。


 あまり感情を表沙汰にしないリディアの、本当の心の内は分からない。が、自分の都合で良くない方向に未来が進んでしまう可能性があるならば避けたいと思うのが人間だ。

 わだかまりを抱えたまま進むのはよくない。

 だが、かと言ってリディアは、そんな佑の言葉を取り合おうとはしないのだ。






 *






「宝石屋の店内には、ある程度身元の確かな人間か、石の精霊に信頼されている人間しか入れない。高価で窃盗の恐れもある宝石を売るのに、怪しいヤツの出入りを許す訳にはいかないからな。大抵の宝石屋は魔女か魔法使いを雇う。そして、強力な魔法で、店内に入る人間を選別する。石を持つ人間は、精霊に信頼されなければならないからだ」


 宝石屋の扉の前で、リディアは佑にそう話した。

 他の店とは違い、頑丈な煉瓦造り。

 セキュリティシステム代わりに魔法を使っているなんて如何にも異世界だが、自分が弾かれたらどうしようと思うとハラハラする。

 佑はゴクリと唾を飲み込んで、リディアに続いて店内に足を踏み入れた。

 ――難なく入れた。ホッと胸を撫で下ろす佑を、リディアは笑った。


「なんだ、タスク。まさか弾かれるとでも思ったか」

「お、思いますよ。俺はルミールの人間じゃないし、精霊に怪しまれたらって思ったら気が気じゃなくて」

「自己評価が低過ぎるぞ。魔法の臭いをプンプン漂わせておいて、何が精霊に怪しまれたら、だ」

「――リディア、珍しいな。使い魔の狼はどうした」


 ふいに声がかかる。

 カウンターの向こう、片眼鏡の店主がリディアに微笑んでいる。


「あぁ。スキアのヤツならその辺に」


 リディアは言葉を濁し、目を逸らした。

 店主の隣には黒いローブを羽織った金髪の魔女。大人の魅力溢れる豊満な胸と腰のくびれを強調させたような服が印象的な彼女は、防寒着でパンパンに膨れたリディアをフフンと笑った。


「あんたねぇ。やっと手に入れた使い魔なんだから、もっと大事にしなさいよ。あんたのことを守って消えた使い魔達のこと、忘れたの? たった二十年前のことじゃない」

「忘れるわけがなかろう。……ったく、カヤ、お前はいちいち私のことを気にかけ過ぎなんだよ。私は私で上手くやってるんだから、放っといてくれ」


 カヤと呼ばれた金髪の魔女は、カウンターを出てそろそろとリディアのそばに寄ってくる。


「放っといてくれって言われてもねぇ……。ところであんた、こんな趣味だった?」


 カヤは佑にずいっと顔を近付けて、品定めするようにジロジロと顔を覗き込んだ。


「近っ! 近いです……!」


 身体を仰け反らせて必死に距離を取ろうとする佑に、カヤは遠慮なしにグイグイ迫った。


「不合格」

「ええ?!」

「リディアには似合わない。不合格。王国騎士か公爵ぐらいじゃないと釣り合わない」

「へ?」


 石を買う資格がないのかとハラハラした佑は、思いも寄らぬカヤの言葉に拍子抜けした。


「何を勘違いしているのだ、カヤ。タスクはそういうんじゃない。かの地から息子を捜してルミールに迷い込んだんだ。一緒に旅に出るんでな、こいつに何か丁度良さそうな石を選んで貰いたいと思ったのだ」

「旅に出る? あんた正気?!」


 リディアはカヤに一瞥をくれて、カウンターに座る店主に声を掛けた。

 自分を無視するリディアに、カヤは顔を真っ赤にして声を荒らげた。


「リディア! あんた今度こそ死ぬかも知れないよ。今王国がどうなってんのか知ってるんでしょ?! エナの人達はみんなあんたのこと知ってるけど、こっから離れれば、あんたは国家転覆を謀った極悪人だ。殺されるよ。あんなに王家を愛し、長い間尽くしてきたってのに……!」

「極悪人。凄いな。どんどん膨れた噂話はそんなことになってるのか」

「本気で心配してるの。分かる? あんたはいつもそうやって何でも抱えて」


 宝石どころではない。

 佑はカヤの話が気になって、無意識に二人の表情を追っていた。

 極悪人? リディアが?

 こんなにも優しくて懐の深いリディアが、国家転覆を謀った罪で追われてる?

 王国は、一体どうなってしまったんだ。


「極悪人でも構わないさ。あの頃とは容姿も違うし、使い魔も変わってる。見つかっても誤魔化せるだろう」


 リディアはカヤの顔を見ようとしなかった。目線を店の奥に向け、表情一つ変えないで淡々と答えている。それがまた、佑の目に痛々しく映った。


「無茶をして失った力も戻ってない。最強だったかつてのあんたじゃなくなってんの。旅 に出て、もし仮に王国に近付くことになれば……!!」

「気にするな、カヤ。私はあの日運悪く生き長らえたのだ。生きてしまったからには、私はあの方の願いを、あの方の息子を、守らなければならないんだ」

「……ハァ? どういうこと? 捜してるのは、このタスクとかいう男の息子でしょ?」

「そう、タスクの息子だ。だが、あの方の息子でもある。――宝石屋、頼めるか?」

「それは勿論。じゃあ、タスク。こちらへどうぞ」


 店主に促され、佑はカウンター前に並んだ丸椅子の一つに遠慮がちに座った。

 カウンターの上に、占い師が持っていそうな大きめの水晶玉が一つ。向こう側の景色が、上下逆さまに映っている。

 壁際の棚には、指輪やネックレス、原石の欠片などが色ごとに分けられ綺麗に並べられていた。この世界では貴重品であるはずのガラスの扉が付いた棚もある。

 カウンター奥には加工用の機材や仕事道具も見えた。売るだけではなく、この場で加工もしているようだ。


「ちょ、ちょっと待って! リディア、あんた何言ってんの。あの方ってどういうこと?」


 カヤがリディアの前を塞ぐのが、佑の視界に映り込んだ。


「言葉通りだ。タスクは、あの方の夫らしい。息子を追ってルミールに迷い込んだ。あの方に、何かを聞かされていた可能性がある」

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