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君の世界を巡る旅  作者: 天崎 剣
【15】精霊石に誓う

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4. アーネストという男

「まさかセリーナ王女がかの地に逃れていたとは……。トビアスめ、中途半端な魔法を使いおって……」


 片手で顔を覆い、笑いを堪えるようにして、アーネストは辛辣な言葉を吐いた。

 既に礼拝堂は儀式どころではなくなっていた。

 アーネストの本性と罪を暴くための舞台となった。

 会合に出席した要人達は、それぞれ自国の誰かが騒ごうとする度に、落ち着くよう諭して回った。誰かが邪魔をしてしまえば、貴重な断罪の場が失われてしまうのではないかと警戒するかのように。


「よくもまぁ……、ここまで戯言を並べられたものだ。……ククッ。何が不敬だ。野蛮で愚かなルミール人めが。しかも協力者に日本人とは。聞いて呆れるわ」


 アーネストはぐしゃぐしゃと髪を掻きむしり、肩を怒らせてニタッと顔を歪めた。

 その表情のおぞましさに、リアムは思わず仰け反った。


「ルミール人とか日本人とか、何か関係ありますか。みな等しく幸せになる権利があるじゃないですか」


 佑は怯まなかった。

 金と権力に塗れて地の底に堕ちる人間がたくさんいることくらい、仕事で何度も目の当たりにしていたからだ。

 元々そういう素質があるのか、途中で何かが変わるのか。

 自分の努力とは違うところから手に入れたもの程、何故か人間は手放したがらない。


「――知らんな。平等に権利が与えられるのならば、私は何故こんな時代遅れの世界に飛ばされたのだ。この何も無い世界で私がどれだけ絶望したか、貴様には分かるまい!! 血を吐くような努力をして、私は宰相にまで上り詰めた。私は平等など許さない。力は在るべきところに在るべきだ。この世界で血筋が力の象徴ならば、その流れに乗って我が血族を最高位にするまでのこと。精霊石がその力を与えると言うならば、私が奪い取ってやろうと、思ったまで。王女の夫だか何だか知らないが、貴様のような価値の無い人間に、私の全てを否定されて溜まるものか!!」

「――タスクは、価値の無い人間ではない!!」


 佑の視界に、長い銀髪がふわりと揺れた。


「リディアさ……」


 そこまで言って、佑はリリーと呼ぶべきだったかと一旦躊躇した。

 が、一歩前に出てちらと振り向いたリディアは、佑に優しい目を向けていた。


「リディア? 傾国の魔女リディアか?! ハハハハハ!! これはこれは、随分とみすぼらしい……」

「ああ、笑うが良いさアーネスト。貴様がやりたい放題やってくれたお陰で、私はすっかり自信をなくし、力を使い果たしてこんな姿になったのだ。私がどうにかあの方をかの地へ逃さなければ、もっとおぞましい結果となっていたはずだ」


 リディアは、佑の腕を細い手でギュッと握り、そのままグンと、佑の手を高く掲げた。


「皆の者!! 聞くがいい!! あくどい宰相アーネストによって無実の罪を着せられ、かの地に逃れるしか生きる方法が亡くなった彼女を、この男は救ったのだ!! 最後の最後まで王女はこの男を愛した。そして愛する妻の死の真相を確かめるため、王族の血を引く王子と共に、はるばるかの地からこのアラガルド王国までやって来たのだ!! この男こそが……タスクこそが勇者であり、国家転覆を謀る極悪人なのは貴様だ!! アーネスト!!!!」


 ビシッと、リディアはアーネストを指差し叫んだ。

 しかしまた、アーネストは笑った。笑って笑って、その悪辣な笑い声を礼拝堂の隅々にまで響かせた。


「アハハハハハッ!!!! 極悪人? 私が? 何のことか全く分からんな。良いか、融通の利かない愚かな魔女よ。歴史というものはな、勝者によって紡がれるのだ。強い者が勝ち、強い者が正義となる。弱者の正義など、歴史の前では何の意味も果たさぬのだ。アラガルド王家が私に潰されるのは、弱いからだ!! 信じるだの疑うなだの。弱気者の戯れ言など、一切意味がない、無駄でしかない。弱いから強者の意見を鵜呑みにする。弱いからつけ込まれる。アラガルドの王家の、実に脆いこと!! 王宮に入り込むのも、王の信頼を勝ち取るのも簡単だった。貴族連中は落とすのがもっと楽だった。王妃と王子に毒を盛るのも、第一王女に罪を被せるのも、王宮付きの魔女のせいにするのも、簡単すぎて笑いが止まらなかった。だがな……、私は宰相などで満足出来る人間ではないのだよ。魔法……? 精霊……? かの地の人間であるからなのか、私には一切縁のなかったそれを、私はどうにか手に入れたい。この世界で一番強力で、万物を統べる程の力を持つという精霊の王が宿る石――、この石の力が手に入れば、私とて魔法を操り、ひいてはアラガルド王国のみならず、この世界(ルミール)の全てを手に入れられるのではないか。そう思い出したらもう、止まらないのだ。年に一度、精霊祭の日に誓えば良いのだろう……? 誓い、認められれば王になれると」


「そんな簡単なものではありません!! アーネスト、あなたは勘違いしている!!」


 リアムは大きく手を広げ、精霊石とアーネストの間に立ち塞がった。


「違う。誓えば良いのではない!! 精霊王は全てを見ている!! 簡単に誓えばいいわけでは、決してないのです!! 何十年となく王宮に仕えていれば分かるはずですよ、アーネスト……!!!!」


 アーネストはもう、止まらなかった。

 タスクは大きく左手を挙げ、各国の要人達に合図した。


「アーネストを止めろぉおぉお――ッ!!!!」


 セイス辺境伯領のニコラ・クリバー将軍が声を出すと、ある者は剣を、ある者は魔法を放つ準備を始めた。

 扉を守っていた兵士達が一斉に会衆席に雪崩れ込む。

 椅子を蹴り、人の背中を踏み台にして飛び上がり、祭壇目掛けて一斉に蜂起する賓客達。


 ……――かつて、王の座を狙った者が、精霊祭に王の暗殺を試みたのは百年以上前の話。

 精霊石を手に入れるということは、世界(ルミール)を手に入れるということ。

 強大な魔力を持つ精霊石の力を、アラガルドの歴代の王は決して使おうとしなかったが……、その者は欲に駆られ、精霊石に触れたのだ。


 その結果何が起きたかを、ルミールの人間達は昔話で伝え聞いていた。

 精霊石はただの石ではない。

 強欲な者には決して正しい力は与えぬと。






 そして……、死よりも恐ろしい罰を与えるのだと。

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