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君の世界を巡る旅  作者: 天崎 剣
【14】ルミールのために

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7. 毒

 午前中の早い時間だったとは言え、教育施設の話でそれなりに時間を割いていた。

 リアムは儀式の準備に行かなくてはとソワソワしていたし、他国の要人達も、別の用事があったかも知れないし、城下の賑わいを堪能したかったかも知れなかった。

 それでも、佑が順立ててセリーナ王女――紗良とリディアの潔白や、追放の顛末を話していくと、次第に表情が変わり、その場に張り付けになっていった。

 こういう時は、私情を挟まない方がいい。

 だから佑は淡々と、リディアやフィアメッタ、ロザリーに聞いた話を整理しながら、出来事だけを並べて話した。

 しかし、そうして感情抜きで話せば話す程、アーネスト・ボルドリーという男の不可解さやあくどさが露呈してゆくのだった。


「もしそれが本当なら、ルイーズ王妃は……」


 エドウィンは眉根を寄せ、額に手を当てて深く息をついた。


「毒殺だと思います。証拠は……、王妃の墓にあるのでしょうが、この世界(ルミール)の科学ではまだ、解明できない」


 佑は辛い現実を、表情ひとつ変えずに静かに話し続けた。


「鉱物にも毒素を多く含む物がたくさんあります。……が、殆どの人間はその恐ろしさを正しく知りません。鉱山で出稼ぎ労働者が早くに体調を崩したり、病気になったりするのは、粉塵の吸い込みや毒性のある物資を皮膚から吸収した事が原因だと考えられます。健康に気を遣われ、とてもお元気だったというルイーズ王妃が病に伏せた時、どんなご様子だったのか……、この場で知るのはジョセフ殿下のみだと思われますが……、どうでしたでしょうか」


 小さな唸り声や衣類の擦れる音が響くくらいには、部屋の中は静まり返っていて、目元を隠して肩を落とすジョセフが小さく震える音すら聞こえてきそうだった。

 しばらくの沈黙と、長く苦しいジョセフの息が続いたあと、


「……急に、弱りだしたのは覚えています」


 当時の記憶を捻り出すように、ジョセフは語り始めた。


「最初は、肌の調子がおかしいとか、爪の様子がおかしいとか。鉱山で働く者によく見られる症状だとは聞いていたのですが、母はそういうものには一切縁がなく……、不思議に思っていました。……そうこうしているうちに、次第に咳き込むようになり、よく……お腹を下すようになっていきました。私は当時まだ子どもで……、何か悪いものを食べたのじゃないかとか、お忙しくて無理をなさっているのではないかとか、そういうことしか考えられませんでした。徐々に弱り……、熱を出されたり、息が苦しいと訴えることが多くなって。終いには嘔吐と下痢を繰り返し、痙攣し、髪の毛が……ゴッソリと抜けました。美しかった母は、それを見て狂ったように喚き散らして――……、私は妹達を、母から遠ざけました。見せたくなかった。とても……、見てはいられなかった」


 ウッとジョセフが声を詰まらせると、屈強な男達も唇を噛み、何も喋れなくなった。


「王宮に出入りしていた薬師に訊ねても、そんな病気は見たことも聞いたこともないと言うし……。 身体を冷やして休ませてはとか、栄養のあるものをとか、……とにかく、どうしたら良いのか分からなくて。呪いではないかとリディア先生にも相談したのですが……、魔法や呪いの形跡はないと」

「ヒ素中毒に……、似てますね」


 佑がぼそりと言うと、竜樹が隣でエッと声を上げた。


「誰かがヒ素を盛ったってこと?」

「なんだ、そのヒソ(・・)というのは」


 ディエズ公爵が訊ねるので、佑は「毒の一種です」と静かに答えた。


「私も……詳しくはないのですが、ヒ素は岩石や土壌……土の中にも存在する、ありふれた物質です。微量ならば健康に害はないんですが、大量に摂取するとかなり危険で、最悪、死に至ります。毒性が強いので、害獣を殺したり、虫を殺したりする薬として使われることもあったようですけど、これが人間の口に入れば……、当然、健康を害します。かの地でも暗殺に使われていた毒ですから、十分有り得ると思いますよ。王妃の食べ物や飲み物に少しずつ混ぜ込んだり、差し入れだと言ってヒ素入りの何かを手渡しさえすれば良いんですから」

「王宮に出入りしていた人間にしか、……為し得ない」


 ディエズ公爵領のスコット王子がぼそりと言うと、確かにと皆顔を見合わせた。


「王妃に警戒感なく食べ物を差し出せる立場の人間は、そう多くありませんからね。可能性は大きいと思います。それと……、多分ジョセフ殿下も、別の毒を盛られた可能性が大きいですね」


 佑が言うと、ピクリとジョセフが肩を震わせ、リアムがゴクリと息を呑んだ。


「別の……毒?」

「多分、ですけど。王妃と同じ物だと、バレるじゃないですか。疑われたら困るから別の毒を盛って、王妃の時とは違う者の犯行を装ったか。もしくは、王妃があまりにも苦しんで亡くなったので、別の致死性の高い毒を使おうとしたとか。それだって、どんな毒かは分かりませんが、中毒症状によって視神経に障害が起きて、目が見えなくなってしまった話は、かの地でも聞いたことがあります。神経毒の一種を使われた可能性は高いですね」

「毒……、毒、ですか……」


 ジョセフの顔は青かった。

 あまり楽観視してはいけないような気がして、佑は考えられる最悪な予想を提示した。

 確か、自然界には存在しなくて、特別な方法で精製しないと作れない毒で……、そういうのがあったはずだ。


「私は失明で済んだと……、そうも言えますよね。殺し損ねたのだとしたら、私のことを、()はずっと、疎ましく思っていたのでしょうね……!」


 光の届かない眼光を鋭くして、ジョセフはゆっくりと顔を上げた。

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