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君の世界を巡る旅  作者: 天崎 剣
【3】竜樹の行方

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3. お尋ね者

 武器屋に入ると、屈強な店主がギロリと佑を睨んだ。


「リディア。なんだそのひょろひょろは」


 中肉中背だと思っていた佑は面食い、数歩後退った。

 剣や槍、弓、斧、それから小型のナイフ。何種類もの武器が所狭しと並ぶ店内はただでさえ威圧感があるのに、店主さえ巨漢だった。圧倒された佑は、肩に力を入れてしまった。


「もう少し人を選んだらどうだ。こんなひょろひょろじゃあ、いざと言う時守ってはくれんだろうに」

「護衛に雇った訳じゃない。一緒に人捜しをしてるんだ」

「人捜し?」

「こいつの息子だ。かの地から迷い込んだ少年、見かけなかったか?」


 かの地、と聞いて武器屋はぴくりと反応した。


「さあな。それよりリディア。このひょろひょろに何を装備させようってんだ」

「初心者向けの剣か何か。とりあえず身を守れればいい」

「剣なんか握ったことのなさそうな顔をしてる。農機具の方が似合いそうだぜ?」


 農機具、と聞いて今度は佑が一瞬顔を険しくした。

 が、リディアが確認した時には、いつもの頼りなさそうな佑に戻っている。


「言いたいことは分かるが、もう少し言葉を選べ」


 リディアはフォローするつもりだったろうが、それはそれで佑の心がズキっと痛んだ。

 しかしなぁと、武器屋は大きくため息をつく。


(くわ)とか(すき)とか、頑張ったところでその程度しか振り回せんようなひょろひょろだ。いや、農夫に失礼な言い方だな。まともに筋肉を使ったことのないような身体をしてる。初心者向けったって、持たせるだけムダじゃあないのか」

「無理を言って悪いが、私にも一緒に行く理由がある。無理やり雇った護衛じゃない。スキアがいれば、大抵の魔物は近付いてくることもない。本当に万が一の時に武器がないと困るから言ってるんだ。頼むよ。私とお前の仲ではないか」


 リディアに迫られ、武器屋は渋々と頷いた。


「……仕方ない。けどな。追っ手に見つかったらどうする。奴ら、魔物より厄介だ。まだお尋ね者扱いなんだろう? リディアがこの町に来るようになってから二十年。だいぶ世話になったし、いくらでも協力はしてやりたいが、その結果リディアが危険な目に遭う可能性があるなら反対だ」

「すまないな。心配させてしまって。これでもルミール随一の魔女なんだ。多少の追っ手は魔法で追い払える」

「身体が縮んで力が弱まったって聞いてるけどな。本当に無理するなよ」


 武器屋は納得していないような顔をしながらも、佑が使えそうな軽めの両手剣を用意してくれた。軽めとは言っても、雪掻き用のアルミのスコップより重い。両手で持ち上げてみるが、重さで二の腕がフルフルした。


「こ、これを振り回すんですか」


 持つだけで顔が引き攣る。

 余りにも弱々しい佑に、武器屋は呆れたように一段と深いため息をついた。


「どうしても一緒に行かないとダメなのか。一人で行かせりゃいいじゃないか」

「そういう訳にはいかないんだ。……それに、タスクはこう見えて信頼出来る男だ。もしものことがあっても、上手く切り抜けるだろうよ」


 リディアが静かに微笑むと、武器屋は観念したように、両手を上げた。


「意思が固すぎる。お手上げだ。餞別に短剣をおまけするから、タスクとやら、リディアを危険な目に遭わせるようなことだけはやらないでくれよ」

「勿論です。善処します」


 堂々と答えながらも、佑の顔は強ばっていた。






 *






 店を出てしばらくしてから、佑は武器屋で渡された短剣をそっと確認した。細かい装飾の鞘に入っていたそれは、柄の部分も握りやすく、餞別にしては高価に思えた。


「良いんですかね。俺が貰って」

「くれると言うのだから貰えばいい」


 佑は渋々と短剣をベルトに差し、マントで隠した。

 お守りにしよう。背中に背負った剣共々、鞘を抜くようなことがありませんようにと静かに祈る。


「次は宝石屋だ」


 淡々と用事をこなそうとするリディアの背中は、なんだか少し物悲しい。


「あの」


 佑が声をかけても、リディアは無視して先を進んだ。

 慌てて追いかけリディアの前に出ると、彼女は目を丸くして立ち止まった。


「お尋ね者、なんですか」


 人通りの少ない時間帯ではあったが、出来るだけ周囲に漏れ聞こえないよう、静かに訊く。


「……そうだ。アラガルド王国の兵が私を追ってる」


 リディアは表情ひとつ変えなかった。


「エナの町の住人達は、事情を知ってて見逃してくれているんだ。私はそれに、香草や香辛料、魔法や知恵で応える。長年の付き合いだからね。皆、色々と察してくれる。武器屋があんなことを言ったのは、そういう理由だ」


 佑は絶句した。

 なんと声を掛けるべきか。

 言葉の代わりに白い息がたくさん漏れた。


「……気にするな、タスク。良い機会を貰ったと感謝している。先を急ごう」


 前を塞いでいた佑の横をリディアは無表情で通り過ぎた。

 セリーナ王女を逃がしたという罪は、それほどまでに重いのかと思うと、佑の胸は強く締め付けられた。

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